【年金「大改悪」】誰がどう見ても「厚生年金の流用」なのに、自民と立民が選挙勝ちたさに結託した「納得できない屁理屈」
「100年安心」はどこへ行ったのか。「米騒動」のドサクサに紛れて自民と立憲が年金修正案を可決した。将来に禍根を残すことは間違いない。
自民・立憲民主による「年金大改悪」
「今回の年金改革法案をめぐる一連の動きは、自民党と立憲民主党による『出来レース』と見て間違いありません」
政治ジャーナリストの後藤謙次氏はこう喝破する。
当初、自民党は基礎年金（国民年金）の底上げのため、厚生年金の保険料の積立金を回す案を検討していた。
「サラリーマンや公務員が負担する厚生年金の保険料を、自営業者の国民年金に『流用』するのは世間の批判を浴びると考え、政府は底上げ案を削除しました。
ところが、立憲の野田（佳彦）代表は、底上げ案のない修正案は『あんこのないあんぱん』と酷評した。結局、あんこを入れればいいんですね、ということで、立憲の要求を呑む形で、底上げ案が提出され、可決されました」（後藤氏）
背景には、選挙で生き残りを図る自民・石破（茂）総理と、就職氷河期世代にアピールしたい立憲・野田代表の「結託」がある。後藤氏が続ける。
「自民党にとって年金問題は鬼門です。小泉純一郎総理のときは、主要閣僚の年金未納問題もあり、'04年の参院選で敗北しました。安倍晋三総理は、消えた年金問題で'07年の参院選に大敗し、辞任に追い込まれた。年金問題でしくじれば、選挙で大敗する。そこで、『流用』と批判される底上げ案を石破総理が削除し、政府批判の争点とならないようにしたのです。
一方の立憲は、現役世代の支持を集めて躍進する国民民主党を苦々しく眺めていた。そこで、この底上げ案に飛びついたんです。国民年金の金額を底上げすれば、将来の低年金を不安に感じている、現役の就職氷河期世代にアピールできると考えてのことでしょう。国民民主のお株を奪う目的もあったと思います。
さらに言えば、石破総理にしてみれば、立憲を年金改革法案の協議の場に引きずり込んでおけば、内閣不信任案の提出を避けられるのではないか、という算段もあったでしょう」
6月13日に年金制度改革法は成立。石破総理と野田代表の思惑が一致して、まさに年金の「大改悪」が推し進められようとしているわけだ。
たくさん保険料を払っている人ほど損
今回成立した年金改革法には、厚生年金の加入対象者拡大や、在職老齢年金の支給停止となる収入基準額の引き上げなども盛り込まれているが、一番の問題は、やはり基礎年金の底上げだ。一言で言えば、2057年に国民年金の水準が現在に比べて約3割減少するので、厚生年金の積立金を基礎年金に投入して、給付水準の減少を抑えるというもの。立憲のさるベテラン議員はこう嘯く。
「年金改革法はなんの問題もない。だって、誰の年金も減らないんですよ。もしこれをやらなかったら、現状より３割減の基礎年金になるんだから、当然やるべきこと」
この議員の言葉を補足すると、厚生年金の加入者は国民年金にも加入しているので、厚生年金の積立金を流用しても、国民年金部分が下支えされるのだから損はしないということだろう。
しかし、ニッセイ基礎研究所保険研究部主席研究員の中嶋邦夫氏によれば、当面は厚生年金の年金月額が下がるという。中嶋氏が解説する。
「年収611万円で厚生年金に40年加入した場合で試算しました。現行制度を続けた場合、現在55歳の人は、65歳時点での年金月額の見通しは16・7万円と2・7％目減りしますが、底上げ策を実施した場合だと、16・1万円となり、6・1％目減りします。
一方、現在40歳以下だと、制度変更で目減り幅が改善されます。さらに、女性や就職氷河期世代など、厚生年金の加入期間が短く、収入が低い人ほど、年金の下がり幅が抑制されるのです」
また、厚生労働省の試算によれば、この底上げ案が実現すれば、現行のままでは3割減の国民年金も8％程度の減少で抑えられるという。
比較的若い世代の年金の減額を食い止めるために、これまで中高年が収めた厚生年金の保険料を投入する。「流用」なのか、それとも「底上げ」なのか、釈然としない年金改革法だが、年金制度に精通する昭和女子大学特命教授の八代尚宏氏はこう一刀両断する。
「今回の基礎年金底上げは、年金制度の失敗を繕うための、厚生年金から国民年金への事実上の流用です。厚生年金の報酬比例部分が減れば、基礎年金が増えても、多くの保険料を払っている人ほど損をするわけです。国民年金が減ると加入者が貧しくなるから、豊かな年金をもらう厚生年金を削っても流用するというのは福祉の論理で、年金保険の原則から逸脱しています」
国民年金のみの加入者全員の年金が底上げされるのも問題だ、と八代氏は指摘する。
「保険料が給料から天引きされる厚生年金と異なり、国民年金加入者のうち保険料負担者は半分以下で、事実上の任意加入です。また、貧しい人だけでなく、お金持ちもいる。なのに、被用者年金の負担増に加えて、毎年2・6兆円の税財源まで追加投入して、お金持ちの自営業者の年金まで一律に救済するような修正はおかしいでしょう。
また、厚生年金の2階部分にあたる報酬比例部分は、実は国民年金にも任意加入で存在しています。それが著しく優遇されている国民年金基金です。月額の上限は6万8000円で、掛け金は社会保険料控除の対象となり、税金も減額される。基礎年金だけでは老後の生活ができないという人は、現役時代にこれに加入すればいいのですが、加入率はわずか3％にすぎません。この国民年金基金の存在を無視して、国民年金の底上げを議論するのはやはりおかしいと言わざるをえない」
後編記事『【厚生年金の流用】サラリーマンだけが高齢者のために社会保険料をむしり取られ続ける「不愉快な事実」』へ続く。
「週刊現代」2025年6月23日号より
