東京2025世界陸上 応援MOOK『GET  SET  GO』(小学館)
「東京2025 世界陸上」(9月13〜21日)で、選手たちと同じぐらい熱かった、スペシャルアンバサダーの俳優・織田裕二(57)。ところが、20日放送のTBS『情報7daysニュースキャスター』にて、世界陸上からの卒業宣言をしたことが波紋を広げています。

長らく世界陸上の顔だったのに残念。と同時に、卒業したら俳優としてどこに向かうのか?とも考えてしまいます。直近の地上波ドラマ出演は2023年、映画には2016年から出演していないし――。

破格のスターだった俳優・織田裕二が、また輝く道とは? ドラマ批評家の木俣冬さんに、考察してもらいました(以下、木俣さんの寄稿)。

◆“世界陸上の織田裕二”でいいのか?

織田裕二は本当に「世界陸上」を卒業してしまうのか。公的な場であれだけ「卒業」「体力の限界」「老兵は去ります」などと発言するのは、逆に卒業したくないのではないか。

1997年のアテネ大会からこの28年、「世界陸上」のメインキャスターやアンバサダーをやってきて、世界陸上の顔だった織田裕二。なかには「お叱りの声」もあったことを認識しているようで、実際、そんな時代もあったとは思う。だが、2025年は織田裕二にむしろ好意的な声が増えた印象を受けた。

長いこと自分の個性を貫いた結果、ついに多くの人たちの心をねじ伏せたのではないか。長い長いマラソンを走って終盤、ぐいっと先頭に出たのが2025年。だからこそ、あと2年。「世界陸上」に関わってちょうど30年目に当たる2年後も明るく熱く盛り上げてほしい。そう思いながら、その一方で、それでいいのか織田裕二? とも思う。

◆そろそろ俳優としての活躍も見たい

そろそろ俳優としての活躍を見たい気もする。というのも、織田裕二は邦画の興収において不動の第1位を22年もの長きにわたってキープしている絶対王者・俳優なのだから。

2003年に公開された主演映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は興収173.5億円で邦画実写歴代1位をキープしている。

目下、じわじわと吉沢亮主演の『国宝』が近づいてきて(9月20日時点で142億円)、もしかしたら22年ぶりに邦画歴代1位の記録が塗り替わるかもしれない瀬戸際である。時代の転換期がやって来ているのを感じて「老兵」と自覚してしまったのかもしれないが、ここはもうひと花、俳優としてヒット作に出てほしい。『踊る』の織田のイメージをアップデートしてほしい。

個人的には、頂点を極めた後、たとえやりたい作品がなかったとしても、バラエティやCMでお茶を濁しているように見える俳優よりも、俳優として汗を流している人が尊いと思う。はたして織田裕二はどうなのか。

ちょうど24年、『踊る大捜査線』スピンオフとして『室井慎次 生き続ける者』が公開され、ラストに織田裕二演じる青島がおなじみのカーキのモッズコートをはおって登場したことが話題になった。これならきっと青島主役の本編の新作が期待できそうだ。

◆カンチと青島は「親近感」で愛された

織田裕二は80年代にデビュー、90年代は『東京ラブストーリー』のカンチ、97〜2012年までは『踊る大捜査線』の青島として絶大な人気を誇った大スターであった。

筆者は彼のスター性を間近で感じたことがあった。忘れもしない、2010年に織田裕二を取材したときだ。

取材のあと、編集やカメラマンと握手をしてくれた。そういうことはまああることだが、取材部屋を出かけた織田が踵を返して戻って来たのだ。なにごと? と思ったら、カメラマンアシスタントにも手を差し伸べた。「だって、(握手)してほしいって顔しているから」

そう言うと白い歯を見せてニカッと笑った。

カメラマンアシスタントは心底うれしそうだった。こんな言動が似合う人はなかなかいない。なんて爽やかな、こういう人をスターというのだろうと思ったのだ(このエピソードは拙著『挑戦者たちトップアクターズルポルタージュ』「織田裕二 熱情」として収録している)。