高齢の両親が2人で住んでいたという5LDKもの広い一軒家。一見、モノやゴミは少なそうに見えるのだが……(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

遠方に住む80代の母親の異変に気付いてから、実家を処分するまでわずか3カ月の出来事だった。突然訪れた「実家じまい」に、5人家族は慌てふためいていた。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信するゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)。代表の二見文直氏に、多くの人にいつかは訪れる「実家じまい」のリアルを聞いた。

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押し入れは“謎アイテム”の宝庫

約40年前、父親が当時のニュータウンに建てた一軒家。長らく両親と3人の子ども(長女・長男・次女)が5人で暮らしていたが、子どもたちは1人ずつ独立し、最後は両親が2人で住んでいた。

片付けの依頼を受け、イーブイのスタッフが家の中に入ってみるが、生ゴミが散乱しているわけでもなければ、モノで足の踏み場がないわけでもない。

しかし、5LDKという広い空間。加えて、押し入れやタンスといった収納部分がやけに多い。しかも、昔の家にありがちな奥に深い収納空間で、その中は長年溜め続けたモノでびっしりと埋め尽くされている。


奥行きのある押し入れには、モノがびっしりと詰まっている(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


古いタンスや衣装ケースなど、とにかく収納が多い(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

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とくに多いのは、引き出物のようなギフト類と衣類。庭には植木鉢やガーデニング用品も転がっている。これは見た目以上に物量がありそうだ。

押し入れの中身を仕分けしながら、「イーブイ」代表の二見文直氏(以下、二見氏)が話す。

「やっぱりモノの量は押し入れが一番多いですよね。押し入れって“謎アイテム”の宝庫なんですよ。使わなくなったモノをとりあえず押し込んでしまう傾向があるんです。床にモノが散乱していたらゴミ屋敷に見えますけど、それをすべて押し入れに詰め込んでしまえば片付いているように見えてしまうんです」


キッチンによくある床下収納には、忘れていたようなモノが入っていることも(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

住人に「ゴミ屋敷・モノ屋敷」の自覚がなくても、いざ実家じまいをするとなったとき、想定外の物量を前に立ち尽くしてしまうことがよくある。いたって普通の、強いて言えば生活感にあふれた実家には、実はかなりの量のモノが潜んでいるのだ。二見氏が続ける。

「家具や家電の数がどれだけあろうと、外に出してしまえばそれで終わり。物量にはそれほど影響しません。問題は押し入れやタンスなどの収納部分です。そこがモノでパンパンになっていると、仕分けをしたときに一気に膨らんでしまうんです」


1階から片付けていくスタッフ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

突然、実家じまいに追い込まれた理由

この家にはつい最近まで高齢の両親が2人で暮らしていたが、突然「実家じまい」をすることになった。そのきっかけは母の緊急入院だった。今回、イーブイに片付けの依頼をした長女に聞いた。

「この家には両親が2人で暮らしていましたが、母が病気で入院せざるをえない状況になったんです。こっち(関西地方)で入院してもらおうとも考えましたが、私も妹も東京に住んでいます。この際、両親の面倒を姉妹で見ようという気持ちになり、2人を呼び寄せることにしたんです。“処分”という言い方はつらいですが、実家はもう誰も住まないので手放すことにしました」


「想定以上にモノが多い」と話す、イーブイの二見文直社長(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


1階ダイニングの隣にある和室を片付けるスタッフ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

決意からわずか3カ月で終えた実家じまいだが、その過程は決してスムーズなものではなかった。

大学生になった子どもたちの学費のために土日も働いていましたし、コロナ禍の時期でもあったので実家にはほとんど帰れていませんでした。両親とは電話でやり取りはしていましたが、ちょっと落ち着いた頃に実家へ帰ると母がだいぶ弱っていたんです。家も散らかり出しているし、言動もおかしいし、慌てて医療機関へつないだんです」

しかし、ここで問題が起きた。母に病識(病気であるという自覚)がなかったのだ。

「母は病院で処方された薬を飲んでくれず、父は困り果てていました。薬は飲まない、食事もとれない、夜は眠れない……、これでは命の危険まであるということで緊急入院することになったんです。病院の先生が提示したのは、実家の近くの病院で入院するか東京の病院に入院するかの2択でした。先生の意見にも後押しされる形で、家族5人で車に乗って東京の病院へ向かいました」


