ワークマン「不審者パーカー」に消費者殺到のワケ

広報担当の伊藤磨耶氏に着用してもらった「レディースクールUVサンシェードパーカーEX」。顔をすべて覆っても息苦しくなく、視界も確保できるが、周囲の音が聴こえにくくなる点には要注意(筆者撮影)
爆発的な売れ行きにより、多くの店舗で品切れが続出した“不審者パーカー”が話題になっている。正式な商品名は「レディースクールUVサンシェードパーカーEX」(税込み2300円、以下同)で、ワークマンが今年4月に新発売した。
ちまたで使われるキャッチーな呼称は、日焼け防止のために顔をすっぽり覆うことができる、その独特なデザインからきている。
紫外線が気になるこれからの時季に重宝しそうなこの商品、開発の狙いを聞いた。
想定を大きく超える売れ行きに
「『レディースクールUVサンシェードパーカーEX』(以下、サンシェードパーカーEX)は今回初めて発売した商品です。想定を大きく超える売れ行きとなり、希望されながらお買い求めできなかった方にはご迷惑をおかけしました」
開発部門の責任者・多賀寛悦部長(製品開発部第4部、以下発言は同氏)はこう話す。
同商品は「WorkmanColors」(店舗数は約90店)を中心に販売するが多くの店舗で品切れとなった。筆者が「WorkmanColorsイグジットメルサ銀座店」(東京都中央区)を視察した際も同品はなく、別のパーカーを手に取る女性が多かった。今回は2万2000枚を販売したが、限定生産のため追加発注はできないそうだ。
「サンシェードパーカーEXは日焼け対策を高めた商品で、機能性とデザイン性のバランスもとりました。例えば、帽子のサンバイザーのようなツバが立つフード付きにして、ツバを引っ込めた場合のフードの見せ方にもこだわりました。
またサムホール仕様で手の甲もすべて隠れ、素材はUVカット(UPF50+/紫外線遮断率95%以上)機能付き。着るとひんやりする接触冷感になっています。
顔まですべて隠せるようにしたのは、『日差しが強い日に自転車に乗る時はサングラスをかける』という声も多く、それなら“すっぽり覆えるデザインにしよう”と考えたのです」
実は、日焼け防止パーカーは以前から発売していた。
「前身となったのは、2022年に発売した『レディースクールUVフェイスガードパーカー』(1500円。以下、フェイスガードパーカー)です。
ワークマンには農作業などの作業着・作業服として日焼け防止パーカーがありましたが、アウトドアでも着られる商品として開発しました。フード部分には取り外しできるマスク機能もついた商品です」
コロナ禍で外出時にマスク姿が求められた時代の追い風にも乗って商品は売れた。もちろん1500円という低価格や機能性もあっただろう。
通常は一般的なパーカーと変わらない(筆者撮影)
自転車での移動や散歩時などでの利用が多い
「使用シーンを見ると、当時から自転車での移動や散歩時などさまざまな場面でご利用されていました。これらは次の商品を開発する際に参考としたのです」
2023年に発売したのが「レディースクールUVサンシェードパーカー」(1900円)だ。サンシェードは“直射日光を遮ることで体内温度の上昇を抑える”や、“紫外線をガードする”の意味があり、ネーミング的にも今回の商品の原型といえるだろう。
「フェイスガードパーカーにはなかった、ツバも取り入れました。UPF50+もこの商品から採用しています。機能性を高めたのは、当社のインフルエンサー(ブロガー・YouTuberでワークマン社外取締役の「サリー」氏)の意見も参考に、日焼けを防ぎたい人がどこにこだわるかを考えた結果です」
指先以外の手の甲を覆うことができる(筆者撮影)
その上位互換が今回の「サンシェードパーカーEX」なのだ。それまでの2商品は目の周りが露出しているのに対し、顔をすべて覆えるようになった。
「日焼けしたくない思いはより高まったと感じます。『なりふり構わず』という言葉のように、日差し対策では見た目よりも実用性を求める傾向があります」
初代から進化した3代目商品
機能性と価格について、開発中だった多賀氏の思いを後押ししたエピソードがある。
