(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大 (全2枚)

ソニー生命の調査によると、祖父母が教育資金として子や孫に資金援助をした平均額は124万円。なかには1,000万円以上の援助を実施しているケースも少なくありません。しかし、それが経済的な負担となり親子間の関係性に亀裂が入ることもあります。辻本剛士CFPが、とある親子の事例をもとに、過度な援助がもたらすリスクと、親子関係を長く良好に保つためのポイントについて解説します。

お金の援助が家族関係に与える影響

もうすぐ敬老の日を迎え、連休に実家や義実家へ顔を出す人も多いのではないでしょうか。

祖父母にとっては、久しぶりに孫と触れ合える大切な機会。親世代にとっても、普段なかなか確認できない両親の健康状態を知るきっかけとなり、さらに孫の成長した姿を見せることで親孝行にもつながります。

ただ、なかには「子や孫に会えるのは嬉しい反面、実際には経済的負担を感じる」という声もあるようです。その背景には、親の財産をあてにして、援助の要望を続ける子ども世帯の“過度な依存”があります。

ソニー生命が公表した2024年の調査によると、祖父母が教育資金として子や孫に資金援助した平均額は124万円でした。前年(2023年)の104万円から増加しており、援助の金額が年々上昇傾向にあることがわかります。

[図表]子どもの教育資金として子どもの祖父母(自分の親や義理の親)からこれまでにいくらくらい資金援助してもらっているか[単一回答形式] 出所:ソニー生命子どもの教育資金に関する調査2024」

そこで今回は、具体的な事例をもとに、過度な援助や子どもからの金銭的要求が引き起こすトラブルについてみていきましょう。

もうすぐ敬老の日か…ため息をつく68歳男性

「娘と孫にはもちろん会いたいですよ。でも……“アイツ”が一緒に来ると思うと、正直憂うつです」

――そうため息をつくのは、埼玉県で妻の明子さん(仮名・67歳)と2人暮らしをしている池本武司さん(仮名・68歳)。

9月に入り、もうすぐ敬老の日。毎年この時期になると、名古屋に暮らす娘の吉岡ななみさん(仮名・41歳)が、夫・直樹さん(仮名・43歳)と6歳の長女、2歳の次女を連れて帰省してきます。

本来であれば、娘と孫に会えるとあって、胸が高鳴る機会のはず。しかし、武司さんの表情は冴えません。

“アイツ”呼ばわり…武司さんが「義理の息子」を嫌う理由

その理由は、娘夫婦が池本夫妻のお金をアテにしているからです。

これまでも、出産祝い100万円、入園祝い30万円などと、ことあるごとにお祝い金を渡してきた池本夫妻。誕生日や季節行事で娘一家が帰省する度に欠かさず包んできましたが、それが悪夢の始まりでした。

住宅ローンがキツくて……」「急な出費があって……」

しだいに義理の息子の直樹さんは、向こうから金銭援助を遠回しに要求してくるようになったのです。そして敬老の日の今回も案の定、直樹さんは池本さん宅に着くなり、お金の話を切り出しました。

「お義父さん、娘2人の教育費が大変で……」

直樹さんによれば、小学校に入学した長女は、塾やスポーツ、ピアノなど多くの習い事をさせているそう。毎月の出費は約5万円、夏期講習などに参加すれば10万円を超える月もあるといいます。

一方、直樹さんの年収は550万円。昇給も期待しにくく、副業を考えてはいるものの、体力的に厳しいと訴えます。それでも、「教育費だけはどうしても準備しなければならない」と眉を八の字にし、必死さを装ってわかりやすいほどに媚びてくる義理の息子。

ななみさんが「もうやめといたら」となだめても、直樹さんはゴネます。

「次会える日が待ち遠しいな」「いまのうちに、もらえるもんもらっとかないと」

自宅のソファに寝ころびながら、そうこぼしていたのです。

その真意が透けてみえ、武司さんはますます嫌気がさすのでした。

義理の親子関係の難しさ

義理の親・子との関係においては、一定の距離感を保つことが大切です。特に金銭面で距離が近すぎると、親側にとっては負担となりやすく、場合によってはトラブルに発展しかねません。

さらに、過度な援助は子ども世帯の経済的自立を妨げる要因にもなります。親からの支援が当然となれば、自ら計画的に家計を管理する意識が薄れ、依存的な姿勢を強めてしまう可能性があるからです。

こうした事態を防ぐためにも、以下の点を押さえておくことが重要でしょう。

・援助は「特別なとき」に限定する

・経済的な援助以外の形(知恵や経験の共有など)で支える

・援助についてスタンスを家族と共有しておく

実子や孫のために…池本夫妻と娘家族の「その後」

とはいえ、孫や子どものことを思うと気持ちが緩み、つい援助を重ねてしまうのも自然な親心でしょう。

無理のない範囲にとどめ、将来にわたって健全な親子関係を維持できるよう意識することが求められます。

「一括贈与」で金銭援助に終止符を打った武司さん

その後、池本夫妻は思い切って娘夫婦と話し合うことに。

「これからも前向きな気持ちで会いたい。そのために一度きちんと区切りをつけよう」

そう考えた池本夫妻は、孫に会える時間を素直に楽しみたい一方で、お金の話が繰り返されることに疲れを感じていることを、直樹さんに正直に告白。そのうえで、300万円を一括贈与して「これ以降の援助はしない」とはっきり伝えました。そして、今後はお金の話を極力しないよう約束させたのです。

直樹さんはこれまでの甘えた態度を詫び、ひとまず関係は落ち着きを取り戻しました。次はお正月に会いに来るとのこと。池本夫妻は、ようやく心から孫たちとの再会を楽しみにできるようになり、その日を心待ちにしています。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP