「ミイラ」といえば、古代エジプトで作られていたものを連想する人が多いかもしれません。ところが、新たな研究ではそれよりも古い1万年以上前に、東南アジアや中国でミイラが作られていたことが明らかとなりました。

Earliest evidence of smoke-dried mummification: More than 10,000 years ago in southern China and Southeast Asia | PNAS

https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2515103122



Oldest Human Mummies Discovered, And They're Not What We Expected : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/oldest-human-mummies-discovered-and-theyre-not-what-we-expected

People in Southeast Asia and China were mummifying their dead thousands of years before the Egyptians did, smoke-dried human remains reveal | Live Science

https://www.livescience.com/archaeology/worlds-oldest-mummies-were-smoke-dried-10-000-years-ago-in-china-and-southeast-asia-researchers-find

考古学者らは以前から、東南アジアや中国南部を含む広い地域にまたがる新石器時代に埋葬された遺骨に、「被葬者がうずくまったり胎児のような姿勢になっている」「しっかりと縛られている」「骨の一部が焼けている」といった共通点があることを知っていました。しかし、これらの文化が死者を埋葬するためにどのような処理を行い、独特の埋葬姿勢を実現したのかはよくわかっていませんでした。

以下の写真は、中国南部で見つかった完新世前期から中期の遺骨です。いずれも膝を抱えてうずくまったような姿勢になっていることがわかります。



オーストラリア国立大学の考古学者であるHsiao-chun Hung氏が率いる研究チームは、ニューギニア島の高地に住む一部の民族が現代でも行っている「死者を薫製・乾燥させる」という処理方法が、過去には広い文化で行われていたのではないかという仮説を立てました。

研究チームは中国南部・ベトナム北部・インドネシアなど11カ所の異なる遺跡から採取された、4000年〜1万2000年前の69個の遺骨サンプルを用いた分析を行いました。分析にはセ氏500度を超える温度で生じる骨の構造変化を検出できるX線回折と、より低い温度で引き起こされる骨の変化を検出できるフーリエ変換赤外分光法が用いられたとのこと。

すると、信頼できる結果が得られた64個の骨サンプルのうち84%に「熱にさらされた痕跡」がみられ、一部の骨には意図的な切断痕も発見されました。また、一部の骨には煤(すす)の堆積や低強度の加熱による変色も確認され、これらの遺骨が薫製されたことを示唆しています。

研究チームは、これらの文化で行われていた「遺体を薫製・乾燥させる」という埋葬習慣が、ニューギニアのダニ族で今日でも行われている埋葬儀式と類似していたと推測しています。ダニ族は遺体をうずくまった姿勢で縛り、数週間〜数カ月間にわたって煙の立ちこめる弱火の上で吊るして薫製します。

以下の写真は、ダニ族の家庭で保管されている薫製された遺体です。画像をクリックするとモザイクが外れます。



研究チームが対象とした遺体は骨だけが残っており、皮膚や軟部組織、毛髪などは保存されていないため、エジプトなどのミイラとは異なるものに思われます。しかし、薫製による乾燥で意図的にミイラ化されたため、研究チームはこれらの遺体をミイラと見なしています。

Hung氏は、「私たちが一般的に想像するミイラとの主な違いは、これらの古代の薫製遺体は、薫製処理後に容器へ密封されなかったという点です。そのため、保存期間は一般的に数十年〜数百年しかありませんでした」と指摘しました。

中国南部や東南アジアの高温多湿な気候では、薫製は遺体を長期間保存する上で最も効果的な方法だった可能性が高いとのこと。しかし、古代の狩猟採集民がどのようにして人体を薫製にする方法を発見したのかは、依然として興味深い謎として残されています。Hung氏は、古代の人々が薫製を偶然、あるいは何らかの儀式の副産物として発見した可能性や、動物の肉を薫製することを応用した可能性もあると考えています。

研究チームは、「薫製によるミイラ化の伝統は、古代東南アジアと民俗誌的なパプア・オーストラリアの埋葬習慣の間に、長期にわたる文化的持続性が存在した有力な証拠となります。さらに考古学的な発見は、この伝統が数千にわたって北東アジアや縄文時代の日本、西オセアニアやオーストラリアに至る広大な地域、そしておそらくより広範な狩猟採集社会の間で知られていた可能性を示唆しています」と論文に記しています。

Hung氏は、「明らかなのは、この慣習が故人の存在を目に見える形で長引かせ、祖先が具体的な形で現世に留まることを可能にしたことです。これは、人間の愛や記憶、献身性を強く反映しています」とコメントしました。