「コスパ」重視の婚活男が急増"物価高以外"の理由
口を開けば「コスパ」「コスパ」――。婚活で「コスパ」を重視する男性が急増中。背景には経済状況だけじゃない理由がありました(写真:jessie/PIXTA)
結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回は、婚活の中で「コスパ(コストパフォーマンス)」を連呼する男性が増えている点に着目。彼らはなぜそこまでコスパを重視するのかについて解説します。
「コスパ」をめぐる不幸な勘違い
近頃「コスパを重視しています」などと、やたら「コスパ」という言葉を口にする男性会員さんに何人も出会います。コスパという言葉が若者言葉として浸透した世代が婚活世代になったといえるのかもしれません。
そして、彼らはどうやら言葉の意味を「値段が安ければいい」と曲解しており、それをカッコいいことだと勘違いしているようです。ただ、女性から見ると、彼らの言動はただ単に「ケチ」という印象を持たれることが多いのが実情です。
例えば、初デートで食事に行く場面。「コスパ」が口癖の男性の場合、最も安いコースを選ぶ方が、聞いている話だと7割以上。しかも、黙っていればいいのに、わざわざ女性の前で「このコース、コスパいいよね」などと得意げに言ってしまうのです。最安コースを選んだことを「俺って経済観念がしっかりしていて、すごいだろう」と、自己アピールの材料にしたいようですが、これでは女性に対する配慮が感じられず、印象を悪くしてしまいます。
30代で、いわゆる「士業」に就いている翔さん(仮名)は年収1500万円。駅から遠い格安ワンルームマンションに住んで節約し、すでに5000万円もの貯蓄があります。高収入男性が無料で入会できる結婚相談所に自信満々で入ったものの成果が出なかったため、当相談所に入会しました。
翔さんは「コスパがいいように、1日に3件のお見合いを組んでください」と要求します。しかも、交通費を節約するために、3人とも渋谷なら渋谷、新宿なら新宿というように、同じ場所でお見合いをセットしてほしいと言います。
通常は、お見合い相手の都合も考えて、時間と場所を調整します。同日に3人、しかも同じ場所はかなり難しいわけです。しかし、翔さんは意にそぐわないと、「これだと交通費がかかってコスパが悪い」と主張。「お相手の事情もありますので、これが限界です」と説明してもわかってもらえません。
徹底した翔さんの「コスパ」重視
初デートは通常、ランチやディナーを楽しむものですが、翔さんは必ず散歩を提案します。あるときは3時間、4時間とひたすら歩いて、女性が「足が痛い」と訴えると、ようやく「ベンチに座ろうか」と言いました。女性が「お腹が空かない?」と尋ねても、「空いてないよ。朝ご飯をいっぱい食べてきたから」と返し、自分のことしか考えていない様子だったそうです。
3回のデートすべてが散歩で、業を煮やした女性が「カフェに入りましょう。私がごちそうします」と申し出ましたが、翔さんは「女性におごってもらうわけにはいかない。男のプライドが許さない」と断り、コーヒーとスナック菓子を購入しました。
結局、食事らしい食事はしないまま、デートは夜9時すぎに終了。女性は帰り道、コンビニで買ったお弁当を手に「コスパ男子はいやだ」と涙がこぼれたそうです。
「結婚したらどんなところに住みたいですか?」と、結婚後の新居の話になると「駅から15分歩くと家賃がグッと下がるので、コスパがいい」と翔さんは言います。
翔さんの自宅は駅から徒歩30分ほどの距離にあり、女性がヒールで長時間歩くことは大変だと気づいていません。揚げ句の果てに、こう言ったそうです。
「歩くのが嫌なら、自転車を貸してあげますよ。僕の自転車は10年前に1万5000円で購入したもの。年間1500円、1カ月125円。コスパがいいでしょう」
翔さんはカウンセリングでも「コスパ」を連呼するため、私が「正」の字を付けて数えたところ、45分間に17回も発言していました。
もちろん、コスパを重視することが悪いわけではありません。結婚後であれば、「節約家」や「お金を上手に使える人」として好意的に受け取られることも多いでしょう。
しかし、婚活女性にとって結婚は夢。コスパよりも2人で楽しい時間を共有できるデートプランを企画してほしい。さもなければ、単なるケチな人に見えてしまいます。
ある女性は、「翔さんと比べたら、それほど気前のいい男性でなくても、ごく普通の金銭感覚を持っているというだけで天使のように見えます」と言っていました。
映画館やホテルでも「コスパ」重視の嵐
とにかく安く済ませることを「コスパ」という言葉で正当化している男性は、翔さんだけではありません。ある男性は、都内の無料で入場できる施設やデパートの休憩室などを細かく調べ上げ、「デートではペットボトル飲料を購入して、そこで1日過ごす」と自慢げに話します。
