"健康に良さそう"も要注意「肝臓にNG」な飲み物
肝臓の健康を悪化させてしまう「飲み物の習慣」について解説します(写真:freeangle/PIXTA)
近年、肝臓の健康に注目が集まっています。医学が進歩して、肝臓こそ健康長寿を実現するカギになる臓器だということが分かってきたのです。
たとえば、「脂肪肝」は、これまで「誰でもかかるたいしたことない病気」のように扱われてきましたが、じつは「動脈硬化や糖尿病などを招く重大な病気」であることが判明しています。脂肪肝を甘く見て放っておいたら、老化や病気が加速して、先々の人生を大きく狂わせることにもなりかねません。
ただ、肝臓は、ポイントを押さえたケアを行えば復活する臓器です。肥満やアルコールなどの問題で長年健診の肝機能の数値が悪かった人も、やるべきことをやりさえすれば短期間で回復させることができます。
では、どんなケアを行えばいいのか。肝臓専門医として46年間、患者を診続けてきた栗原毅医師は、新著『肝臓大復活』の中で、すぐに役立つ肝臓ケアのノウハウを惜しみなく紹介しています。
以下では、その栗原医師が「肝臓の健康を悪化させてしまう『飲み物の習慣』」について解説します。
脂肪肝は、普段の「飲み物」を見直すべき
「健康に気をつけていたのに脂肪肝になってしまった」「健診の肝機能の数値が一向によくならない」「そんなに食べていないのに体脂肪がたまってなかなかやせられない」――もしかしたら、こうした悩みの原因は、みなさんが「普段飲んでいる飲み物」にあるのかもしれません。
肝臓によくない飲み物というとお酒を思い浮かべる人が多いと思います。もっとも(もちろん飲みすぎはいけませんが)、アルコールは「適量」さえ守っていれば、肝臓にとってそんなに脅威になることはありません。
じつは、近年、肝臓にとってアルコールよりも大きな脅威となっているのが「甘い飲み物」。糖質をたっぷり含んだドリンク類が、肝機能を悪化させたり脂肪肝や肥満を促進したりする大きな原因になっているのです。
なぜ「甘い飲み物」が肝臓によくないのか。そもそも、脂肪肝を進ませてしまう最大の原因は糖質の過剰摂取です。糖質の摂りすぎで体内に糖があり余っていると、それらが中性脂肪に変換されて肝臓に蓄積していくのです。
また、糖の中でもとりわけ肝臓に大きなダメージを与えるのが「果糖」です。果糖には肝臓のみで代謝されるという特徴があり、普段から果糖の多い食べ物や飲み物を摂りすぎていると肝臓に負担がかかり、てきめんに脂肪肝が進んでしまうことになります。
そして、甘い飲み物には「果糖ブドウ糖液糖」というかたちで果糖が含まれていることが多いのです。果糖ブドウ糖液糖は、トウモロコシなどから人工的に甘み成分を抽出した液体シロップで、果糖の割合が50%以上、90%未満のものを指します。
しかも、この果糖ブドウ糖液糖入りの甘い飲み物がよくないのは、大量の果糖が一気に体内に入ってしまう点にあります。たとえば、ミカン1、2個を剥いて食べたときの果糖摂取量はそうたいしたことがないのですが、オレンジジュースなどの甘い飲み物をゴクゴクッと飲んだ場合、(果物を剥いて食べたときとは)比べ物にならないほどの大量の果糖がどっとなだれ込んでくるのです。
ですから、果糖ブドウ糖液糖が加えられた甘い飲み物を日々野放図に飲んでいると、脂肪がどんどんたまって、脂肪肝や肥満が加速していく悪化の流れを止められなくなってしまいます。もちろん肝機能もじわじわと悪化して、(ときとしてアルコールの弊害なんか小さく思えるほどの)甚大なダメージを肝臓に与えることになっていくわけです。
“体によさそうな飲み物”にも要注意
そこでみなさん、普段の生活を振り返ってみてください。みなさんは日々何の警戒感もなく、習慣的に甘い飲み物を飲んではいませんか?
