ゲオが仕掛けるガチャガチャ専門店「カプセル薬局」の躍進…あえて「地域の商店街」に出店する理由

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あえて生活圏で勝負

カプセルトイ、いわゆる「ガチャガチャ」の専門店として急速な勢いで存在感を高めているのが、ゲオホールディングスが展開する「カプセル楽局(らっきょく)」だ。名称の通り、薬局をモチーフに「楽しさを処方する」をテーマに、2022年7月に参入して以降、2025年6月執筆時点で都内中心に46店舗を構える。

これまでもカプセルトイ専門店は、コロナ禍を境に各社参入をはじめてきた。バンダイナムコアミューズメントの「ガチャポンのデパート」や、ルルアークの「ガチャガチャの森」、イオンモール内に構える「カプセル横丁」をはじめ、いまや専門店は全国で400店舗以上あると言われる。

カプセル楽局は、業界としては後発になるが、競合とは一線を画す戦略で急速出店を行っている。それが観光地や商業施設内ではなく、あえて商店街や住宅街などの「生活圏」、いわば一等地を避けた場所を中心に展開しているポイントだ。そのユニークな拡大は、インバウンドや推し活ブームとはまた異なる、カプセルトイ文化の浸透が窺える。

日本カプセルトイ協会のデータによれば、2024年度のカプセルトイの市場規模(製造出荷ベース)は約1400億円と、2022年度の720億円から約2倍近くに拡大している。

これまでもカプセルトイ市場は、1980年代の「キン消し」を皮切りに、累計2000万個以上を売り上げた「コップのフチ子」など、ヒット商材が生まれるたびブームを形成してきた。コロナ禍以降は、閉店した空きテナントを有効活用する形で専門店が林立し、インバウンドの「お土産」としての鉱脈も生まれ、活況を呈してきた。

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地元の子供が集まる拠点に

こうした潮流に追随する形で、カプセルトイ専門店の多くは、外国人観光客の多い空港や観光地、大規模商業施設に集中していた。前述した「ガチャポンのデパート」や「カプセル横丁」もその例に漏れない。

一方で、カプセル楽局は、あえてその出店戦略を踏襲していない。現46店舗では、足立区や杉並区、さらには23区外の西東京エリアをはじめとした住宅街への出店が目立つ。なかでも阿佐ヶ谷店や笹塚十号通り店、大山ハッピーロード店をはじめ、商店街の一角で看板を目にする機会も多い。

繁華街ほど人通りが見込めない立地でビジネスが成立するのかーー。そんな疑念を抱いていたが、実際に店舗を訪れてみると、想像以上に店内は賑わいを見せている。訪れた週末夕方は親子連れの姿が目立ち、子供だけのグループが店内を回遊している光景にも出くわした。

ここから見て取れるのは、カプセルトイ専門店が、子供を中心に地元住民が集まる“拠点”としての機能を帯びていることだ。「大人買い」する人もいる一方で、限られた予算で筐体を選びながら、出てきた玩具を見せ合う子供たちの姿がそこにある。

「ガチャる」が一般化した日本で

その和気あいあいを交流する光景は、かつて昭和や平成の時代に、駄菓子屋や文房具店が子供たちの溜まり場となっていた懐かしい空気すら感じる。生まれながらスマホに触れてきた若い世代にとっては、カプセルトイ専門店が貴重な“リアルな遊び”の場として機能しているようだ。

また現代においては、カプセルトイは大人も夢中になるコンテンツだ。スマホゲームのガチャ機能が定着したことで、「ガチャる」という言葉が一般化し、その感覚がカプセルトイに通ずる部分もある。

何が出るかわからないゲーム性は、「商材を揃えたい」「あと1回だけ」と射倖心を煽り、来店頻度の高さにも直結する。そう考えれば、通学や買い物帰りなどの動線で、ふらっと手軽に立ち寄れる立地は商機を獲得しやすいと言える。

スタッフがいる心理的安全性

従来、カプセルトイは単価が安く、販売ロットも少ないため、利益を出すには大量設置や高回転が求められてきた。そのなかでカプセル楽局は、流通プロセスの見直しや在庫管理、収益分析を徹底して効率化を図っているとみられる。

運営元のゲオホールディングスは、ご存知の通りレンタル事業を主力にしてきたなか、並行してリユース事業も幅広く展開してきた。衣料や通信機器、骨董品などの売買、さらにはオークション運営など、二次流通に特化したブランドを複数構え、幅広い商材の買取販売に強みがある。

こうしたゲオホールディングスのノウハウは、カプセルトイ専門店の事業特性と見事に噛み合っているのだろう。人的コストや欠品の機会損失を抑えられれば、運営コストも最小限で済む。また店舗スタッフが常駐することで、絶え間ない商品補充や店内清掃、人の目がある心理的安全性も担保されている。

ゲオホールディングスの公式サイトによれば、カプセル楽局の平均的な売場面積は約18坪(2024年12月時点)と、他社の専門店に比べて敷地面積が小さい。小売店が効率良く利益を確保するために大箱を狙うなか、ゲオホールディングスは小回りの効く経営を狙う。そのぶん出店エリアの選択肢も増え、商業施設や空港内のテナントを避けることで賃料も安価に抑えられるはずだ。

一周回った体験消費

一見すると、カプセル楽局があえて生活圏を中心に、地元密着型の展開を進めるのは定石から外れているように映る。ただ実店舗を訪れれば、幅広い世代が筐体を回す光景が見られ、近隣住民が日常的に訪れる場所として確立されつつある。ゆえに一等地を避けた立地でも機能するどころか、定着がスムーズに図れ、競合と一線を画す形での店舗拡大が期待できる。

もちろんブームには価値の希薄化がつきまとう。それでもカプセルトイは、いまやスマホ全盛の時代に「一周回った体験消費」を提供する娯楽として機能し、幅広い世代求心力を放つ。カプセル楽局の出店戦略が奏功しているのは、その証左とも言えるのかもしれない。

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