20周年の「ルルとララ」作者が語る創作への想い
子どもたちの心をつかみ続けてきた、あんびるやすこさんの児童書。大人になってもファンだという人は多い(写真:岩崎書店)
代表作「ルルとララ」「なんでも魔女商会」「魔法の庭ものがたり」などのシリーズで、子どもたちの心をつかんできた絵本作家・児童書作家のあんびるやすこさん。
「ルルとララ」シリーズが今年20周年になるのに合わせ、あんびるさんの記事を4回にわたって掲載します。第1回はあんびるさんがアニメの背景美術スタジオや玩具のデザイン会社で経験を積んだのち、絵と物語の世界に転身した歩みを振り返りつつ、児童書を通じて届けたいメッセージについてお伝えします。
1回目:本記事
2回目:累計380万部、20年続く児童書「なんでも魔女商会」「ルルとララ」ができるまで。子どもたちを夢中にさせる児童書とは?
3回目:児童書ベストセラー作家が語る「苦手があるのは、伸びしろがあるということ」、親の小言より読書のススメ。「なんでも魔女商会」おすすめ4冊
4回目:「もしルルとララが新宿でスナックを始めたら?」、作者・あんびるやすこさんが妄想する「大人になった」主人公の物語
児童書作りに会社員時代の経験が役立った
児童書の作家になる前、私は2つの業界での勤務を経験しました。初めはTVアニメーションの背景美術スタジオ、そこから転職した先は、玩具やTVドラマ作品の企画やデザインを請け負うブレーン会社です。
背景美術スタジオでは、30分番組のシナリオを読んで、そこに登場するお部屋や小物の絵をデザインするという仕事でした。
毎週シナリオや絵コンテが送られてくるので、それを読むことが、未就学児や就学前半の児童たちが、どの程度のエピソードを理解できるか、どの程度の言葉づかいなら理解できるかなどを知る機会になりました。
毎週そういうプロットを見ていましたから、これがいまの仕事に生きているのかもしれません。30分番組ってちょうど児童書にぴったりのボリュームなんですよ。
ブレーン会社では、ドールフィギュアの服のデザインもしました。そのときに、「今、女の子たちの間で何が流行っているのか」を徹底的に頭に叩きこみました。当時は、子どもの好きな色や、放課後はどう過ごしているのかなど、いろんなリサーチをしていましたね。
そのころから絵本の創作をはじめていました。
絵が好きで、許されることなら絵だけを描いていたかったのですが、経済的にそれが許される状況ではありませんでしたから、サラリーマンとの二足のわらじ状態です。
一般的な会社よりも自由がきくのはありがたかったのですが、ブレーン会社は残業が多くて、終電後にタクシーで家に帰ってくる日々でした。帰宅後や土日に絵本を描いていたので、周りからは「大丈夫? 倒れてしまうよ」と心配されました。でも私は絵の仕事ができることが嬉しかったんです。
私がはじめて児童書の読み物を書いたのは、岩崎書店の「なんでも魔女商会」シリーズでした。それまで絵本は描いていたのだけれど、もうちょっと長い文章を書いてみたいと思ったんです。
絵本はどうしても少ないページで、簡潔に言葉をそぎ落として作っていきます。登場人物の人となりや深い葛藤などは、あまり書けませんでした。
挿絵として、モノクロだけれど子どもたちがきれいで楽しそうと思えるものを描きたい、とも思っていました。
児童書がよかったのは、子どもにも親にも喜ばれるものであることです。
玩具の仕事をしていたときは、アニメの主人公が変身するときに持つステッキなどもデザインしていました。テレビの中で登場するものと実際の形が違っていたら夢が崩れてしまうので、ストーリーの作者でなく、玩具のデザイン会社がデザインするものなんですよ。
でも変身ステッキのような玩具は、子どもがとにかく欲しがるからしぶしぶ買う親が多いことはわかっていました。親はあまり与えたくないものだったんです。私は、子どもたちが喜んでくれて、親もぜひ与えたいって思うようなものを作りたいと思いました。
はじめは玩具で作れないかと思ったんですが、なかなか難しい。他に何があるかと考えたとき、児童書がいいなと思ったんです。児童書って絵本と違って、本人が選ぶでしょう? 子どももご両親も出版社も、みんなが嬉しくなるようなものを目指して作りはじめました。
シリーズものでつらいのは2巻目と5巻目
はじめて手がけた「なんでも魔女商会」のシリーズは、手芸という切り口を技として全般的に効かせて、文章を最後まで読み通してもらえるように工夫して書きました。
どの巻も気に入っていますが、私は特にこの3巻の『いちばん星のドレス』に思い入れがありますね。実は、1巻を考えたときに、もう3巻目の構想がありました。2巻の構想をすっ飛ばして、3巻。
はじめのお話で、どうしてナナが「用がない人は入れない魔法」のかかった洋服のリフォーム支店にたどりつけるのかという謎が残ってしまうわけですが、その謎の答えを3巻に書くことにしたんです。3巻ぐらいまでだったら続くかなと思って。でも結局、その後29巻(2025年4月時点)まで発売することになるとは驚きでした。
私は児童書のシリーズものをいくつか手がけていますが、意外とつらいのが2巻目と5巻目ですね。
