飲む時間帯によって異なる牛乳の健康効果について解説します(写真:mits/PIXTA)

「不眠」や「筋力の低下」など加齢による体の悩みは尽きないものですが、そうした悩みを解決するのに最適な栄養補助食品として、精神科医の和田秀樹氏がおすすめするのが「牛乳」です。

そんな牛乳ですが、じつは飲む時間帯によって期待できる健康効果が変わってくるって知っていましたか? 「朝・昼・夜」それぞれで飲む牛乳の効能の違いについて、和田氏の著書『医師が教える長生きする牛乳の飲み方 たんぱく質をおいしくとって健康寿命をのばす!』から、一部を抜粋・編集する形で解説します。

年をとると増えてくる「睡眠の悩み」

年齢を重ねるとさまざまな変化と出くわし、悩むことが増えます。なかでも多いのが睡眠の悩み。

布団に入っても眠れない、深夜に目が覚めてしまう、朝の目覚めがよくない、そもそもよく眠れた気がしない……。その原因はストレスや薬の影響、慢性疾患による痛みなどとさまざまです。

睡眠には、体はリラックスしているけれど脳は活動していて情報などの整理をしている「レム睡眠」と、体も脳もリラックスしている「ノンレム睡眠」があります。

この2つがセットで90〜110分サイクルをひと晩に4〜6回繰り返します。このサイクルがスムーズでないと眠りは浅くなります。

また、ノンレム睡眠は浅い眠りから段階的に深くなるのが特徴ですが、その際、深い眠りに到達できない場合があります。これもまた、睡眠の質が下がっていることになります。

睡眠の質を低下させる根本的な原因を解決させることは大切ですが、食事でも解決する方法があります。

それは、深い睡眠へと誘うホルモンであるメラトニンの分泌を活発にすることです。メラトニンは別名・睡眠ホルモンといわれ、睡眠のリズムを調整してくれるため、よい睡眠には欠かせません。

「朝牛乳」で今夜の睡眠の質が上がる

ところが睡眠の味方であるメラトニンは、日常生活の中で分泌が抑制されてしまうことが多々あります。

その1つはストレス。長時間、ストレスにさらされることでメラトニンは抑制されます。気にかかることや不安なことなど、ストレスがかかると眠れないという経験をしたことがある方も多いと思います。

次に、不規則な生活リズム。起床時間が早朝だったり、昼近くだったりとバラバラだとメラトニンの分泌が乱れます。

そしてここ何年かで問題になっているのが、スマートフォンなどによるブルーライト。眠りを妨げるとわかっていても、見ずにはいられないとつい寝室に持ち込んでしまう。子どもや孫に使い方を教えてもらい、つい何時間もスマートフォンとにらめっこ。

ブルーライトもまたメラトニンの分泌を大きく抑制するのを実感している人も多いと思います。

また、カフェインやアルコールの摂取もメラトニンの分泌を阻害します。さらに、加齢によってもメラトニンの分泌は減少するのです。こうして日々、抑制されるメラトニンの分泌をスムーズにするにはどうしたらいいのでしょうか?

それはメラトニンの材料となる食材をとることです。メラトニンは、たんぱく質の一種であるトリプトファンが材料となりますが、これは体内で合成することができない必須アミノ酸のひとつです。だから、食べ物から摂取するしかありません。

そこで助けの手を差し伸べてくれるのが「朝牛乳」なのです。牛乳を飲むとトリプトファンが体内に取り込まれ、セロトニンというホルモンを分泌します。

このホルモンは、イキイキと暮らすために大切なもの。セロトニンは分泌されると、幸福感が増し、前向きで明るい気持ちになるなど、メンタル面に大きな影響を与えるため「幸せホルモン」と呼ばれています。

牛乳のトリプトファンはセロトニンに変換され、さらにメラトニンに変換されます。牛乳を飲んだらすぐにメラトニンを分泌するわけではなく、その点が一足飛びにはいかないところです。

「トリプトファン→セロトニン→メラトニン」というゴールにたどり着くには14〜16時間かかるといわれ、朝8時に牛乳を飲むと、夜の10時〜12時頃に分泌されることになります。ちょうど就寝時間にあたりますね。

つまり、朝牛乳を飲むことで、夜に向けて睡眠体制を整えることになります。自分の就寝時間から逆算して朝牛乳を飲むと、深い眠りにつけるようになります。

「昼牛乳」で活発に動ける体をつくる

「スーパーへ買い物に行くのが面倒だな」とか、「あのカフェに行きたいけれど、入り口の階段がちょっと不安……」というとき、ありませんか?

