家事を手伝うことは「自立していくためのスキル」にもつながるという(写真:Fast&Slow/PIXTA)

発達障害の子どもを育てる中で、保護者が子どもの世話に深く関わるのはよくあること。ただし、自身も発達障害の子どもを持ち、発達障害に関する情報発信をしている桃川あいこさんによれば、「子どもの特性を見据えた上で、サポートの手を入れるところと、子ども自身にやらせてみるところを、区別して考えることが大切」だそうです。

子どもが自ら考える機会をつくることはなぜ大切なのか。またそんな機会として身近にどんな場面があるのか。桃川さんの著書『我が子が発達障害だとわかったら絶対に知っておきたいこと 発達障害児を持つ母親が、発達障害の名著100冊の重要ポイントを1冊にまとめました。』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

好きなことを伸ばすと、他の能力も伸びるきっかけに

映画『ハリー・ポッター』シリーズの主役であるダニエル・ラドクリフは、紐結びなど手先を使うことに困難のある子どもでした。映画俳優のトム・クルーズは、文字を読むことに困難さを持つ子どもだったのです。

トムの場合は支援のためのトレーニングを早めに始めたことも功を奏しましたが、彼らは演技にハマって稽古をたくさんする中でさまざまな体験や作業をすることになり、体の動きや自分に合う学習方法を伸ばす総合的なトレーニングになりました。

特性を持つ子どもは、特定の分野に強い興味や集中力を示すことが多い傾向があります。例えば、電車が好きな子どもが路線図を暗記するだけでなく、それをきっかけに地理や数学に興味を広げることもあります。

このように、1つの興味が他の分野の学びへと発展するきっかけとなる可能性もあるのです。

好きなことに取り組む時間は、どの子どもにとっても楽しくストレスの少ない体験ですが、特性がある子どもは驚異的な集中力を発揮して取り組むことがあります。脳がよく働いている状態でもあることでしょう。

なので、子どもがやってみたいこと・好きなことをたくさんやらせると、そのために必要な他のことを自ら習得する意欲につながり、総合的に体の能力や学びの内容が上がっていったという事例が多く報告されています。

特に思考が強いASDタイプの場合は、苦手なことは無理強いせず、得意なことは好きなだけやらせると、達成感や成果を得られることで自尊心も上がっていくことが指摘されています。

子どもにできることはやらせる、選ばせる

発達障害の子どもを育てる中で、保護者が子どもの世話に深く関わるのはよくあること。ただし、子どもの特性を見据えた上で、サポートの手を入れるところと、子ども自身にやらせてみるところを、区別して考えることが大切です。

例えば、保護者が子どもの身支度をすべて手伝うことが習慣になると、特に特性を持つ子どもは、自分でできることがわからなくなります。

また、不安が強い子どもの場合、手伝うことが当たり前になると、自分でできそうなことにも強い不安を持つようになる場合があります。

そこで、大きな目標をいくつかの小さな目標に分解するような形で、子どもにできることを少しずつ任せてみると、子どもは成功体験を積み重ねやすくなります。

子どもが宿題で悩んでいる場合、答えを全部教えるのが適切なサポートではないと思います。

子どもによっては困難な課題もありますが、少しでもいいので自力でできるところ・できたところを一緒に見つけて、自分で課題に取り組んだ感覚を育てるサポートを行いたいところです。

また、子どもに任せることの1つとして「選ばせること」が挙げられます。「どっちにする?」は、大人が2つの選択肢を用意してはいますが、子どもの主体性を残す質問になっています。子どもが自分から選び、答えを出すという行動を起こす練習になるのです。

保護者が子どもの世話をしすぎないことは、保護者自身の負担を減らすことにもつながります。今はたくさん世話を焼くことがあるかもしれませんが、子どもには自分で決める力を少しずつつけてもらいましょう。

行動にクセがある子どもと日々暮らすと、面倒なことが多いものです。「ずっと自分がつきっきりで子どもの世話をしていれば、子どもに決定権を持たせるよりもラク」という気持ちに向かうこともあるかもしれません。

