SNSで流行の「フィギュア風」加工、法的に問題あるの? グラビアアイドルも警鐘
写真や画像をアップロードするだけで「フィギュア風」の立体的な画像に変換できるサービスがSNSで流行しています。
手軽に楽しめる一方で、元の画像には著作物や肖像権など、さまざまな権利で保護されている対象が含まれることも少なくありません。
実在の人物や市販の商品、アニメやゲームのキャラクターを使うユーザーも目立ち、「著作権侵害では?」「タレントの写真を勝手にフィギュア化するのは失礼」といった懸念の声が相次いでいます。
Xでは、複数のグラビアアイドルが、自身の写真を無断利用しないよう注意を呼びかける事態にまで発展しました。
「面白いけど権利的にアウトでは」「権利侵害がありそうだから使わない方がいい」といった意見が飛び交う中、こうしたサービスの利用にはどのような法的リスクがあるのでしょうか。知的財産権にくわしい唐津真美弁護士に聞きました。
●権利を持たない画像を利用するリスク
──権利者の許可なく、こうしたサービスに画像を使用した場合、権利侵害にあたる可能性はありますか。
まず問題になるのは著作権です。
写真やイラスト、アニメやゲームのキャラクターは、著作権法で保護される「著作物」に該当します。写真の場合、構図・アングル・光の使い方・タイミングなどに撮影者の個性があれば、著作物と認められ、撮影者が著作者となります。素人のスナップ写真であっても、多くの場合は著作物にあたります。
こうした著作物をAIで加工する行為は、著作権法上の「翻案(ほんあん)」にあたる可能性があります。翻案とは、既存の著作物を基にして、新しい表現に作り変えることです。小説を映画にする行為も翻案にあたります。
写真をAIで「フィギュア風」に加工することも、翻案と判断される可能性が高いでしょう。著作権者に無断で著作物の翻案をおこなうと、原則として著作権(翻案権)侵害となってしまいます。
●「自分だけで楽しむ」なら大丈夫?
──自分だけで楽しむのであれば、許されるのでしょうか。
著作権法では、「個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用することを目的とするとき」は、権利者の許諾なく複製できると定めています。これを「私的使用のための複製」といいます。私的使用が認められる場合には、翻案も可能とされています。
つまり、自分だけの楽しみとしてAIでフィギュア風に加工すること自体は、原則として合法ということです。ただし、加工後の画像をSNSやブログにアップロードすれば「公衆送信」となり、私的使用の範囲を超えて違法となります。
また、加工方法によっては「著作者人格権」(同一性保持権)を侵害するおそれもあります。
●実在の人物の場合は名誉毀損リスクも
──タレントや芸能人の写真を使う場合はどうでしょう。
この場合は「肖像権」や「パブリシティ権」が問題になります。肖像権とは、本人の承諾なく容姿を撮影・公表されない権利です。AIで加工していても、元の人物が特定できれば侵害とされる可能性があります。
パブリシティ権とは、有名人の名前や顔の「経済的価値」を守る権利です。タレントの写真を無断で広告や商品に使えば、その人気や知名度を利用して利益を得ることになるため、パブリシティ権の侵害とされる可能性があります。
そして、名誉毀損のリスクもあります。タレントの写真を加工して、奇妙なポーズをとらせたり、セクシーな服を着せたりすれば、その人の社会的評価を損なうおそれがあります。特に、侮辱的・性的な加工は、名誉毀損として損害賠償や刑事責任を問われることがあります。
●フリー素材なら自由に使ってもいい?
──「フリー素材」や購入した素材なら問題はないのでしょうか。
「ネットに公開されているから自由に使える」と誤解している人もいますが、公開されていても、著作権は消滅しません。
また、画像や音楽で「フリー素材」とされているものも、利用条件があります。「商用利用可」「改変可」と明記されていなければ、AI加工やSNS投稿は違反になる可能性があります。有料素材でも「AI学習や二次利用禁止」といった規約があれば、それに従う必要があります。
利用範囲によってもリスクは変わります。家族内で楽しむなら問題は小さいですが、SNSに公開すればリスクは大幅に高まります。特に収益化や商品化すれば、侵害者が利益を得ていることが明らかなので、訴訟リスクがさらに高くなるでしょう。
●利用前にしっかり権利や利用規約を確認して
──ユーザーが注意すべきポイントはありますか。
まず、元画像や素材の権利関係を必ず確認しましょう。SNSに投稿する際は特に注意が必要です。サービスの利用規約もよく読み、禁止事項を守ることがトラブル回避につながります。
AIによる画像加工は手軽でとても楽しい一方、著作権や肖像権、さらには名誉毀損といった法的リスクも潜んでいます。気軽な遊びが思わぬトラブルに発展することもあるため、権利者や被写体の立場を尊重し、ルールを守ることが大切です。
【画像の差し替え】 株式会社バンダイ・BANDAI SPIRITS 法務・知的財産部より、下記のような要請があり、画像を差し替えました。(2025年9月18日)
「AI生成された弊社ロゴと紛らわしいロゴが使用されている画像の拡散をできるだけ防ぎたいと考えています」お客様の誤認を避けるため、できれば使用されている画像の差替えのご協力をいただきたいと考えております」
【取材協力弁護士】
唐津 真美(からつ・まみ)弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。文化審議会著作権分科会の委員も務める。
事務所名:高樹町法律事務所
事務所URL:https://takagicho.com/
