「五月病じゃない?」似ている"体の病気"に要注意
今の時期の不調「五月病」とは限りません(写真:shimi/PIXTA)
環境変化で体調を崩すことも
進学や就職、転職、異動などの環境変化がある新年度から1カ月あまり。
ゴールデンウィークでひと休みして、学校や仕事に戻ろうとしたときに心や体の調子を崩してしまい、登校や出社ができなくなる場合もあります。これを日本では「五月病」と呼び、症状の程度はあれども、多くの人が経験することのある季節性の不調です。
この五月病という言い方が浸透してきたからか、「朝起きるのがつらい」「やる気が出ない」「疲れがとれない」「食欲がない」などの症状が出てくると、「自分はメンタルが弱いのでは」と不安になるかもしれません。
確かに五月病は、適応障害や軽度のうつ状態であることが多いですが、実はそれとは別に「体の病気」によって起こっていることもあるのです。
ここでは、五月病とよく似た症状を引き起こす内科的な病気を紹介しつつ、どこに相談すべきか、そのヒントをお伝えします。
日本と海外とは新年度の始まる時期が異なるので、5月とは限りませんが、季節の移り変わりによる日照時間の変化が気分の変調を引き起こすことは世界的に知られていて、季節性情動障害(Seasonal Affective Disorder:SAD)という病態は存在します。
その代表的なものが「冬にうつっぽくなる」SADですが、一方で、春や初夏に抑うつ症状が悪化する人もいて、逆転型SADと呼ばれています。
特徴的な症状は気分の落ち込み、不眠や早朝覚醒、食欲低下、焦燥感や不安などで、春はみんなが前向きになっているのに、自分だけしんどいと感じることが、症状を一層悪化させます。
アメリカでは大学の学期が9〜5月であるため、4〜5月は学業ストレス、就職活動の不安、人間関係の疲労が重なる時期とされ、日本の五月病と似た現象が起きやすいと報告されています。
季節変化や環境から受けるストレスが心身の不調の原因となるのは、万国共通です。
この時期の不調=五月病とは限らない
五月病は医学的には正式な診断名ではなく、多くの場合は「適応障害」や「うつ病の初期状態」として扱われます。これは、環境の変化に心と体がついていかず、ストレス反応として表れるものです。
症状は非常に多様で、やる気が出ない、イライラする、涙が出るといった心の不調に加えて、頭痛、胃の不快感、腹痛、動悸、疲労感、不眠、食欲不振などの身体症状も頻繁に見られます。
ここで注意したいのは、こうした症状が実は別の病気によって引き起こされている可能性もあるということです。
「これはストレスのせいだろう」と思って放置していると、重大な病気のサインを見逃してしまうことにもなりかねません。
では実際に、五月病と似た症状を起こす病気にはどんなものがあるのでしょうか。代表的なものをいくつかご紹介します。
●甲状腺の病気(機能低下症・バセドウ病)
甲状腺は喉仏の下にある蝶のような形をした臓器で、甲状腺ホルモンを分泌します。
このホルモン分泌に異常をきたした病気が、甲状腺機能低下症やバセドウ病(甲状腺機能亢進症)で、いずれもやる気の低下、疲れやすい、体重の変化、動悸、震え、不安感、不眠といった精神的・身体的な症状を引き起こします。
甲状腺が腫れるので診断が付く場合もありますが、診察では異常が見られない場合もあるので、血液検査をしなければ診断できません。甲状腺の病気の男女比は1:10で女性に多いため、男性では発見が遅れがちなので、注意が必要です。
血液検査は内科(一般内科、以下同)でもできますが、確定診断や治療は内分泌内科になります。
見逃されがちな男性の貧血
●貧血・ビタミン欠乏
鉄欠乏性貧血は月経のある女性に多く、およそ5人に1人が貧血ともいわれています。
貧血の原因は、とくに月経の出血が多いとか、食事が偏っているだけではありません。スポーツで汗をかくときに鉄が一緒に流れ出てしまうことも一因で、男性でも発症することがあります。
血液中のヘモグロビンの値を測定することで診断しますが、同時にフェリチンという項目を測定して、体内の鉄の貯蔵量を調べることも重要です。日本では検査会社によって男女でフェリチンの基準値が異なることが多いですが、世界的なコンセンサスは、男女とも30ng/mLが最低値とされています。