「2024年3月22日に『#ワークマン女子イオンモール宮崎店』(宮崎県宮崎市)がオープンしました。私も接客を手伝ったのですが、来店された40代ぐらいの女性が農業従事者の方でした。ワークマンのブラウスもパーカーも買ってくださり、その際に『パーカーは農作業で汚れるから何枚も欲しい、だから価格が安いのはうれしい』と話されたのです」
冒頭で記したように「サンシェードパーカーEX」は税込み2300円だ。
「機能性を高めたので原価も上がり、採算面から2900円も考えましたが、複数枚買われるお客さまのことも考え、もっとお値打ちにしようと2300円に設定したのです」
“不審者パーカー”と呼ばれるほど人気が高まったことについてはこう話す。
「関心を持っていただけたのはありがたいです。開発時には“外出時にサングラスを忘れて困った”や“農作業の時に虫が気になる”という声もあり、顔の日焼けや不快感に対する意識が想像以上に高いのも実感しました」
ジッパーを口元付近まで上げた状態(筆者撮影)
今回の商品は大量発注型(大ロット)だが、近年、同社が進める小ロットの開発事例も紹介したい。
ワークマンの店舗業態は、従来型「ワークマン」(作業用品中心)のほか、一般ユーザー向けの「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」「WorkmanColors」がある。2025年から#ワークマン女子の多くがWorkmanColorsに変わり、メンズ商品も増えた。
前職でもレディースアパレルを担当した多賀氏は、2023年9月、銀座に「WorkmanColors」(「WorkmanColorsイグジットメルサ銀座店」)がオープンする前に「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」との差別化を図る商品を開発したという。
「WorkmanColorsイグジットメルサ銀座店」(2025年5月、筆者撮影)
「トレンド要素を加えたラインナップの必要性を感じ、カジュアルテイストを打ち出した商品開発を始めたのです。想定した顧客層は20代前半に設定し、中国のECブランド『SHEIN』(シーイン)のトレンド開発も参考にしました」
短期開発・少量の「クイック・レスポンス生産」にも乗り出し、日本企業との取引経験がある中国・上海の工場に生産を委託した。
トレンドウォッチは韓国で
一方、市場リサーチを行うのは韓国だ。
「韓国には頻繁に足を運びます。今後流行りそうな要素がはっきりしており、情報も集約されているからです。ソウル市内のトレンド発信地が少しずつ変わるのも刺激的です」
売れ筋となった商品は小ロットから大ロットに切り替える。「サンシェードパーカーEX」は前身商品の実績があり、最初から大ロットで行ったという。
昔は夏の定番レジャーだった「海水浴」人口が減り、真夏の猛暑日にはテレビが「不要不急の外出自粛」を呼びかけるなど、さまざまな場面で亜熱帯化の影響が出ている。企業として今回のような“肌ケア商品”をどう考えているのか。
「ワークマンの出発点は“働く人”(プロの作業者)が対象ですから、そうした方の肌を守れる商品を開発していきたいです。夏に求められる機能としては、やはりUVカットが多いですね。
ただ近年は作業以外で使われるシーンが増えたので、着心地の快適性にさらにこだわり、日常生活をよくする商品を買いやすい価格で提供したいと考えています」
「WorkmanColorsイグジットメルサ銀座店」には他のUVカット商品も展示されていた(筆者撮影)
日焼け防止・肌ケア商品への思い
「サンシェードパーカーEX」の商品説明は、「屋外ワークシーンからガーデニングシーン、公園から近所の買い物、フェス、スポーツ観戦、アウトドアシーンまで」と記されている。
同社は企業ビジョンで「声のする方に、進化する」も掲げる。
気象庁の季節予報では、「2025年の夏(6〜8月)の気温は例年に比べて全国的に高い」と発表されている。快適性を感じる商品は今後さらに求められそうだ。
(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)