宗教2世から、自らどっぷりハマった人まで。カルトと関係していたセレブ
個人の精神的自立を奪い家族や社会の基盤を崩壊させるカルトは、私たちとは無縁の存在ではなく、実は想像以上に身近に存在している。ここでは、脱退後も洗脳の影響に苦しむ宗教2世から、自らカルトに傾倒し社会から批判を受ける人物まで、カルト団体と繋がりがあったセレブたちをご紹介。AU版『ELLE』より。
ホアキン・フェニックス『ジョーカー』のホアキン・フェニックスはカルト宗教「神の子どもたち」で生まれ育ったことで知られている。2014年の『プレイボーイ』誌のインタビューで、彼はその経験について次のように語っている。
「『神の子』の話になると、いつもどこか非難めいた雰囲気が漂ってきます。連座制による罪悪感です。両親は本当に無実だったと思います。本当に信じていたのに、多くの人はそうは考えてくれない。私はそれは変だし不公平だと思います」
現在は「ファミリーインターナショナル」として知られる「神の子供たち」は、セックスを使って「神の愛と慈悲を示し」、改宗者を獲得する伝道方法を始めたセックスカルトで、子どもへの組織的な性的虐待が行われていたことでも悪名高い。ホアキンの両親は徐々にグループの活動の不穏な性質に気付き、ホアキンが3歳頃に家族で脱退した。
「両親は自分たちと理想を共有する共同体を見つけたと思ったんだと思います。 カルトは自分たちのことをカルトだとは宣伝しませんから。 たいていは『私たちは同じ志を持った仲間です』と近づいてくる。でも私の両親は、それ以上の何かがあると気づいた瞬間、抜け出したのだと思います」
ローズ・マッゴーワン
ホアキン・フェニックス同様に、ローズ・マッゴーワンも幼少期を「神の子どもたち」 で過ごしている。ローズの父親はイタリアのフィレンツェ郊外にある同セックスカルトのイタリア支部のメンバーで、カルトが子どもとの性行為を推奨し始めたことで危機感を感じ、ローズが9歳のときに家族で脱走したそう。
2011年の『ピープル』誌のインタビューの中で、ローズはカルトを脱退した後も続く洗脳について次のように語っている。「(気が付けば)私のキャリアの多くや人間関係でさえ、『神様は私にこれをやらせたいのだ』という考えに基づいているのです。本当に恐ろしいです」
パトリシア & デビッド・アークエット俳優のパトリシア・アークエットと弟で同じく俳優のデビッド・アークエットは、両親らがメンバーのバージニア州にある「スカイモント・スブド教団」で生まれ育った。スブド教団は1920年代にインドネシアで“預言者”のムハマド・スブド・スモハディウィジョジョによって設立されたもので、アークエッド一家は「内なる導き」の名の下に、コミューン内で水道、トイレ、電気のない生活を送っていたという。後に家族でコミューンを離れて、より普通の生活に戻ったが、両親がドラッグ中毒だったため、家庭内は荒れていたという。当時の生活についてパトリシアは「家の中はドラマだらけでした。椅子が飛び交っていました」と語っている。
「カルト」と呼ぶよりむしろ「コミュニティ」に近いかもしれないが、ウィノナ・ライダーの一家は彼女が7歳の時、カリフォルニア州メンドシーノにあるヒッピーグループ「レインボー・ファミリー・オブ・リビング・ライト」のコミューンに移住。他の7家族と共に、380エーカーの土地で電気もテレビも音楽もない生活を送っていた。
ウィノナは成長期のほとんどを読書に費やし、母親が農場の納屋でスクリーンを使って子どもたちに映画をこっそり見せてくれたことをきっかけに演技に興味を持つようになったそう。
ミシェル・ファイファーミシェル・ファイファーは2013年、かつて自分が一種の“カルト”の一員だったことを明らかにした。ハリウッドのパーソナルトレーナー2人が率いるこのグループは、日光が身体に必要なものをすべて提供してくれると信じ、食べ物も水もなしで生きる「ブレサリアニズム (呼吸食主義または不食主義)」 を実践していた。
「彼らはウェイトトレーニングをしたり、人々にダイエットさせたりしていました。彼らは菜食主義でした」と彼女は2013年のテレグラフ紙のインタビューで語っている。
「彼らはとても支配的でした。一緒に住んでいたわけではありませんが、よくそこに行って、もっと来るようにといつも言われていました。滞在期間中はずっとお金を払わねばならず経済的にとても辛かったです。彼らは最高の状態はブレサリアンになることだと信じていました」
グレン・クロースアカデミー賞に何度もノミネートされてきた名俳優グレン・クローズは2014年に自身のカルト的な子ども時代について語り、そこからどのように脱出したか、どのような精神的ダメージを受けたのかを詳しく語った。グレンの父親は、彼女がまだ7歳のときに家族を右翼宗教団体「道徳再武装(MRA)」に入会させた。
「(何年もの間)私は自分の直感を一切信じませんでした。なぜなら(私の信念)はすべて他人に押し付けられたものだったからです」と彼女は『ハリウッド・レポーター』誌のインタビューで語った。
「基本的に何も許されず、不自然な欲求に対して罪悪感を抱かされました。7歳から22歳まで、どう生きるべきか、何を言うべきか、どう感じるべきかを基本的に押し付ける集団に属していた人は、それが深く心に刻まれています。あらゆる言動のトリガーポイントになっているため(意識的に)克服しなければなりません」
アリソン・マック2世ではなく、自身が積極的にカルトに関わり、有罪判決まで出たセレブもいる。ドラマ「ヤング・スーパーマン」などで知られる俳優のアリソン・マックは自己啓発カルト「Nxivm」に女性たちを勧誘し、女性たちを性奴隷に仕立てて、グループの創設者キース・ラニエールに献じていたことが判明。彼女が接触を試みた女性のなかには、なんと俳優のエマ・ワトソンの名前も!
マックは組織犯罪と恐喝および強制労働の共謀の罪で有罪を認め、2021年に懲役3年の刑を宣告された。彼女は2年の服役の後、2023年に刑期短縮で釈放されている。
2019年にイェことカニエ・ウェストが結成した日曜礼拝のゴスペルグループはセレブカルトの様相を呈していると指摘されている。友人セレブらを招いて、クローズドで行われる礼拝では丘などに参加者全員が同じ色の衣装を身につけて集まり、コーラスが大音量で繰り広げられる。その様はまるで1980年代にオレゴン州で物議を醸したカルト施設「ラジニーシプーラム」にそっくりだ。
過去には「自分は神だ」と宣言したこともあるカニエ。過激で支配的な言動とカリスマ性、そしてそれに惹きつけられるファン(信者)の構造は常にカルト化の危険性をはらんでいると言えるだろう。
Translation & Text : Naoko Ogata