広末涼子「事故ネタ」TBSに欠けていた3つの思慮

(2022年撮影、写真: VCG/VCG via Getty Images)
TBSの特番『オールスター後夜祭'25秋』で、広末涼子の過去の交通事故をネタにしたクイズが出題されたことが波紋を広げている。番組では「次のうち、時速165キロを出したことがないのは誰でしょう?」というクイズが出され、選択肢の1つに広末の名前があった。
ほかの3つの選択肢はプロ野球の投手の名前だった。ピッチャーが投げるボールの「球速」と、交通事故の際の自動車の「速度」を並列するという悪ふざけが繰り広げられていたのだ。
この演出に対して、広末の所属事務所が「極めて不適切であり、本人および関係者の名誉を著しく毀損する行為」として強く抗議した。これを受けて、TBSは公式に謝罪文を発表する事態となった。
事務所が強く抗議した理由
この一件は単なる「バラエティ番組の行き過ぎた演出」では片付けられない構造的な問題を含んでいる。なぜ事務所はこれほど強い姿勢で抗議をしたのか。いくつかの理由が考えられる。
まず、当然ながら、本人の名誉を毀損しているという根本的な問題がある。本人・所属事務所・本人の家族や関係者は、このような形で不祥事を笑いのネタにされることで、精神的にもビジネスの上でも大きなダメージを受けることになる。
広末は双極性感情障害および甲状腺機能亢進症の診断を受けており、当面の間、芸能活動を休止して、心身の回復に専念するということが発表されている。
本人が療養中の身であり、精神的に不安定な状態にあることが明かされている以上、今回の事件は特にセンシティブなものであると言える。その点についても制作者の配慮が欠けていたのは間違いない。
一般的には、このようにクイズ番組のネタとして芸能人を取り上げる際には、制作者が所属事務所に連絡をして、事前に許諾を得るようにするものだ。
会話の流れの中で少しだけ名前が出ただけといった場合には、いちいち許可を得るまでもないと判断されることもあるが、テレビ局にとって芸能事務所は重要な取引先であるということもあり、原則として許可取りをすることのほうが多い。
特に、本件のような場合には、不祥事をネタにして面白がっているのは明らかなので、事前の許可が求められると考えるのが普通である。ただ、事務所がこれだけ強く抗議を申し入れたということは、事前の連絡をしていなかった可能性がある。
仮にそうだとすれば、制作体制に問題があったということであり、その点が批判されるのは当然だろう。
事故は現在も捜査中
次に、捜査中の案件を扱っているという問題もある。事務所の抗議文によると、事故に関しては警察が現在も捜査を進めている状況なのだという。
そして、番組内で紹介されていた「広末が事故を起こした際に時速165キロを出していたと報じられている」という情報は、公的機関から発表されたものではない。番組内では一応「報道された内容である」と断りを入れていたが、そうであっても、その情報をクイズの題材にするのは不適切である。
テレビ局は国民に対する影響力の強いマスメディアであり、報道機関でもある。バラエティ番組を制作する際にも、マスメディアや報道機関としての責任が求められるのは当然であり、その部分で配慮が欠けていたのは重大な過失である。
さらに言えば、交通事故を笑いのネタにすることは、被害者への配慮という点でも問題がある。幸いにも、今回の事故では大きな怪我を負った被害者はいなかったとされている。
しかし、本人も含めて被害を受けた人への精神的打撃は計り知れないものがあるし、一歩間違えれば大惨事になっていてもおかしくない案件だった。そもそも交通事故は笑いのネタにしづらい出来事であり、被害者がいる場合はなおさらだ。この話題を軽々しく扱ったこと自体に誤りがあったと言える。
『オールスター後夜祭』は、大型特番の『オールスター感謝祭』のスピンオフ企画として始まったものであり、この手の不謹慎なネタやブラックな笑いを売りにしていたようなところがある。
もちろん、それ自体が一切許されないというわけではない。笑いの手法として認められる場合もある。しかし、今回の件は、どの側面から見ても筋が悪く、批判されても仕方がないものだった。
謝罪に対して事務所は感謝
事務所の抗議を受けて、TBSはすぐに謝罪を表明していたし、事務所側もそれを受け止め「このたびの迅速かつ誠実なご対応に感謝申し上げます」と述べていた。
今回の騒動は、単なる一番組のうっかりミスで済まされるものではなく、テレビの時代が変わりつつあることを象徴している。これまで「炎上を恐れず攻める」ことを売りにしていた『オールスター後夜祭』のような番組にも、倫理と表現のバランスを問う時代の目が向けられている。
テレビ局は娯楽のためのバラエティ番組を作るうえでも、報道機関としての自覚を忘れないようにしなければいけない。
(ラリー遠田 : 作家・ライター、お笑い評論家)
