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妻の不倫が発覚し離婚を決意したサレマクリ夫さん(仮名)。彼が強く望んだのは、12歳の娘の親権を手にすることだった。

一般に「男性の親権獲得は難しい」とされる中、彼はなぜそこまでこだわったのか。その背景には、過去の苦い経験があった。

⚫︎1人目の弁護士「相談には乗れません」

最初に訪れた弁護士事務所では、門前払い同然だった。

「妻が不倫しているから親権を取って離婚したいという話をしたら、『その相談には乗れません』と言われて、相談にすら乗ってくれなかった。本当にハードルが高いことなんだろうなということはわかっていました」

ネットでも「男性の親権獲得は困難」という情報が目立ち、不安は募った。しかし、2人目の弁護士は違った。

「『親権が取れます』『一緒に戦いましょう』というようなことを言ってくれた。もうこの弁護士さんを信じてついていくしかないという思いでした」

⚫︎男性が必ずしも不利とは言えない

実際のところ、男性が親権を獲得することは、どの程度困難なのだろうか。

離婚問題にくわしい玉真聡志弁護士はこう説明する。

「母性優先の原則がよく言われていて、男性がとりにくいというのはたしかにありますが、結局は養育実績、子どもとどれだけ関わってきたかが重視されることが多いので、必ずしも男性が不利とは言えません」

サレマクリ夫さんの場合、事情は有利だった。

「妻は海外旅行によく行き、仕事を理由に家にいることも少なかった。一般的な家庭の『ママ』の役割を僕がすべて担っていました」

玉真弁護士も評価する。

「そのような実績があるとすごく強い。それは男女関係ないと思います。『幼子のときはお母さんがしっかり見ていないとダメだから』ということで母子優先の原則が重視されがちですが、それでも実績がやはり重視される。

特に今回のケースで言えば、お父さんであるサレマクリ夫さんがメインでお子さまに関わっておられたのは、親権を取れる大事な要素でした」

⚫︎娘の意思が決定打に

もう一つの決め手は、娘自身の意思だった。離婚届を突きつける前夜、サレマクリ夫さんは「自分についてきてほしい」と娘に話した。

「自信はありましたが、100%ではなかった。『ママについていきたい』と言われたらどうしようという恐怖が大きく、娘に話すのも本当に大変でした」

結果、娘は父親を選び、それが親権獲得の決定打となった。

「12歳ぐらいであれば、子どもの意思が重視される。過去にお父さんと暮らしていた10歳ぐらいのお子さんが『ママと暮らしたい』と言ったことで、お母さんに親権が移ったケースもあります。お子さんの意思が反映される目安となる年齢は9歳、10歳ぐらいあたりと思われます」(玉真弁護士)

離婚届を突きつける際に、元妻に自分が親権取得の意思を伝え、親権欄に自身の名前を書いて提出した。元妻は争おうとはしなかった。

⚫︎「親権取れなかったら生きていけない」

強いこだわりの背景には、過去の離婚経験がある。

サレマクリ夫さんは最初の結婚相手との間に2人の娘がいた。しかし、自身の不貞が原因で離婚。2度と会えなくなってしまった。

「1回目の離婚は自分の不倫が原因だった。ですが、娘2人に会えなくなり、うつ病になって仕事もできなくなった。次に娘と会えない人生になったら、もう生きていく自信がない」

現在、娘と一緒に暮らし、良好な関係を築いているという。

「反抗期で大変なときもありますが、この子がいるから生きていけるとよく感じます」

一方で、元妻との面会を制限せず、娘が自由に会えるようにしている。

「娘は僕らに離婚してほしくないと思っていた。最終的に家族を壊す決断をしたのは僕。これ以上娘を被害者にするわけにはいかないと思っていた」

玉真弁護士は「現実を受け入れたうえで、『私はパパともママとも仲良くする』と娘さん自身の意思で決められるようにしたのは、すごくいいと思います」と評価する。

⚫︎泥沼化しやすい「親権争い」

離婚において親権をめぐる争いは泥沼化しやすい。

「別居する際に子どもを連れて行ってしまう。この場合、子どもを奪い返そうとすると、誘拐扱いで警察が動く可能性がある。奪われた側は法的手続きを取るしかありませんが、その間に連れて行った側の養育実績はどんどん積み重ねられる。結果的に不利になってしまいます」(玉真弁護士)

今回のケースは、父親でも適切な準備と実績があれば、親権を獲得できることを示した。子どもの最善の利益を考える柔軟な対応が、結果的により良い家族関係にもつながることを物語っている。