ベジタリアンやヴィーガンの人では、ビタミンB12の欠乏で貧血になることがあります。ビタミンB12は血液を造るのに必要なビタミンなので、貧血の原因となってしまうのです。
血液検査は内科でも可能ですが、治療は血液内科になります。
●閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
「眠っているのに疲れがとれない」「日中に強い眠気がある」場合、実は睡眠の質に問題があるかもしれません。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の原因は、眠っている間に舌が落ち込んで気道を塞いでしまうことです。息苦しいので眠りが浅くなり、頻繁に覚醒するため、慢性的な睡眠不足になります。
一般的に、太っている人が発症する病気と考えられがちですが、日本人では肥満のないOSAS患者が多いです。この時期は花粉症や寒暖差のアレルギーで鼻が詰まりやすく、OSASが悪化しやすい季節。集中力の低下や抑うつ気分につながることがあるので要注意です。
なかでも、もともと気道が狭く、子どもの頃からOSAS気味の方は、「日中に眠気を感じるようになった」という感覚がない場合があります。内科で相談のうえ、OSAS外来のある医療機関での検査や診療が必要です。
●自己免疫疾患(SLEなど)
比較的まれですが、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患でも、疲労感や抑うつ状態が表れることがあります。SLEは特に若年女性に多いため、注意が必要です。
検査は内科でも可能ですが、診断や治療は、膠原病科やリウマチ科になります。
●慢性感染症・慢性炎症
EBウイルスによる感染症や慢性肺炎、結核などの病気がだるさや体重減少、微熱といった不定愁訴として表れることもあります。原因がわからない体調不良が続くときは、こうした可能性も考えたほうがいいかもしれません。
内科で検査したあと、血液内科や呼吸器科、感染症内科での評価が必要となります。
不調を感じたら「内科」も選択肢に
「気分が落ち込んでいるから、精神科や心療内科に行くべきだろうか」と迷う方は多いと思います。もちろん、精神的な原因が強い場合には、それが正解です。
しかし、前述のような内科的な異常が原因である場合、精神科だけでは見落とされてしまうリスクもあります。
そこでおすすめしたいのは、まず「総合内科」や「内科(一般内科)」など、心身両面を診てくれる診療科で相談してみることです。最近では心身医学に詳しい内科医も増えています。
ちなみに心療内科では、心身医学に詳しい内科医が診療する場合もありますが、ほとんどは精神科医が診察していますので、ホームページなどで受診する医療機関を吟味する必要があります。
内科的な病気が否定されたら、心療内科や精神科を受診されるといいでしょう。「自分はメンタルが弱いから、心の病だろう」と思い込む前に、一度体の異常がないかをチェックしておくことは、とても賢明な選択です。
心も体も休ませるためにできること
先に挙げたような内科的な病気が見つからない場合、五月病の可能性が疑われるわけですが、この場合、五月病を防ぐ、あるいは悪化させないためにできることも、いくつかあります。
まずは生活リズムの安定が大切です。▼7〜8時間の睡眠、▼たんぱく質をしっかり摂る食事(炭水化物や甘い物は少なめに)、▼軽く息があがるようなスローなジョギングを10〜30分程度・週に1〜3回ほど行う運動、の3つを基本とします。
不安や違和感をため込まず、家族や友人に話すことも効果的です。
とくに男性は自分の弱さを吐露することが苦手です。ですが、口に出すことで状況が整理され、受診につなげるきっかけにもなります。
何より大切なのは、「つらさには理由がある」ということに気づくことです。それが心にあるのか、体にあるのかを知るためにも、早めに一度、医師の助けを借りてみてください。
(久住 英二 : 立川パークスクリニック院長)