「若者に嫌われぬよう必死やな」益田ミリが描いた40歳独身女性のモヤモヤ

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「すーちゃん」シリーズはじめ、日常なんとなく考えているできごとに対してさまざまな気づきを与えてくれる益田ミリさん。漫画デビュー20周年記念作品に「友達」をテーマに描いた『ミウラさんの友達』に続き、『サトウさんの友達』(共にマガジンハウス刊)が刊行となった益田ミリさんに、メールでインタビュー。その第1回では後輩に嫌われないように気を遣う40歳の主人公「サトウさん(りっちゃん)」の体験をふまえ、「注意するときに気を遣いすぎてしまう」ことや「友達」に関する益田さんの意見を聞く。

後輩に仕事を依頼、できていないときなんて言う?

『サトウさんの友達』の主人公はふたりの「サトウさん」。ひとり目の「サトウさん」ことりつ子(りっちゃん)は40歳。独身の会社員だ。母とふたり暮らしで、会社から帰ると母と一緒に夕食を食べる。友達がいないわけではないが、年を重ねるごとに一緒に遊ぶようなひとはいなくなっていて、会社でも中堅として後輩に指示することがなかなか難しい。

もうひとりのサトウさん「アオリン」は同じく会社員だが、人とのコミュニケーションが得意ではないようだ。たとえば職場に誰かがお土産のお菓子を持ってきたとき。「はいどうぞ」と言われて喜んで受け取るけれど、そこから気の利いたことを言えない。気を遣って話しかけられても、あたりさわりのない回答しかできない。弟には「友達がいないくせに」と言われて返す言葉がなかったりもする。

『サトウさんの友達』はこの二人のサトウさんがNintendo Switch用の大人気ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」をきっかけとして近づいていくさまが描かれる。

益田ミリさんはりっちゃんとアオリンがそれぞれ抱えながら生きているその細かなモヤモヤを優しく鋭く浮かび上がらせる。まるで「それ、私のことだ」と思うような些細なことを描き出す。

たとえば「サトウさん」は後輩にお願いしていた仕事で間違いを見つけたとき、どう言ったら嫌われずに伝えられるかを考えてしまう。その結果、「そうだよね、私もやりがち」だなと思ってもないことを言って「若者に嫌われたくない自分」にモヤモヤしたりもするのだ。

とくに「友達がうまくできない」「人とうまくコミュニケーションが取れない」と思うのは、一見得意そうな人ですらドキドキしたりモヤモヤしたりすることはあるのではないだろうか。

そんな多くの人のモヤモヤをどのように描いたのか益田さんに聞いた。

「友達」はちょっとしたことでヒビが入ってしまう

――『ミウラさんの友達』につづく「友達」をテーマとした作品を書こうと決めた理由を教えてください。

益田:前作『ミウラさんの友達』は、疎遠になってしまった友達との関係に傷つきつつも、前に進んでいく主人公の物語でした。今作『サトウさんの友達』は「空気を読みすぎない人間関係」が大きな軸になっています。職場での対人関係にちょっと疲れている二人の主人公が、楽しいルールで、ゆっくりと友達になっていく姿を描きました。「友達」は子供の頃から身近な存在ですが、ちょっとしたことでもヒビが入ってしまう儚さがある。大切なテーマのひとつです。

後輩に気を遣いすぎてしまう

――サトウさんはとても配慮のある人(そして考えすぎてしまう)で、後輩に対して気を遣いすぎ、依頼したものの打ち間違いがあるとか期日が守られていないと伝えることに苦慮しています。これは多くの人がそうだと感じます。益田さん、見てたの?と思う人もいるのでは……。「先輩から後輩へのものの伝え方」で「気を遣いすぎてしまう」理由やその背景をどのように思われますか。

益田:誰でも無駄に嫌われたくないもので、結果、とにかく気を使っておく方が良かろう、と慎重になりがちです。主人公のサトウさん(りっちゃん)は後輩への仕事の依頼も、言葉に言葉を重ねて重装備。そして、ひとりランチの時間に「若者に 嫌われぬよう 必死やな」と川柳を詠んでため息をつく。そんな彼女がゲーム(「あつ森」)を始めたことで軽やかに変化していく様子を、ぜひ漫画で体感していただきたいなと思います。「あつ森」未経験の方でもわかるようになっています!

「友達がいない」と感じている人へ

――アオリンが弟から「友達がいない」と言われるシーンがあります。アオリンが「友達がいない」のは、表面だけ“友達のようにする”ことができないからなんじゃないかなとも感じました。益田さんは「友達がいない」ということについてどのように思われますか。

益田:仕事での出会いなど、大人には「友達」と呼べない関係性の中にも大切な人たちがいます。

「友達」と「知り合い」を分けて考えなくなってきている気がします。

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『サトウさんの友達』では、「友達がいる」という言葉が、寒い日のおひさまのように心を温める。益田さんが『サトウさんの友達』をはじめ、多くの著書で伝える「友達」は、損得勘定ではなく、主従でもなく、意見が対立するしないにかかわらず、本音で語れる関係の人、という意味のようだ。そう考えると、「友達」と呼べるわけではなく、仕事の場以外で会ったことがない人でも、「本音で語れる関係」があることがいかに素敵なことなのかを感じさせられる。

また、『サトウさんの友達』は「あつまれ どうぶつの森」というゲームがハブとなっていく。なぜ益田さんはこのゲームを大きなヒントとして描いたのだろうか。

インタビュー第2回「「あつまれどうぶつの森」に見る「理想的人間関係」のヒント。益田ミリが気づいたこと」で詳しくお伝えする。

インタビュー&文/FRaUweb 新町真弓

『サトウさんの友達』

「あつ森」の世界みたいにおつきあいしませんか?――

職場の後輩に仕事のミスを注意するだけで気を遣ってしまう。婚活をしてみたことはあるけど、やっぱりうまくいかない。会社でのおやつタイムで上手に会話することができない――人との関係性にモヤモヤを抱えていたふたりの「サトウさん」が「あつまれ どうぶつの森」の世界に支えられ、みつけたもの。

【第2回】「あつまれどうぶつの森」に見る「理想的人間関係」のヒント。益田ミリが気づいたこと