デートで映画のチケットを買うときに、持ってきたはずの映画館の優待券が見つからず探し続け、結局、映画が始まってしまったという男性もいました。当然、女性は困惑。さらに、女性がポップコーンを買おうとしたところ、「高い。あとでコンビニで何か買ったほうがいい」と主張し、女性は呆れてしまったそうです。
デートで100円ショップに連れていき、「何か1つ買ってあげるよ」と恩着せがましく言った男性も……。お相手の女性は、100円ショップでプレゼントされてもうれしくないと言っていました。
また、お見合いはホテルのラウンジがよく利用されますが、お茶だけで2人で5000円ほどかかってしまいます。そのため、ある男性は帝国ホテルで待ち合わせしておきながら、「近くのチェーン店に行きましょう」と誘導したそうです。
結婚式の準備でもめることも日常茶飯事です。女性にとって結婚式は一生に一度の晴れ舞台。ランクが2つ上の、見栄えがいいウェディングドレスを着たいと希望しても、男性は関心がなく、「パック料金内のものでいいんじゃないの?」と言い、破談になるケースもあります。エンゲージリングでも同様のことが多々起きます。
「結婚相談所はコスパがいい」と言って入会してきた40代男性もいました。マッチングアプリでは相手を探すのに時間がかかり、女性と会うときにはお茶や食事などをごちそうしなければならず、費用がかさむと考えたようです。「結婚相談所でもお見合いのときにお茶代はかかりますよ」と説明しましたが、「でも相手を探してくれるからコスパがいい」と言います。
その男性は20代の若い女性を希望していましたが、「よほど年収が高かったり、何かよっぽどの強みがないと、20歳も年下の女性との結婚は難しいですよ」と率直に伝えたところ、「それならパパ活のほうがコスパがいいや」と言い出しました。
女性に高年収や裕福な実家を望む男性が増加
デート代を1円単位までワリカンする男性も少なくありません。電子マネーが普及した昨今は1円玉を持ち合わせていないことも多く、女性が「今日は小銭を持ってこなかった」と言うと、「必ず返してね」と念押し。ここまでお金に対してシビアになってしまうのは、家賃や生活費が高騰している今の経済状況も背景にあるでしょう。
年収1000万円以上ある30代男性の翼さん(仮名)は、年収1000万円以上もしくは資産家の女性にしか興味がありません。自分の収入を夫婦2人のために使いたくないと考えているのです。
実は、翼さんのような考えを持つ男性は意外と多いのです。とくにコロナ禍以降は、かなり高収入の男性でも「自分と同じくらい稼ぐ女性がいい」と、女性の年収を重視するようになりました。
また、社内では女性社員、女性上司も当たり前の時代。さらに、結婚か既婚か、子どもの有無など家庭の事情を気軽に聞くことはハラスメントになることもあって、もはや専業主婦が想像できないということも背景にあります。
翼さんは、30代の女性・美月さん(仮名)とお見合いしました。美月さんは父親が経営する会社で事務をしており、それほどガツガツと働かなくてもしっかりとしたお給料がもらえています。
翼さんは美月さんにこう言ったそうです。「君の働き方はコスパがいいね」。
美月さんが「将来、子どもができたら3歳から幼稚園に入れたい」と希望したところ、翼さんは「ゼロ歳から保育園に預けて働き続ければいいじゃない」と反対しました。しかも、両親へのあいさつの場で「育児中は時短勤務でそんなに働かなくても、お給料はきちんと出してくれますよね」と発言。結局、破談となりました。
私から翼さんにやんわりと「育児に専念したい女性もいますし、働き方についてはよく話し合うことが必要です」と説明したところ、「じゃあ、働かなくてもいいですけど、その代わり親から仕送りをしてもらえる女性がいいです」と言っていたので驚きました。
「コスパ」連呼はコミュ力の低下が一因
真にコスパの意味を理解している人は、不動産選びや投資などを上手に行います。例えば、女性と2人で家を探す際に、会社の家賃補助がいくら支給されるか、どちらの補助を利用するのが得かなどを検討。家賃補助を受けるために「来月中に籍を入れます」と宣言します。
このような男性は女性からも好感度が高いですが、取り立てて「コスパがいい」といった言葉は口にしません。
コロナ禍の数年間で、婚活世代のコミュニケーション能力が低下していることはつねづね感じていました。「コスパ」を連呼する原因も経済状況だけでなく、相手がどう思っているか、どう思われるかを想像する能力が落ちていることが原因の1つだと、私は考えています。
一方で、逆説的ではありますが、プラスの変化もあります。前述のように男性が女性にも対等に稼いでほしいと考えるようになったため、高年収の女性に結婚のチャンスが広がったのです。
コロナ禍以前は、男性は女性の年収をそれほど気にしない、むしろ高収入の女性を避ける傾向がありました。今はプロフィール欄に収入を明記している高収入の女性が選ばれています。
(植草 美幸 : 恋愛・婚活アドバイザー、結婚相談所マリーミー代表)