「ヒット商品」あっても"経営危機"に陥る企業の盲点
ヒット商品に恵まれた企業が陥りやすい落とし穴について解説します(写真:tabiphoto/PIXTA)
どの企業もヒット商品を出したいと願うもの。ですが、街の小さな電気店を売上高約340億円の企業に育て上げた経営者の大坂靖彦氏は、「ヒット商品が生まれても、それが地獄への入り口になることも多い」と言います。『中小企業のやってはいけない危険な経営』から一部抜粋・再構成のうえ、ヒット商品に恵まれた企業が陥りやすい落とし穴について解説します。
ヒット商品に恵まれても安泰なわけではない
「手間をかけなくても毎年売れ続けて、売上の大半を支えてくれるようなヒット商品があればなぁ」
中小企業の社長なら誰でも、そんな風に思うことがあるはずです。
そして、さまざまな試行錯誤を重ねていくうちに、運良くヒット商品に恵まれることもあります。急に売上が2倍、3倍と増えていき、商品を求める電話が鳴り止まなくなるのです。
社長も社員も「やった。これで我が社も安泰だ」と大喜びでしょう。
しかし多くの場合、それが地獄への入り口になるのです。
あるアパレル会社は、世界的な有名ブランドとのライセンス契約を獲得して、そのブランド名を冠した商品を製造・発売しました。するとこの商品シリーズがヒットして、同社の屋台骨を支えるようになり、会社は大きく成長しました。ところが、そのブランドとのライセンス契約が終了することになります。そのブランドがグローバルに直営展開する戦略を採用したためです。
これにより、同社の業績は急激に悪化しました。テナントビルをはじめ保有資産を切り売りしたり、大量の希望退職者を募ったりと、生き残りを図らなければならない経営危機に陥りました。
この会社が苦境に陥った直接的な理由は、海外ブランドとのライセンス契約が終了したことかもしれません。しかし本来、どんなヒット商品でも必ず寿命があり、また、それがいつくるかはわからないので、常に寿命がきたときに備えておく必要があるはずです。その備えを怠っていたことが、同社の危機を呼び込んだ本質だといえます。
そして同社のように、ヒット商品が出たあとに、逆に経営危機に陥るというパターンは、多くの中小企業でも見られます。
ヒット商品が生まれたらその商品の寿命を設定する
ヒット商品が出たあとに会社が経営危機に陥るのには、いくつかの理由があります。
まず、「うちはこの商品で、当面は食べていける」と感じることで、社長をはじめ社内の空気が緩んでしまうこと。中には「俺は成功した」とばかりに、慢心して仕事をおろそかにしてしまう社長もいます。
セミの卵が幼虫になり、さなぎを破り成虫になっていく様を「蛻変(ぜいへん)」といいますが、経営もいつも新しい価値観に向けて社長・会社が、「脱皮・変身・成長」を繰り返していくようにすることが必要です。それなのにヒット商品を生んで、うちは成功したなどと考えた途端、経営にとってもっとも大切な「脱皮・変身・成長」から遠ざかっていき、没落への道を進んでいくのです。
次に、売上を最大化するために、社内体制をヒット商品の製造・販売に最適化し、社内リソースを集中させてしまうこと。そんな体制にしてしまえば、いずれヒット商品の寿命が尽きたときには、すべてが逆回転します。
ヒット商品は放っておいても売れます。知恵を絞って工夫して売る努力が必要ありません。だから、ヒット商品だけに頼っていると、新製品開発力、新規営業力など、会社を成長させるための力が全体的に落ちていきます。そのため、ヒット商品の寿命が尽きたとき、それに代わる新たな収益源をすぐに生み出せなくなるのです。余裕のある大手企業ならともかく、中小企業であれば一気に倒産に進む危険もあります。
本来、ヒット商品に恵まれるのは幸運なこと。でも問題なのは、それに頼り切って安心してしまう社長や社員なのです。
そこで、ヒット商品が生まれたら、その商品の寿命を設定します。それも、通常の想定よりできるだけ短く設定することです。例えば、市場調査で、あと5年くらいは売れ続けるだろうという結果になったら、寿命を「3年」と設定するのです。そして、その3年間は無駄を省いて利益を最大化して、できるだけ累積利益剰余金を積み重ねます。
その一方で、設定した寿命のうちに、できるだけ早くに次のヒット商品を出せるような社内体制を作ります。ヒット商品を担当する部門とは別に、新業態や新商品を開発する部門を設けて、開発や新規取引先開拓を続けるのです。
