2018年3月にオープンした、東京ミッドタウンにあるフードコートへ(筆者撮影)

フードコート愛好家の鬼頭勇大さんが、さまざまな街のフードコートを訪れる本連載。

今回は、東京都千代田区の商業施設「東京ミッドタウン日比谷」のフードコートを訪問します。

日比谷の歴史は?

日比谷は、もともとは海・湿地だったとされる。江戸時代に埋め立てが進んで大名の武家屋敷が立ち並ぶようになってから、徐々に発展していった。

特に明治期以降は、日本の近代化をリードしてきたエリアといえる。例えば、1883年に完成した「鹿鳴館」が代表的だ。海外の高官を接待する社交場として「鹿鳴館外交」の舞台となった。

その後は1890年から「華族会館」と名を変え、この年には帝国ホテルも誕生している。

ちなみに旧鹿鳴館の土地は日本徴兵保険→内国貯金銀行→日本不動産などへと土地の所有権が移り、1940年に建物は取り壊しとなった。

現在、跡地は「内幸町1丁目街区プロジェクト」として、2037年度以降の完成を予定して工事が進んでいる。

【画像22枚】日比谷ミッドタウンにある"超ハイソ"なフードコート。内観やシャレオツな食事メニュー

社交の街に加え、日比谷は映画・演劇を中心にエンタメの街としても知られる。日本最初の西洋式劇場として1908年に「有楽座」がオープンしており、その3年後には帝国劇場も開場。

昭和期には“音楽の聖地”と呼ばれたという日比谷公会堂や、東京宝塚劇場、日比谷映画劇場なども続々とオープンした。戦後には「芸術座」「みゆき座」「日比谷スカラ座」「日生劇場」も営業を開始している。


東京ミッドタウン日比谷・日比谷シャンテのある一角にあるゴジラ像。一帯は東宝の街でもある(筆者撮影)

レストランとフードコートが合体した「HIBIYA FOOD HALL」

さて、そんな華々しい街で2018年に登場した東京ミッドタウン日比谷は、三井不動産が手掛ける複合商業施設ブランド「東京ミッドタウン」に属する。

同ブランドの第1弾として、2007年に港区赤坂に誕生した東京ミッドタウンに続く第2弾としてオープンした。


三井不動産の「東京ミッドタウン」ブランドの第2弾として開業した(筆者撮影)

地下1〜地上7階を商業エリアとして、企画段階では商業施設への初出店が14店舗、日本初出店が5店舗を含む全60店舗が集結。

「TOHOシネマズ 日比谷」も入居しており、日比谷の街が持つアイデンティティも取り入れた施設として、オープンから7年がたった今も賑わいが続く。


地下1階にあるフードコート「HIBIYA FOOD HALL」(筆者撮影)

この東京ミッドタウン日比谷にあるフードコートが、地下1階の「HIBIYA FOOD HALL」だ。細長い形状のフードコートで「行き止まり」ではなく通り抜けできる構造となっている。

フードコートとしての共有座席は細長いエリアの中央部にあり、100席もないくらい。

前回紹介した「玉川高島屋S・C」のフードコート(90席)と同じくらいで、極端に少ないわけでもないが、HIBIYA FOOD HALLは通常のフードコートと比較してちょっと特殊。

エリアの端に飲食店が立ち並び、それらの店でイートインできるとともに、注文したものを持ち出して、共有座席で食べられる仕組みをとっている。

同様のシステムをとるフードコートとしては、中野マルイの「HARA8(はらっぱ)」が近いだろうか。

訪問したのは週末の、正午前。フードコート用の座席は、ベビーカー連れを中心にファミリー層が多い。各店舗のイートインは、デートと目される2人組や、年配のグループが目立ち、それぞれで住み分けられているようだ。幸い、まだ満席状態ではないのですぐ席にありつけた。

ざっと他の客を見ていて気になることが一つ。一応、入り口のところに「HOW TO」としてフードコートの使い方をレクチャーする看板はあるものの、フードコートとしても利用できることがちょっと分かりにくいように感じた。

実際、(確信犯かもしれないが)単なる休憩スペースと勘違いしてしまい、明らかにこのフロアで買ったものではないものを食べているグループもいた。

運営側のコンセプトが伝わりきらないのは、この手のハイソなフードコートではままあることだが、ちょっと切ない気持ちになる。


フードコートであることが、ちょっと分かりにくいかも?(筆者撮影)

どことなく「鹿鳴館」風味を感じるフードコート

それにしても、さすが日比谷。最初に足を踏み入れた印象は、レストラン街の真ん中に、ポツンと休憩用の座席があるような感じ。が、よく見ると椅子はそれぞれデザインが異なっており、こだわりを感じる。


椅子にこだわりが見られる(筆者撮影)

また、フードコート内にエレベーターが直結しており「エレベーターガール」というわけではないが、エレベーターの扉を外側から開閉したり、フロア案内をしたりするスタッフが常駐している。なんだかちょっと高級感のある空間である。


エレベーターが直結している(筆者撮影)

さて、どの店にしようか。公式Webサイトでは、施設内の飲食店をいくつかの利用シーンで分けており、HIBIYA FOOD HALLには「仲間と気軽に。」というテーマが割り当てられている。それぞれの店で買ったものを持ち寄り、シェアして楽しむのを推奨しているようだ。