2階は1階に比べるとモノが少なかった。主に布団や衣類を片付けていく(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


2階の廊下にも押し入れのような大きな収納が(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

1人暮らしの高齢者が認知症になると、家はどうなるのか

「母は階段から転落していたこともあったので、2階にはほとんど上がらないようになっていました」

長女がそう言うように、実家の階段には滑り止めのマットが貼り付けられている。その階段を上がった2階は使っていた形跡がなく、モノの量も1階に比べると少ない。そんな理由から、歳をとった後は階段のないマンションへ引っ越す高齢者も少なくない。


母が階段から転落して以降、2階はあまり使っていなかったという(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

しかし、それ以上に浮き彫りになってくるのは認知症の問題だ。1人暮らしであればなおさらである。

体への負担からゴミ出しが困難になるだけでなく、認知症になれば細分化された分別ルールや収集日の把握が難しくなる。ゴミ出しの曜日や時間を守れず、近隣トラブルに発展するケースもある。


生モノ、金属、陶器と、特に仕分けが大変だというキッチン(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「高齢者ゴミ出し支援制度」を設けている自治体も

そこで、一部の自治体が設けているのが「高齢者ゴミ出し支援制度」だ。主に65歳以上の高齢者や要介護認定を受けている1人暮らしの高齢者が対象で、地域のボランティアや自治会、NPO、市の職員が各家庭からゴミを収集し、ゴミ捨て場まで運んでくれる。

利用者は無料でサービスを受けられるケースが多いが、中には数百円程度の利用料が必要な自治体もある。


ダイニングにも所狭しと収納が並んでいる(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


1つずつ仕分けながら片付けていく(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

しかし、住んでいる自治体がその制度を設けていない場合や、困っていてもサービスが利用できる条件に当てはまらない人たちもいる。

制度から漏れた悩みは、地域包括ケアセンター(※高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けられるように、医療・介護・予防・生活支援・住まいの各サービスを総合的に提供・調整する拠点)や介護施設をつたって、イーブイのような片付け業者に流れてくる。

その実態を二見氏に聞いた。

「地域包括ケアセンターと連携を取っているわけではないんですが、よく依頼の連絡をいただきます。しかし、そのほとんどが『予算が3万〜5万円』など相場を大きく下回った依頼で、正直言うと対応できないことが多いです。その場合、地域包括ケアセンターの方が無償で片付けを行うこともあるようです」


すっかりきれいになった1階の和室(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

介護施設の場合も同様だ。

「受け入れ先の介護施設が手取り足取り片付けの手配をしていることもあります。だいたいのケースで費用は住人が払うことになるのですが、払えない場合は介護施設の職員が片付けることもあります。そうしないと入居できませんから。なんとかしたいという思いはありますが、私たちもボランティアではないのでできないこともあります。歯がゆい思いをすることは多いですね」


見違えるように生まれ変わった1階のダイニング(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

実家じまいは「前向きなもの」である


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半日がかりで片付けは完了し、実家は空っぽになった。その広さに驚いている長女の様子からもやはり、かなりの物量だったことがうかがえる。

「母は買い物が好きで、どこかへ出掛けたら店の人に対して“何か買ってあげないといけない”という気持ちになってしまうような人でした。やっぱり時代でしょうかね。モノの多さ=豊かさの象徴という風潮もあったんだと思います。

帰る場所がなくなるというのは寂しいです。でも、年老いた両親の姿を見ると、そんなことを言っている場合ではないですね」


押し入れにモノが詰まっていた部屋もすべて一掃された(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

実家じまいが終わったとき、寂しさが込み上げる一方で「肩の荷が下りた」と話す人も多い。しかし、実家がなくなった後も家族の生活は続いていく。

「実家じまいは終わりではなくスタートです」

そう二見氏は言う。実際、この家族も実家じまいをしたことで、離ればなれになっていた家族が再び一緒に暮らすことになったのだ。


丁寧に仕分けし、壁もきれいに拭き掃除されたキッチン(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


片付け後の1階の部屋を見て、「高校生の頃を思い出す」と話した依頼者(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

(國友 公司 : ルポライター)