子育ては、「どうやって子どもを伸ばすか」を考えるよりも、「どうすれば枯れないか」に意識を向けるとうまくいくことが多いものです(写真:タカス/PIXTA)

【相談】

小4の娘がいます。正直なところ、最近は娘に対して「もっとできる子になってほしい」という思いばかりが先立ってしまい、「なんでこんなこともできないの?」とつい小言を言ってしまいます。勉強も、習い事も、全体的に消極的で、自信がない様子。親としては何とか力を伸ばしてあげたいのですが、何をどうすればいいのかわかりません。親の関わり方次第で、子どもは本当に変わるのでしょうか?

(仮名:山田さん)

子育てについて考えるとき、多くの親御さんがまず思い浮かべるのは「どうすればこの子を伸ばせるか?」という視点です。

「もっと頑張ってほしい」

「今のままで大丈夫なのか」

「将来困らないように今のうちに……」

こうした思いは、決して悪いものではありません。むしろ、子どもを大切に思っているからこそ生まれる親心です。しかし、これが高じると、子どもが伸びないどころか、“枯れて”しまうことが少なくありません。

子育ての基本的なマインドセット

子育ては、「どうやって子どもを伸ばすか」を考えるよりも、「どうすれば枯れないか」に意識を向けるとうまくいくことが多いものです。

これは、一見すると控えめに思えるかもしれませんが、実は非常に本質的で、長期的に見れば子どもの成長に最も効果的なアプローチで、結果として子どもは伸びていきます。

ここで「枯れる」という言葉を使っていますが、これは文字通り、一般的に植物で使われる言葉です。子育ては、植物を育てることと似ていると考えています。「種にはDNAがあり、すでにどのような花が咲くか決まっている」「適切な環境がないと発芽しない」「光合成によって自分で成長を始める」など。子育ては植物の成長に置き換えるとわかりやすいものです。そこで「枯れる」というのはどのようなことか説明していきます。

植物を育てたことがある方なら、容易に想像できると思いますが、種には元々、芽を出し、葉を広げ、独自の花を咲かせる力が備わっています。ですが、どんなに素晴らしい種でも、水を与えなければ芽は出ませんし、強い日差しや乾燥した環境では、いずれ枯れてしまいます。

発芽できる程度の環境を用意し、後は光も当てていくと植物はぐんぐん成長しますが、それらの基本的条件がないと、「枯れて」いきます。

子育ても同じです。本来、その子の中には成長する力が備わっています。芽を出す力も、花を咲かせる力も。親がすべきは「無理やり芽を引っ張り上げること」ではなく、枯らさずに、育つ環境を整えるだけでいいのです。

子どもを「枯らす」親の特徴

これまで、筆者は36年以上、子どもの教育に関わってきました。その中から、子どもを枯らしてしまう親の特徴がわかってきました。

(補足として誤解がないように書いておきたいのですが、子どもを枯らそうと思って育てている親はほとんどいません。それよりも、伸ばそうという力が強すぎることで、結果として枯れてしまうケースがあるということです。)

(1)過剰なプレッシャー

「どうしてこんな点数なの?」「もっと頑張ってよ」

こうした声かけは、子どもにとって「否定された」というメッセージとして届くことが一般的です。

特に真面目な子ほど、「自分はダメなんだ」と思い込みやすくなります。短所の是正や圧力を与え続けることで成長する人は、聖人君子レベルのみです。それがわかっているのに、やってしまう親御さんが後を絶ちません。

なぜこのようなことが起こるかと言いますと、親の子どもに対する「これくらいできて当たり前」という期待値の高さが根本にあります。その期待の源泉は親のストレスや世間体という見栄、プライドにあることがほとんどです。

(2)否定的な言葉や態度

「だから言ったでしょ」「またそれ?」

つい言いたくなる気持ちはよくわかります。ですが、これは“意味のない余計な一言”です。

それどころか、子どもが話す気力を失い、心を閉ざす原因にもなります。否定的な言葉は、子どもでなくても、人を枯らしていきます。否定的な発言をするよりも、どうすればいいか教えてあげればいいわけですが、そこに感情が乗ってしまうため、「否定語+否定感情」でパワーアップし、子どもを一気に枯らしていくわけです。

否定的な言葉や態度で、人が成長するのは、「雑草体質」だけです。しかもその雑草体質な子はほとんどいません。

(3)比較すること

「○○ちゃんはもっとちゃんとやってるよ」「お兄ちゃんは、こんなことで泣かなかった」

比べられた子どもは、どんどん自信を失っていくことはよく知られています。親自身も誰かと比べられて嫌だった経験がきっとあるはずです。子どもも同じです。比較は常にマイナス面に視点があるので、上記の(1)(2)と合わさって子どもを枯らしていくのです。