コーラやサイダーなどの甘い清涼飲料水はもちろん、一見体の健康によさそうな飲み物や、いつも冷蔵庫に入っているような身近な飲み物にもかなりの量の果糖ブドウ糖液糖が含まれています。
みなさんは、そういった飲み物を日常的に口にすることで、知らず知らず脂肪肝や肥満を進ませてしまってはいないでしょうか。自分でも気づかないうちに肝臓をボロボロにしてしまってはいないでしょうか。
では、ここで、甘い飲み物によっていつの間にか肝臓の健康を追い込んでしまっている典型的なケースを挙げていきましょう。
「悪しき習慣」9つのケース
いずれも肝臓トラブルで私のクリニックにいらっしゃった患者さん方に多かった例ですが、分かりやすいよう朝、昼、晩の日常生活シチュエーションごとに見ていきたいと思います。
ケース1 朝、毎日1本「乳酸菌飲料」を飲むようにしている
小さなプラ容器に入ったお馴染みの乳酸菌飲料には、びっくりするくらいの糖分が含まれています。乳酸菌が腸に対して多くの健康効果をもたらすのは間違いありません。しかし、肝臓の健康のことを考えるなら、「毎朝1本」を習慣にするのは大いに問題アリだと言わざるを得ません。
ケース2 朝食はバナナを食べて、甘いヨーグルトドリンクを飲んでいる
ヨーグルトには健康なイメージがありますが、市販の「飲むヨーグルト」や「甘いカップヨーグルト」の多くには相当量の果糖ブドウ糖液糖が加えられています。毎朝バナナと一緒に摂ったりしたら、果糖過剰で肝臓にかなりの負担をかけることになるでしょう。
ケース3 朝、仕事前に「甘い缶コーヒー」を飲むのを習慣にしている
仕事前、頭をしゃきっとさせるために甘い缶コーヒーを飲むのも、肝臓にとってはNGの習慣です。多くの糖質が加えられているのはもちろんですが、コーヒーのカフェインがプラスされると、肝臓における糖質の脂肪化がいっそう促進されやすくなることが分かっています。
ケース4 暑い日は熱中症予防にスポーツドリンクを飲むようにしている
よく知られているように、市販のスポーツドリンクには空恐ろしくなるくらい大量の糖分が含まれています。「汗をかいたときの水分補給代わり」や「熱中症予防のためのドリンク」として常飲していたら、脂肪肝や糖尿病へまっしぐらとなってしまいかねません。暑いとき、汗をかいたときの水分補給は水やお茶で十分。スポーツドリンクに頼る必要はありません。
ケース5 仕事が忙しい日の昼はコンビニ食。菓子パン&野菜ジュースが定番だ
小ぶりな紙パックに入った野菜ジュースにも多くの糖分が加えられています。野菜不足解消は、液体ではなく、しっかり食物繊維が残った固形の状態でまかなうべきです。この場合、菓子パンにも多くの果糖ブドウ糖液糖が加えられているので、肝臓にとってはかなりよくないランチメニューということになります。
ケース6 夕方、仕事でもうひと踏ん張りしたいときはエナジードリンクを飲む
疲れたときにもうひとがんばりというときのためのエナジードリンク。しかし、これにも相当な量の糖分が含まれています。カフェインも含まれているため、糖質の脂肪化が進みやすく、肝臓に負担をかけやすいのです。疲れてはいても、あまり頼りにしすぎないほうがいいでしょう。
ケース7 健康のため、晩酌をやめてジュースを飲むことにした
「アルコールは肝臓によくないだろうから、晩酌をやめてジュースを飲むようにしよう」という決断をした結果、前よりも肝機能を悪化させてしまったという患者さんもいます。果糖ブドウ糖液糖の習慣的摂取は、ときとしてアルコールよりも肝臓を疲弊させることにつながるのです。
ケース8 夕食のときにいつも「甘いサワー」を飲んでいる
「アルコール度数が低ければ問題ないだろう」という思いからか、毎日の夕食時に「ジュースのように甘いサワー」を飲んでいる人も多いようです。でも、問題なのは「アルコール度数」よりも「糖分量」。習慣的に飲んでいたら、着実に脂肪肝が進んでしまうことになります。
ケース9 夜、寝る前にはちみつ入りのホットミルクを飲む
寝る前にホットミルクを飲むとぐっすり眠れるそうです。しかし、はちみつや砂糖を加えて甘くしたものを飲むのはおすすめできません。夜遅い時間に糖分を摂取すると、変換された脂肪が肝臓に蓄えられやすくなるのです。肝臓の健康からすれば、これも「悪しき習慣」ということになります。
糖尿病や動脈硬化を招くことに
いかがでしょう。このように、脂肪肝や肥満になった原因をよくよく追求してみたら、「朝昼晩、何気なく口にしていた甘い飲み物が原因だった」という人がとても大勢いるのです。
たぶん、みなさんの中にも1〜9のケースと同じことをやっていた方が多いでしょうが、こうした習慣を変えずにいると、脂肪肝が進行するのはもちろん、糖尿病や動脈硬化などの多くの生活習慣病を招き寄せることになってしまいます。
ですから、わたしたちは、まず「甘い飲み物の肝臓へのリスクの大きさ」に気づくべきです。そして、その「コトの重大性」を肝に銘じて、普段の生活で意識して甘い飲みものの摂取を減らすようにしていくべきではないでしょうか。
(栗原 毅 : 栗原クリニック東京・日本橋医院長)