(写真:zapper/PIXTA)

【ランキング】防衛省との契約額が大きい日本企業は?


「わが国として主体的に防衛力の抜本的強化を進めることが必要です」

女性として初の首相に就いた高市早苗氏は10月24日、国会の衆参両院の本会議で所信表明の演説を行った。

安全保障重視の姿勢を鮮明にしながら打ち出したのが、防衛関連費の拡大方針だった。すでに急拡大中だが、さらにアクセルを踏み込むというのだ。具体的には、防衛関連費を「GDP比2%」にまで引き上げる時期を、現行目標から2年早めて「今年度中」にするとした。

10月28日には、来日したドナルド・トランプ米大統領が首脳会談で高市氏に「防衛費を増やすと聞いている。アメリカからの装備品の調達に感謝する」と伝えた。併せて来日した米防衛大手ノースロップ・グラマンのキャシー・ウォーデンCEOは東洋経済の取材に「防衛支出拡大の明言は心強い。パートナーの日本企業が防衛事業への投資を拡大していることにエキサイトしている」と語った。

「5類型」の撤廃を目指す

高市氏は武器輸出のあり方も変えようとしている。日本維新の会と交わした連立政権合意書には、輸出制限緩和について明記した。現在、輸出できる装備品は殺傷力の低い、救難、輸送、警戒、監視、掃海の目的のものに限定するという「5類型」の規定がある。この撤廃を目指すという。

防衛相には、圧倒的な知名度と発信力を誇る小泉進次郎氏を据えた。小泉氏はさっそく最新鋭の護衛艦を視察し、「(海外への)トップセールスを強化していきたい」と発信した。

株式市場は高市氏の首相就任を待つことなく反応した。自民党総裁に選出された時点で、防衛産業の関連株価は軒並み急上昇。2023年度以降の防衛予算拡大に伴って上昇してきた関連株価が、高市政権下でもう一段上に行くとの期待感が膨らんでいる。まさに「熱波」ともいえる状況だ。


開かれ始めた輸出の道

装備品輸出をめぐっては高市政権発足の2カ月半前にも、歴史的な大きな動きがあった。オーストラリア政府が三菱重工業製の護衛艦の改良型を、海軍で採用すると8月5日に発表したのだ。

これは11隻で計1兆円という巨額ディールとなる。日本にとって初の、攻撃能力を有する大型装備品の輸出で、業界内外に「道が開けた」との高揚感が広がり三菱重工の株価は急騰した。

時価総額は年初の7.5兆円から15.1兆円(10月27日時点)まで高騰している。三菱重工への追い風はこの11隻にとどまるものではなさそうだからだ。公表はされていないが、防衛省には、各国国防省からこの艦についての問い合わせや視察依頼が相次いでいるという。政府関係者は「ここまで反響があるとは思わなかった」と明かす。すでにニュージーランドが公に関心を示したほか、水面下では「東南アジアなどの複数の国からアプローチがあった」という。

今回の艦の輸出は、輸出制限「5類型」の枠からは外れているのに、なぜ輸出できるのか。理由は、同志国との共同開発・生産の形を取れば海外に移転できるという「裏口と揶揄されることもあるスキーム」(元防衛省局長)があるためだ。高市政権下で「5類型」の撤廃が行われるのであれば、もはや“裏口”を使う必要はなくなる。直近の株式市場での評価は、そうした強烈な追い風を先読みしている。

暗く長かったトンネル

日本の防衛産業を取り巻く環境は近年劇変した。しかし、ほんの数年前までは業界は暗く長いトンネルの中にあった。

企業の防衛部門は「稼げないお荷物」とささやかれ、国の防衛予算がほぼ横ばいの中、販路は防衛省・自衛隊に限られて収益性が低かった。事業撤退も相次いだ。18年にはコマツが装輪装甲車開発を中止し、21年には住友重機械工業が機関銃生産から退いた。

輸出に抑制的な政策下で、国際市場で製品や営業力を磨く機会も乏しかった。10年代半ばからはアメリカ製装備品の購入が増え、予算が国内企業に回りにくくなった。

そうした状況が一変した契機が政策の急転換だった。

中国が海洋進出を強め、北朝鮮がミサイル発射を続ける中、22年にはロシアがウクライナに侵攻。危機感を強め国防費の拡大方針を決めるEU各国に続くかのように、日本政府も22年末、防衛費の急拡大を決定したのだ。長く続いた「GDP比1%程度」から「2%」へ「27年度」に引き上げるとした。23年度の防衛予算(当初予算ベース)は前年度比1.3倍の6.8兆円に拡大し、26年度には8.8兆円に上る見通しになっている。


これに伴い企業の国との契約額も強烈な伸びを見せる。契約額トップの三菱重工では、23年度の防衛装備庁との契約額(中央調達ベース)が前年度比4.6倍の1兆6803億円に急拡大した。恩恵は大企業以外にも及ぶ。例えば小銃を製造する豊和工業(愛知県)では25年3月期の営業利益が前期比3倍超になった。



画像を拡大

政策の劇的変化は予算規模だけではない。政府は23年に「防衛生産基盤強化法」を成立させ、生産設備更新の資金サポートなど幅広い支援メニューを新設。ドローンやAIなど近年の軍事に欠かせない分野のベンチャー参入を促す取り組みも盛んに行っている。

数多くの懸念材料

ただ課題やハードルは多い。「長い業界低迷の後遺症で、急拡大を支える人材が質量とも足りていない」(自衛隊高級幹部)。輸出拡大を目指すにも、日本の防衛関連企業は国際市場での経験値があまりにも乏しい。

そもそも予算拡大を支える財源はまだ定まっていない。防衛力強化に当たって国産開発重視という方向にばかり進めば、“ガラパゴス化”が起きて予算効率が下がりかねない。予算の使途をめぐっては透明性を担保したうえで国会で熟議することが必須だが、政治家の中にも防衛関連の専門的知識を持った人材は少ない。

熱波の中にある防衛産業の前途には、課題が山積しているといえるだろう。

(伊藤 嘉孝 : 東洋経済 記者)