配達員にとって夏の暑さは文字通りの死活問題だ(著者撮影)

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現役配達員もドン引き!配達員の非常識な暑さ対策

ヘルメットを被ったまま飲食店に入る。清潔感のない服装をしている……。ウーバーイーツ配達員の中には、社会常識が欠如している者が一部交じっている。そんな彼らの存在がより一層際立つ季節がある。それが「夏」だ。

先日私はマクドナルドの店舗前に、自転車と配達用バッグを放置したまま、近くのデパートに入っていく、20代くらいの汗だくの配達員を見かけた。興味本位で追いかけてみたところ、その配達員はデパートの中にあるベンチに座って「あー、疲れた」といった表情で休んでいた。

デパート内はエアコンが効いており、マクドナルドの店舗と距離も近い。この場所で待機することは、ある意味で賢い戦略なのかもしれない。けれどその配達員は次の日も、またその次の日も、同じ場所に自転車とバッグを放置していた(そしてデパートの中で、涼しい顔で休んでいたのだろう)。

猛暑の厳しい今、熱中症対策として適宜休憩を取ることは完全に正しい。

ブルーカラーの仕事で、無理は絶対に禁物だ。私自身、ドリンクを1杯注文するなど、飲食店の中で休んだことが何度もある(配達報酬1件分が飲み物代で消えた、と肩を落としながら……)。

とは言え、暑いのは確かに暑い

マナーを守れていない配達員を見ると、そんなふうに内心苛立ってしまう私だが、とは言え、配達員にとって夏の暑さは文字通りの死活問題だ。


筆者は配送中、可能な限り日陰を移動している(著者撮影)

暑さ対策についての「違い」は、ウーバーと出前館、フードデリバリー大手2社の間でも如実に表れている。

前置きがやや長くなったが、本稿ではウーバー配達員たちの暑さ対策について語ってみよう。

ウーバーと出前館では適宜、運営から配達員へ「お知らせ」メールが配信されている。

例えば2025年6月、出前館では「熱中症予防対策 ポイント4選」と書かれたメールが配信された。具体的には「水分・塩分をこまめに摂取する」「正しい服装で配達する」「適度な休憩を取る」「適切な食事と睡眠を心がける」という内容だった。

ウーバーでは2024年7月に「稼働の際の熱中症対策」について書かれたメールが配信されている(おそらく今年も7月頃に配信されるのだろう)。具体的には、「『水分』をこまめに取る」「『衣服』を工夫する」「『休憩』をこまめに取る」という内容だった。


ウーバー配達員に送られた暑さ対策に関するメール(著者撮影)

両社とも当り障りのない注意喚起に思えるが、実は「服装」既定に関して、両社の方向性は大きく異なっている。

出前館の配達員向け公式サイト「基本の服装・身だしなみ」によると、「接客マナーの観点および安全面から、短パンよりも長ズボンの着用を推奨しています」という記載がある。また、「極端に肌の露出の多い服装は避けるようお願いします」という記述もある。

前述した出前館の「お知らせ」メールには、「暑さを軽減するために、通気性が良く、吸汗速乾性のある服装がおすすめです」とも書かれているが……。服装選びの大前提として長ズボンの着用を推奨しているのが、出前館という日本企業の考え方なのだ。

これに対して外資系企業のウーバーイーツジャパンでは、服装規定に関しての「縛り」が特にない。つまり出前館配達員に比べてウーバー配達員は、身体的にも心理的にも快適に、屋外で活動することができる。


ウーバー公式サイトスクショ。ムキムキの男性が涼しげな服装を着ている(著者撮影)

私はこれまでにウーバーと出前館あわせて、7600回以上の配達をすべて自転車(ママチャリ)で行ってきた。どちらの仕事をする際も熱中症予防として、夏場は半袖半ズボンを着用している。

また服装以外でも、積極的に暑さ対策を取り入れている。

暑さ対策に「体育会系の乗り」は意外と重要?