入居している店は結構「昼飲み」欲をかきたてられるラインナップで、確かにフードをシェアしつつ、昼飲みするには適している。鹿鳴館時代の社交要素を感じるのは、考え過ぎだろうか。

店のチョイスも非常に魅力的だ

フードコート内は全8店舗が営業している。

ラインナップを見て感じるのが、結構国際色が豊かなこと。ピンチョスが充実している「Bar&Tapas Celona」や、フランス流のベーカリー「JEAN FRANÇOIS」に加え、ニューヨーク流のミートボール専門店「Susan's MEAT BALL」。


ミートボール専門店とは、珍しい(筆者撮影)


気になったが、注文方法がちょっと複雑だ(筆者撮影)

同じくニューヨーク系で肉料理をそろえる「BROOKLYN CITY GRILL」に、ボストンの名を冠する「BOSTON Seafood Place」とアメリカ系が多めだが、アジアからは「VIETNAMESE CYCLO」と、目が移る。またこじつけだが、海外色ゆたかなのも、鹿鳴館をほうふつとさせる。


BOSTON Seafood Placeは店頭に海鮮が並んでおり、目を引く(筆者撮影)


フードコートでピンチョスにハッピーアワー。そそられる(筆者撮影)

サラダメニューが充実している「Mr.FARMER」や「日比谷焙煎珈琲」もあり、ガッツリ食べたい人からヘルシーに済ませたい、あるいはお茶だけと多彩なニーズに対応する。


イートインスペースとしては、Mr.FARMERが一番人気に感じた(筆者撮影)

「昼飲み」に最適なフードコートが、ここにある

悩んだ挙句、第1巡選択希望店舗はBar&Tapas Celonaとした。ずらっと並ぶピンチョスが非常に魅力的だったのだ。

ハッピーアワーでアルコールメニューが安いのも強い。フードコートのコンセプト的にも、みんなでいろいろと買って、ワイワイ楽しむ人が多そうということもあって、チョイスした。それにしても、なぜ人はここまで昼飲みの魔力に弱いのか。


ピンチョスがずらっと並ぶ(筆者撮影)


見ているだけで楽しい(筆者撮影)

2軒目は、反対に普通にしっかりと食事をとる目線から、VIETNAMESE CYCLOでベトナム料理を。「コムガー」なるベトナム風チキンライスを注文した。

注文するときに「店内ですか?」と聞かれたので「いえ、フードコートで……」と答えたら「持ち出しですね!」と返されて、ちょっと恥ずかしかった。ここではフードコートで食べるのを「持ち出し」と呼んでいるようだ。


どれだけ洒落たフードコートでも、この呼び出し機があるのだと感動した(筆者撮影)

そうこうして、注文したものがそろった。スパークリングワイン1杯ではあまりにももったいない、何ともぜいたくな光景が広がる。


それにしても、昼飲みの楽しみ方が無限大なフードコートである(筆者撮影)

Bar&Tapas Celonaでは、ハッピーアワーのスパークリングワインに加え、アリオリポテトとナスのピンチョスを注文した。

超一等地なのに(?)コスパは非常に良好だ

この3品で、1000円とちょっと。物価高で「せんべろ」も難しい今、結構コストパフォーマンスは高いのではないか。これを3人、5人で集まってやれば、きっと楽しいはずだ。


3品で1000円少々の「勝手バル」セット(筆者撮影)

アリオリポテトとは、にんにくのきいたスペイン風のポテトサラダである。アンチョビの風味がしっかりとあり、きわめて酒が進むメニューとなっている。ナスのピンチョスは「ピカディージョ」という、ひき肉ソースがのっており、何個でも食べられそうな勢いである。


アンチョビしっかりのアリオリポテト。こんな本格的なメニューがフードコートで味わえる(筆者撮影)


ピカディージョたっぷりのピンチョス(筆者撮影)

コムガーは、スープだけなら分かるが、全く予期せず生春巻きなどのつまみ系メニューまで付いてきた。

さすがに今回は平静を保つために1杯でおさえるが、そうでなければ余裕でもう1杯、いっていただろう。


メインだけかと思いきや副菜が充実していた(筆者撮影)


日本では食べなれない味わいのコムガー(筆者撮影)


生春巻き付きはラッキーすぎる(筆者撮影)

初めて食べたコムガーは、甘めの味付け。黒蜜のような風味のソースがかかっていて、独特の味わいである。つけあわせのピクルスの酸味や、生春巻きに入っているシソの風味など、さまざまに味覚を刺激してくれる。

うれしいのが、セットにお茶まで付いていること。「ロータス茶」というお茶で、蓮で香り付けをしているらしい。

飲むのに最適、オトナのためのフードコートだった

食べ終えて、ほっと一息をつく。最近はメジャーなチェーンでは勝負せず、空間やコンセプトに注力しているフードコートが増えているが、東京ミッドタウン日比谷のオープンは2018年と考えると、その先駆的な立ち位置といえるかもしれない。

渋谷サクラステージに登場したフードコートといい、「『フード』コート」ではありながら、これからはフードコートで飲む時代が本格的に到来しそうだ。

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(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)