こうして、ヒット商品が売れている間に、会社の足元を固め、変化に耐えられる体力を強化しておけば、いずれ次のヒット商品を生み出せるはずです。
模倣自体は恥ずかしいことではない
ヒット商品を開発するために、他社の商品を参考にし、ときには模倣することもあるでしょう。模倣はいけないことかというと、そんなことはありません。
古今東西、優れた学問、芸術、文化、そして経営の多くが模倣からはじまっています。
先人の作り出した知見の本質を見抜いて模倣し、そこに少しだけ新しいものを付け加えた人が、偉大な学者、芸術家、経営者となったのです。
18世紀フランスの哲学者・文学者のヴォルテールは、「独創性とは、思慮深い模倣にすぎない」と述べていますし、スペインの画家サルバドール・ダリは「何も真似したくないなんていっている人間は、何も作れない」と断じています。
経営の世界でも、例えばAppleの創業者スティーブ・ジョブズは「偉大なアイディアを盗むことに関して恥じることはない」といっていました。
そして、そのAppleを徹底的に模倣した中国のXiaomi(シャオミ)は、売上高が日本円で5兆円超、中国国内でのスマホの市場シェアが本家のAppleを超えました。今では、家電製品や電気自動車なども扱う巨大メーカーに成長しています。
もちろん、著作権や意匠権などの知的財産権を侵害するコピー商品は論外ですが、物事の本質を見抜いてモデル化して模倣することは、人類の進歩に欠かせない行為です。
経営の世界でいえば、経営資源の少ない中小企業は特に、他社で成功している事業や機能、組織などをヒントにしたり、ときにはその他社に直接教えをこうたりして、自社に応用して採り入れていくことは、絶対に必要です。
私たちの塾生でも、模倣戦略で成功した会社はいくつもあります。
例えば、もともとWebサイトデザインの事業をしていた会社は、高いシェアがあるマッチングプラットフォーム(「ヒトとヒト」や「ヒトとモノ」をつなぐマッチングサービス)のビジネスモデルを模倣して、同様のサイト運営をはじめました。ただし、模倣するだけでなく先行サイトを徹底的に研究して、オリジナルの機能やデザインを加えて改良したことで、多くの利用者を獲得しました。
さらに、このマッチングサイトを構築できるシステム自体を商品化して、横展開で販売する事業にも乗り出し、数年のうちに年商が5倍以上に急成長したのです。
安易な「猿マネ」では失敗する
ただし、ここで注意していただきたいのは、ビジネスの模倣は、表面的に同じことをするだけの「猿マネ」ではあってはならないということ。
まず、そのビジネスを実際に利用したり、新聞やネットで徹底的に調査したりして、どのような事業環境の中で、誰に対して、どんな価値を提供することで成立しているのかを構造化して把握します。ビジネスモデルの把握といってもいいでしょう。
次に、そのビジネスモデルの成功を成り立たせている構成要素を洗い出します。
そして、それらの要素を分類したり、極大化・極小化したり、組み合わせたりして、自社のリソースとかけ合わせて、どう取り込むのかを考えるのです。
その際にポイントとなるのが、自社のリソースで運営できるかという点です。
例えば、ビジネスによっては、利幅は大きくても、売掛金の回収期間が長くて資金が寝てしまうというモデルもあります。そういうビジネスでは運転資金がたくさん必要になりますが、自社ではそれが確保できるでしょうか。
固定費比率が高いビジネスモデルだったら、売上が損益分岐点を超えれば、売れれば売れるほど利益割合は増えますが、もしなんらかの事情で売れない時期があったとしても固定費は支払わなければなりません。損益分岐点を超えるまでは赤字になるので、その期間の資金は用意できるでしょうか。
店舗に販売員が必要なら、それを担当できる社員はいるでしょうか。新規採用するなら、教育できるマネジャーや店長を任せられる人材はいるでしょうか。
商品の仕入れ、資材の調達などのルートは開拓できるでしょうか。開拓できたとして、取引条件の契約を自社の望む内容にできるでしょうか。
これらはほんの一例ですが、そういったすべての要素をまかなうリソースがあるかどうか、それが会社の実力です。
参考とするビジネスモデルのエッセンスを、現在の自社のリソースや実力を踏まえたうえで、調整・応用して自社に採り入れられると判断できたなら模倣は試みるべきです。
自社の実力を踏まえない単なる表面的な猿マネでは、失敗するのは必定です。
(大坂 靖彦 : ビッグ・エス インターナショナル代表取締役)