(4)安心できる環境の欠如

「家に帰るとホッとする」これは子どもにとって最も大切なことです。子どもは外でかなり頑張っています。親から離れて、自分一人で存在意義をアピールしながら、周囲との比較の嵐に揉まれながら頑張っています。その嵐から解放され、ホッと息がつけるところが、自宅です。

自宅に戻っても、「あれやれ、これやれ、ちゃんとやれ」から始まるとうんざりします。「今日はお疲れ様。まずはおやつ食べな」が、子どもがぐんぐん伸びるための初めの声かけです。

では、子どもが枯れないようにしていくにはどうすればいいでしょうか?

子どもを枯らさずに育てる4つの実践法

(1)「今のままでいい」と伝える

「もっとこうしてほしい」と願う気持ちは自然ですが、まず必要なのは、「今のあなたが大切だよ」というメッセージです。

たとえば、テストで30点を取ってきたとき、「もっと頑張りなさい」と言っても全く意味はありません。「〇〇のあたりはできているね」「見直しできたところもあるね」など、子どもなりに努力をした部分のみを伝え、できていない部分は全く触れません。触れる必要はないのです。

なぜなら、子どもは言われなくてもできない部分は見ればわかるからです。わかっている部分を親はさらに追い打ちをかけてまで言う必要はありません。触れずにいると、子どもは自発的に自分を修正していきます。しかし、親はマイナス面に触れてしまうと、いつまでも子どもは自分のマイナス面を修正しないので、注意が必要です。

(2)小さな成功に全力で承認言葉をかける

成功とは、テストの点数や大会の結果だけではありません。

・忘れ物をしなかった
・朝、自分から起きられた
・妹と喧嘩しそうになったのを我慢した

こうした一見、当たり前の小さな「できた」を見逃さず、即「いいね〜」と笑顔で返すことです。1ミリでも進んだことを、全力で承認してあげる。それが次の一歩を踏み出すエネルギーになります。大きな成功や成果を褒めることをすると思いますが、そのような場面はめったに訪れません。ですから、日々の小さな成功を承認していきます。

(3)話を聞く、ただ聞く

子どもが話してきたとき、つい「アドバイス」をしてしまいたくなるものです。求められてもいないのに、余計なアドバイスを言って子どもが話をしたくなくなったケースはよくあります。子どもが本当に求めているのは「聞いてほしい」「わかってほしい」という気持ちなのです。「うんうん」「それでどうしたの?」と、うなずきながらただ聞くだけで、子どもは心を開き始めます。

あるお母さんは、夜寝る前に3分間、布団の中で「今日あったこと」を聞く時間をつくったそうです。

それだけで子どもの表情が変わり、翌朝もスムーズに登校できるようになったと話してくれました。ただ聞くだけです。何も難しくはありません。

(4)親自身が余裕を持つ

親が疲れきっていたり、焦っていたりすると、どうしても子どもにその不安が伝染します。「余裕があるから笑える」のではなく、「笑うから余裕が生まれる」という順番で考えてみてください。

毎日できなくても大丈夫です。1日5分でも、自分の心に余白を持つ習慣を持ってみることです。

たとえば、

・夕方、少しだけ外の風にあたる
・自分だけのコーヒータイムをつくる
・ノートに思いを吐き出してみる

そんな小さな習慣が、子どもの安心感にも直結していきます。

子どもは、すでに咲く準備をしている

子育ては、目に見える結果が出にくい営みです。

でも、今はまだ土の中で根を張っている時期かもしれません。

・早咲きの子
・遅咲きの子
・季節が来るまでじっと待っている子

どのタイプであってもいいのです。「焦らない」「比べない」「信じて待つ」。これこそが、親に与えられた最大にして唯一の役割ではないでしょうか。

最後に

子育てのゴールは、短期的な成果ではありません。

“いつか咲く花”を信じて、その土壌を整えていくこと。

・枯らさずに、
・急がせずに、
・比べずに、

今日、子どもの笑顔をひとつでも見られたなら、それはもう十分すぎる成果です。そして、親が笑っているだけで、子どもにとってはそれが最高の栄養になるのです。

花は、いつか必ず咲きます。信じて、いや、信じなくても、必ず咲くのです。枯らさなければ。だからこそ、今日も少しだけ、優しいまなざしで子どもと向き合ってみてはいかがでしょうか。


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育専門家)