『続・続・最後から二番目の恋』©フジテレビ
 巷で話題になっている『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)が、笑いながら泣けるドラマとして人々の胸に刺さっているようだ。

 長倉和平(中井貴一)と吉野千明(小泉今日子)を中心に、長倉家の兄弟姉妹、周辺の人々による静かで深くて、せつないようなおかしいような日常が丹念に描かれている。登場人物それぞれのキャラクター、そしてそれを演じる俳優たちが非常に人間臭くて、リアルで、そして優しい。

 肝心の和平と千明の関係は、今もって「大事な人」であることしかわからない。男女を超えた信頼関係のもとに日々、少しずつ礎が堅固なものになっているのは見てとれる。

 今シリーズは、そこに千明のかかりつけ医となった成瀬先生(三浦友和)と、和平が定年後も勤務する鎌倉市役所で働き出した“未亡人”の早田律子(石田ひかり)が登場している。

◆73歳医師の恋「なんだか心が動くとおもしろい」

 成瀬先生は73歳、先立たれた妻にうり二つの千明に恋をしてしまう。和平と千明の関係を知って、成瀬は千明にこう言う。

「あの日以来、胸がチクチクしましてね。長倉くんと一緒のあなたを見てから何か……こうチクチクとね。2人の関係はすてきだし、長倉くんはいいやつだし。チクチクします」

 正直に自分の胸の内を語っていく。彼は初恋の相手と結婚し、その妻に先立たれてから、「ずっと、あとの残された人生を静かに、というふうに思ってたんだけど。まあ、それでもいいんだけど。なんだか心が動くとおもしろい」と伝える。

 心が動く、変化する、成長する。今回のドラマのキーワードである。

 千明59歳、和平63歳、成瀬73歳は、小泉今日子、中井貴一、三浦友和の実年齢でもある。だからこそセリフが実感をともなっていて説得力がある。

◆千明は高齢者寸前、和平が前期高齢者寸前

 一般的に「高齢者」は65歳からと思われている。これは医療制度や介護保険からの定義で、65歳は前期高齢者、75歳以上は後期高齢者である。だが、厚生労働省が高年齢者の雇用と言う場合は60歳以降を示すし、内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」なども対象は60歳以上だ。グルメ、レジャー、交通などのシニア割引もほとんどが60歳以上。

 ということは千明は高齢者寸前、和平が前期高齢者寸前ということになる。だが今の60代前半までは若々しい。そんな中、成瀬だけが立派な前期高齢者で、後期高齢者との狭間にいて、まだ元気ではあるものの、自らの「老い」をもっとも感じている年代だ。75歳の壁と言われるように、健康をもっとも害しやすいのが75歳以降。

◆ニュースをにぎわせる「暴走する高齢者」

 たまたまではあるが、三浦友和が73歳だったから成立したとも言える。年齢を受け入れながらも、まだ自らの「若さ」を信じる面もあり、自分の心の変化を客観的に見つめる冷静さと知性と理性がある。

 暴走する高齢者の話がときどきニュースをにぎわせるが、なぜ暴走するかというと理性を司る大脳が衰え、ストッパーが効かなくなるからだという。成瀬にはその片鱗もない。知性と理性、そして冷静さが自らを抑え込むのではなく、自らを客観的に見つめておもしろがることを可能にしているのだ。

 70代であろうと恋はする。胸がチクチクすることさえおもしろがれれば、その恋は素敵なものになるはずだ。時代の変化、自らの心の変化、変わることへの興味と関心を失なわず、真正面から受け止めることこそが、大人の恋なのかもしれない。

◆70代の素敵な恋は、ドラマの中だけじゃない

 実際、72歳の男性とつきあい始めて1年たつユカリさん(70歳・仮名)は、深く静かに続く恋を楽しんでいる。