2巻目はシリーズとしてまだ迷いがあって、キャラクターもうまく練り上がってない部分があり、葛藤があるんです。それを乗り越えていくのですが、5巻目ぐらいで、その自分が想定していた世界の中の矛盾点がちょっと出てきます。その矛盾点をどう扱っていくかっていうのを悩みながら5巻を書くわけです。
でもそれもまた乗り越えると、自信がつきますね。5巻を過ぎると、なんとか続けていけるかなっていう気持ちになってきます。世界観がだんだんと固まってくる実感がわくのかもしれません。
次に書いた「ルルとララ」シリーズは、お菓子がテーマの物語です。登場するレシピは、何週間もかけて実際に料理しながら作ります。子どもが作っても失敗しないようなレシピを考えているんです。
レシピができあがったら、岩崎書店の皆さんにも作ってもらうんですよ。料理が苦手な担当編集の島岡さんが成功したら、レシピ完成としています(笑)。
たまにサイン会に作ったものを持ってきてくれる子もいます。本を読む楽しさだけじゃなくて、生活体験としての豊かさも伝えることができたんだなと思うと嬉しいです。
「ルルとララ」は幼年童話で、絵本から次のステップにあがるときに読む本です。子どもは最初から一人読みはできないので、字の多い本が読めるまでの滑走路を、親御さんが一緒に走って読み聞かせしてほしいなと思っています。
あるお母さんから聞いた話なのですが、毎晩読み聞かせをしていたものの「じゃあ今日はここまでね」と途中でやめたことがあったそうです。それを1週間ぐらい繰り返していたら、ある晩、寝たはずの子どもの部屋にあかりがついていて、戻ってみると、物語のその先が知りたくて自分だけで続きを読んでいたことがあったそうです。
自分で読みたい、読書が楽しいと思えるようなチャンスをその子に提供できるかどうか。私たち作家側や出版社側にも努力が求められる部分だと思っています。
きれいなお兄さんが出てくるYAも描きたい!
YA(ヤングアダルト)という小学校6年生ぐらいから中学生・高校生ぐらいまでが読む物語として「アンティークFUGA」というシリーズ作品も書きました。
当時編集長だった岩崎書店の津久井さんから、「今度YAレーベルを立ち上げるのですが、あんびるさん書いてみませんか」とお誘いいただいたのがきっかけです。
そう言われたとき、それなら今までと全然違う作品を書きたいと思いました。ペンネームも変えて、もうちょっと踏み込んだ感じのBL系の作品を書いてみたいなと。
そうしたら、「あんびるさんの場合、子どもたちは『あんびるやすこ』という名前を道しるべにして本を読んできています。
あんびるさんの絵本を読んだ子が、文字を読めるようになったら今度は「ルルとララ」を読んで、それが読めるようになったら次のあんびるさんの作品をたどって大きくなっていくんです。
ですから、一般書へ旅立つ前に読むYAの作品もあんびるやすこという名前でないとダメなんです」と言われました。
ああ、なんて素晴らしい考えなんだろうと思いました。じゃあもう私、あんびるやすことして書こう、きれいなお兄さんが出てくる話を! と思いました(笑)。
あんびるやすこ/群馬県生まれ。東海大学文学部日本文学科卒業。テレビアニメーションの美術設定を担当した後、玩具の企画デザインの仕事に携わり、絵本、児童書の創作活動に入る。主な作品に「なんでも魔女商会」「ルルとララ」「アンティークFUGA」シリーズ(いずれも岩崎書店)などがある。
「アンティークFUGA」の構想は、ブレーン会社に勤務していたときに考えたものです。当時人気のあったアイドル男子が群で出てくるような30分ものの番組プロットを書いたことがあったんです。売れている子が2、3人レギュラーでいて、これから売り出すジュニアアイドルが週替わりで出てくる内容でした。
YAでは、その感じを物語にしてみたらどうかと考えました。メインの子(主人公)のまわりで週替わりに出てくる役を演じるジュニアアイドルは、まだオーラが足りないから、何かの精霊という形でコスプレさせようと思ったんです。
そうしてできたのが「アンティークFUGA」。これは6巻で完結したのですが、ずいぶん前に出した本なのに、いまだに重版がかかる作品です。この世界観が子どもにとって安心するのかもしれませんね。
シニア世代にも読んでほしい
児童書は、実は子どもだけでなく大人にもおすすめなんですよ。私の作品に限らず、励ましを与えるタイプの児童書ってすごく多いんです。落ち込んでいるときに読むと、気持ちが再生できることもあります。
子どものときには気がつかなかったメッセージに気づくこともありますし、大人が初めて読んでも、私が子どもたちに与えたいと思っている「安心できる行きつけの場」のような雰囲気というのは味わってもらえると思っています。
シニアになって老眼が進んでも、文字が大きいから読みやすいですし、登場人物の数も限られているのでわかりやすいです。
80歳を過ぎてミステリーを読むのがしんどくなっても、本は読めるんですよ。途中で読書を諦めちゃうなんてもったいない。私もシニアなんですが、そんなシニアの方にもぜひ児童書を読んでみてほしいと思っています。
次の記事:累計380万部、20年続く児童書「なんでも魔女商会」「ルルとララ」ができるまで。子どもたちを夢中にさせる児童書とは?
(あんびる やすこ : 児童書作家)