小さな面倒くさいを積み重ねていくうちに、どんどん活動量が減ってしまい、高齢になればなるほど筋肉や骨などの運動器官が弱くなってしまいます。足腰が弱ってくると、さらに外出が億劫になる。これではヨボヨボへと一直線です!

こういうときこそ牛乳を飲んでほしいものです。これが活動の多い時間帯に飲む「昼牛乳」です。

たんぱく質はアミノ酸が連なったもので、その構造や種類によってさまざまな役割があります。例えば、サプリメントや基礎化粧品などに含まれる「コラーゲン」もたんぱく質のひとつで、皮膚や骨などをつくるもの。

コラーゲン入りのサプリや化粧品は肌を再生する効果が期待できるため、それが美肌に欠かせない成分といわれる所以です。ただし、コラーゲンは皮膚から吸収されることはありません。

牛乳に含まれるたんぱく質は、筋肉にスイッチを入れる種類のものが多く含まれているのが特徴です。少し難しい話になりますが、筋肉をつくるスイッチを入れるのが「分岐鎖アミノ酸」というたんぱく質を構成するアミノ酸です。

スポーツをされたことがある方なら聞いたことがあるかもしれませんが、「分岐鎖アミノ酸」は「BCAA」といわれ、スポーツドリンクの成分になっています。バリン、ロイシン、イソロイシンという3種のアミノ酸で、これらが理想的な比率(バリン:ロイシン:イソロイシン=1:2:1)で含まれています。

「BCAA」は、筋肉を成長や修復し、筋肉のエネルギー源となります。そのため、スポーツ選手にとってはなくてはならない成分です。

筋肉の成長や修復を担っていますが、ハードな運動中や運動後だけに必要なのではありません。中高年にとっては筋力低下の予防や疲労回復にも有効です。

「外出すると疲れる」「駅の階段がしんどくなってきたな」というのは、筋肉の衰えはじめか、筋肉が疲労しているサインです。そんなときは、「もう年だからダメだ……」と言わずに、「昼牛乳」を毎日コツコツ試してみてください。

「夜牛乳」で骨を強固にし、脱骨折!

中高年になると途端に骨折する人が増えてきます。特に女性は更年期を迎え、女性ホルモンの減少によって骨がスカスカになる「骨粗しょう症」に不安を感じる人も少なくありません。


そこで欠かせないのがカルシウムです。カルシウムは骨の成分だと思われがちですが、実はカルシウムは骨より血液中に多く存在します。

カルシウムには、骨や歯を強く健康な状態で維持する役目があります。また筋肉の収縮を助けるため、日常の動作にも欠かせません。

ほかにも血液の凝固プロセスとも関係していて、出血を止めるのに欠かせないミネラルの一種。神経細胞の間で信号を伝達する重要な役割もあります。

このように、多くの役割を担っていて血中で働くカルシウムは、必要量を維持するために、足りなくなると骨から溶け出して血中に補充します。こうして骨は脆くなっていくのです。

だからこそ補うのがとても大切です。カルシウムは食事から取り入れやすく、特に牛乳は最適です。カルシウムを多く含む上に、体内の吸収率が小魚などよりも高いのは、あまり知られていない事実です。

そして、吸収に適している時間帯が夜、さらに睡眠中です。「夜牛乳」を飲むことが、骨の強化につながるというわけです。

ただし、寝る前に冷えた牛乳を飲むのは胃腸に負担がかかります。ぜひ温めて飲みましょう。ちなみに、牛乳は加熱しても栄養そのものは変化しませんのでご安心ください。

(和田 秀樹 : 精神科医)