蜷川幸雄に扮した小栗旬。『もしがく』10話場面写真©フジテレビ
 小栗旬、筋肉育ったなあ。Netflix『匿名の恋人たち』を見ても、来年放送の大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)の第一話の試写を見ても、胸筋や上腕筋のたくましさに目が行く。

 セレブの社長や織田信長役であればふさわしい役作りという気がするが、『もしがく』こと『もしも世界が舞台なら、楽屋はどこにあるだろう』(フジテレビ系 水曜夜10時〜)での蜷川幸雄役にはやや、カラダでかすぎという印象があった。
◆蜷川幸雄役を小栗旬がやる必然性

 世の中を斜めに見ている屈折した眼差しやカラダの角度はさすが、二十代の頃、蜷川の演出を受けていただけあって、よく観察し再現している気がしたし、面長の顔が似ていないとも言えなくもない。だが、ちょっと大きかった。蜷川は、二十代の小栗にあんまりカラダを鍛えないほうがいいと言っていたのだが、まあもう彼も四十代だから、当時とは状況も違うだろう。

 それよりも、『もしがく』の主人公・久部(菅田将暉)が尊敬する蜷川が演劇を見に来て久部を舞い上がらせる。その蜷川を小栗が演じたことは教え子であるとか、三谷幸喜作品にも『鎌倉殿の13人』をはじめ出ているという必然性のほかに、もうひとつエピソードが浮かぶ。

◆幻になった蜷川×小栗主演の『ハムレット』

 筆者が聞き手になった蜷川の『身体的物語論』(18年、徳間書店)に小栗と蜷川のことが記されている。

<09年『ムサシ』以降、蜷川の舞台に出ていなかった小栗は、13年に蜷川と対談したことをきっかけにもう一度一緒に仕事をしたいと考えるようになっていた。

「一度、同じ事務所の高橋努(元ニナガワ・スタジオ)が出ている『海辺のカフカ』(14年)の稽古に見学に行って、タイミングを見計らって蜷川さんともう一度芝居をしたいとお願いしたんです。最初、僕は『マクベス』をやりたいと言ったんですよ。でも、すでに市村正親さんで『NINAGAWAマクベス』をやることが決まっていて、それはできないと蜷川さんに言われてしまいました。

その後、蜷川さんから電話がかかってきて『「ハムレット」をやろう』と言われました。でも『ハムレット』も(藤原)竜也がやることになっていたし……。さっそく竜也に電話して『蜷川さんにそう言われたけどいい?』と確認したら『おもしろいじゃないか』と快諾してもらいました。

蜷川さんは「2012年・蒼白の少年少女たちによる『ハムレット』」のときの地下があるセットが気に入っていたみたいで、次にやるときも、何もない素舞台で、地下のある美術を考えていたようです。キャストは僕と、オフィーリア、クローディアスは決まっていましたが、あとはわかりません。(後略)>

 蜷川が亡くなったので小栗の『ハムレット』は幻になった。

◆「大切なのはノイズ。予定調和は罪悪」

 『もしがく』では久部は『マクベス』や『ハムレット』について語っていて、いつか『ハムレット』をやりたいと考えている。久部の名前といい、ドラマのなかでは『マクベス』のストーリーのオマージュのような部分も随所にある。でも蜷川の演出で『マクベス』も『ハムレット』もやることができなかった小栗が蜷川をやることになんともいえないしんみりしたものを感じざるを得ない。

 いや、『ハムレット』には出ている。それが彼と蜷川の出会いであった。03年、ハムレットに代わる次世代の王子フォーティンブラスを演じたのをきっかけに、小栗旬は蜷川の演出作に多く出て、英国デビューも果たした。

『もしがく』で小栗が演じる蜷川は久部に語る。

「演劇はね猥雑であるべきなんだ。そういう意味でストリップ小屋でシェイクスピア。最高だと僕は思いますよ」
「ノイズだ。ノイズ。大切なのはノイズ。予定調和は罪悪」