「暑熱順化(しょねつじゅんか)」という言葉をご存じだろうか。

暑熱順化とは、体に暑さが慣れて、暑さに強くなること。暑熱順化により早く汗が出るようになり、体温の上昇を食い止められるようになる。

昭和の根性論のようにも聞こえるが、暑熱順化が熱中症予防に有効であることは、厚生労働省も公式に認めている(厚労省の公式YouTubeチャンネルでは「職場における熱中症予防」として、暑熱順化についての動画が配信されている)。


暑熱順化の有効性は厚生労働省も認めている(著者撮影)


ただし暑熱順化の効果を維持するには継続性が重要(著者撮影)

とどのつまりデリバリー配達員は、活動すればするほど暑さに強くなっていく。この点を意識しながら私は活動している。

例えば配達中に休憩する際は(心身の状態と相談しながら)、私は屋外の木陰で風に当たりながら涼むことが多い。この方法なら配達員のマナー面もクリアしている。木々の間をそよ風が吹き抜ける音、鳥の鳴き声も心地良い。

配達以外の運動も習慣化、基礎体力の向上にも努めている。腕立て伏せ・腹筋は毎日60回以上、週1〜2回の頻度で約20分のランニング。また私は学生時代からバドミントンを続けており、こちらの練習も週1回ほど行っている(ちなみに配達後に運動すると、けっこうツライ)。

服装や持ち物も重要

暑熱順化に成功すると、発汗量が増える。よって配達する際は念のため、着替えの服を常備している。服装は布地ではなくポリエステル100%、スポーツタイプのものを選んでいる。通気性が良い点と、汗染みしない点が気に入っている。

他にも、配達で持ち運ぶ飲み物(主にアクエリアス)は、ペットボトルを事前に冷凍庫で凍らせている。キンキンに冷えた飲み物を飲むことで、身体の内側から熱が逃げていく感じがする(しかし氷が全然溶けず、飲みたくても飲めないトホホなシーンもある)。配達前後に冷水シャワーを浴び、身体を冷やすことも多々ある。

屋外では半袖半ズボンで活動するため、虫よけスプレーはマストだ(年間2000〜3000円ほど虫よけスプレー代が発生している)。日焼け止めは汗で流れるので、ここ最近は塗るのを諦めつつある。飲食店やお客様から飲み物や塩飴を差し入れされたときは、いつもテンションが上がっている。


信号待ちの時間、日陰に逃げるのはマストだ(著者撮影)

女性から嫌悪感…。男性が夏にやりがちなハラスメント

この季節、個人的に気になっているのが配達員の「臭い」だ。酷暑の中で動けば、どうしても汗をかく。汗をかけば、臭いの問題が生まれる。よって不可抗力の仕方のないケースもあるけれど、意識や工夫次第で改善できる部分は少なくないはず……。

異臭対策として、私は毎朝のシャワーを欠かさない。ランチタイムの仕事終わりも毎回シャワーを浴びている(食後は歯を磨いてマウスウォッシュもする)。昼と夜に着ている衣類を替えるのは当たり前。配送後は配達用バッグに消臭スプレーを吹きかけている。


元美容会社勤務の著者オススメのミントシャンプー。COOL感がたまらない(著者撮影)

食品を扱う「社会人」として清潔感は欠かせない。しかしその一方で、異臭問題は私たち配達員だけに起きているわけではない。女性の方なら共感していただけるだろう。夏場は日本全国の職場で「スメハラ地獄」が繰り広げられている。

汗対策を頑張っている配達員もいる

株式会社マンダムが2023年、20〜50歳代の男女800名を対象に「汗とにおいに関する実態調査」を行ったところ、猛暑とノーマスク環境への移行により、自分や周囲の汗臭さを感じている人が多数を占めていることが判明した。

具体的には、「他人の臭いが気になるか」という質問に対して、気になると回答した人が21.8%。やや気になると回答した人が46.0%。つまり約70%の人が、他人の臭いが気になると感じていた。

同調査結果によると、2人に1人以上の割合で制汗剤や汗拭きシートを使い、自身の臭い対策をしてるようだ。しかしこれは裏を返すと、約2人に1人が臭い対策を特にしていないということ……。

もちろんそれぞれの体質もあるし、筆者としては必ずしも「ニオイは断固NG!」と考えているワケでもないが、配達員として様々なお宅に伺う立場としては、気を付けていたいと考えている。私にとって、汗対策も、暑さ対策の一部なのだ。

最後に余談だが、先日私は所属しているバドミントンクラブの女子高校生3名に「みんなからすると、どんな人がオジサンだと思う?」と質問する機会があった。彼女たちからは全員一致で「臭い人」という回答があった。

今日も私は汗拭きシートを常備、冷や汗を流しながら、神戸と芦屋の街を自転車で走っている。

【もっと読む】「もはやセレブ食」「もうちょい出せば焼肉に行ける」との声も…。1食2000円「ウーバーでのココイチ離れ」に配達員が感じたこと では、度重なる値上げで客離れが進むココイチでの”ウーバー離れ”の実態について、現役ウーバー配達員ライターの佐藤大輝氏が解説している。

(佐藤 大輝 : ライター・ウーバー配達員)