多様性に向き合う イラク・ドホーク大学が訪日 「演劇的手法を平和教育にいかす」

平田オリザさん(劇作家・演出家)のラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に、イラク・ドホーク大学平和人権学科長助教授ジョティアール・サディークさんと、同大学講師ジハット・アドルスキーさんが出演。
「芸術文化観光専門職大学(CAT)」(兵庫・豊岡市)訪問の経緯と演劇やアートを使った平和構築の手法、観光分野における協力の可能性について語った。
イラク北部のクルディスタン地域にあるドホーク県は、人口110万人の都市。特徴的なのは、クルド人自治区が非常に寛容でオープンマインドな社会であり、多様な民族や宗教が共存していることだ。
クルド人自治区には、クルド人、アラブ人、アッシリア人、トルクメン人、シャバックといった多様な民族が暮らし、イスラム教、キリスト教、バハーイ教などそれぞれの宗教を信仰している。
2011年のシリア内戦以降、シリアからの難民が、そして2014年のISIS紛争後はイラク国内からの避難民も多い。現在も難民・国内避難民キャンプが存在し、彼らは社会の一部となっている。
ドホーク大学は学生数2万3000人、男女比はほぼ1:1。サディークさんが担当する平和・人権学科のみならず、ほかの学科においても学生数が増加傾向にあるという。
平和人権学科設立のきっかけとなったのは、アメリカ大使館主催の青少年向けワークショップ(2013〜2014年)だった。多くの若者が参加し、ワークショップ参加者からの同分野での学習継続への強い要望を受け、設立に至った。シリア難民や国内避難民の増加を背景に、人権教育の必要性が高まったことも要因のひとつだ。
本学科では、地域の多様性と複雑な社会背景を理解するとともに、平和的共存のための知識と技能が習得できるカリキュラムを構築中だという。
平田さんが学長を務めるCATを訪問した理由について、サディークさんはこのように語る。
「私たちの主目的のひとつは、大学システムの構築および教育方法におけるスキルを学び、そこに実践的な要素を取り入れる方法を知ることです。そのほかの目的もありますが、日本で成功した事例(演劇的手法を用いたワークショップ)から学ぶことが特に重要だと考えています」(サディークさん)
同大学には3日間滞在。ドホーク大で講師を務めるアドルスキーさんは、授業を見学した感想をこのように述べた。
「非常に良い印象を受け、すでに大学本部と連絡を取り、協力関係の構築を要請しています。特に、教員と学生の距離が近く、体験を通じた学習アプローチを用いた授業スタイルが印象的でした。インフォメーションよりも、まずは体で感じさせるというか。『More than 情報』が新鮮でした」(アドルスキーさん)
今後、ドホーク大学とCATでは、サマースクールの開催やファシリテーション能力を持つ学生の交換、大学間のネットワーク構築などの連携が期待されている。
「イラクは、観光の視点でも世界遺産の宝庫なんです。平和が続けば、今度は観光の面でもお互いに協力できる」と、平田さん。
これを受けたサディークさんは、以下のように力を込めた。
「クルド人自治政府としても、そのポリシーにフィットしているオファーで非常に光栄です。観光を推し進めていくには、リードしていくスキルを持った人の養成は急務であると考えます。このカリキュラムをコンプリートしたら、社会の調和を維持する能力に長けた人間になれると思います」(サディークさん)
※ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』2025年5月15日放送回より