でも、子どもが自分でできることや自ら考える機会を減らしすぎていないでしょうか。その結果、自分がかえって疲れていないか、ときどき振り返ってみてください。

お手伝いを頼むと、能力と自信のアップにつながる

子どもに不器用なところがあったとしても、ささやかなお手伝いを頼んだり、暮らしの中で保護者が負担になっている作業を一緒にやってもらったりしましょう。

暮らしの中では、座学では得られないような何気なく学べることがいろいろあり、家事は将来自立していくためのスキルでもあります。お手伝いの行動を、特性のケアや脳の働きを育てる観点から見直すと、たくさんの優れた効果があります。

・ 「望ましい行動を行い、結果としてどのような言葉を受け取るか」といったいくつかの行動がつながった型(行動パターン)を教える機会になります

・ 共同作業をすると、コミュニケーションの練習になります

・ 指示通りにやってみるという行為は、聞き取りや手の作業の練習になります

・さまざまな感覚を一度に味わえて脳に刺激をもたらす作業が、お手伝いの中にもあります(料理、ぞうきんがけなど)

・ 子どもの意外に得意なことや鋭いこと、子どもの良いところが見つかる契機になります

・ 家族以外の人との関わり合いが難しい子どもにとっては、お手伝いなどでコミュニケーションをとることが社会性を育てる基礎になります

・ 子どもを褒めるチャンスになります

・ 「かわいそうな子ども」という扱われ方ではなく「自分も誰かの役に立てる」という経験を得るので、子どもの自信につながります

お手伝いをしてもらうという普通の暮らしの中にも、子どもができることや、子どもに対する前向きな見方を増やしていく手がかりがあります。何かをこなすことで子どもに自信がつくことと、他のことへチャレンジする気持ちはつながっています。

以上を見るに、子どもが毎日スマホやタブレットなどの画面を見つめて長時間遊ぶことは、比較的範囲の狭い感覚だけを与えているということになりそうです。

というのもスマホやタブレットによる遊びには、主に目・耳・指先だけを使う、視覚的な刺激が強すぎる、といった特徴が挙げられることも関係しています。

家庭が安心できる場所であることが、すべての始まり

すべての子どもには、安心して過ごせる場所が必要です。特性を持つ子どもには、なおさらそれが求められます。

なぜなら、特性を持つ子どもは、学校などの社会に出たときに苦手なことや自分のできなさ具合と向き合うことで落ち込んだり、自分にとっては強すぎる刺激を受け続けていたりと、いろいろな面で疲れて家庭へ戻ってくることが多いからです。

心理学者マズローの「欲求段階説」によると、人には5つの欲求があります。その中で、最も基礎となるのが「生理的欲求」(食事や睡眠など)と「安全欲求」(安心できる環境や安定した生活)です。

これらが満たされることで、人は心や体の土台が整い、次のステップに進むことができます。

これをふまえると、一般的に子どもがどういうときに安心できるかについては、主に以下が挙げられます。

・ 眠る、食べる、トイレといった体の欲求が満たされる

・ やりとりが乱暴でない/叱られずに話が通る

・ 話したいときは、(保護者ができる範囲で)注意を向けてもらって話を聞いてもらえる

・ ルールは一緒に作る。支配されるのではない

・ 困ったことは、怖がらずに相談できる

・ 干渉されずに、好きなことに浸るひと時を過ごせる

「安心して休める家庭」が社会へ出る基盤に


先のことに加えて、特性を持つ子どもがどういうときに安心できるかというと、子どもの「困り感」を理解した次のような要素がプラスされたときです。

・ 頑張ってもできないことや苦手なことがある、と理解してもらえている

・ 自分にとってわかりやすい伝え方をしてくれる

・ わかりにくい伝え方や指示を、しつこく繰り返されない

・ 子どもにとって落ち着ける環境が用意されている

・ やることが前もって伝えられ、あわてたり混乱したりしなくて済む

人生における最初の休憩所は家庭です。子どもはちょっと出かけて、無事に帰ってきて元気をチャージすることを繰り返し、少しずつ行動範囲を広げていきます。

ゆくゆくは社会の中に他の休憩所が増えていくことを願いたいものですが、最初の休憩所である家庭が安心して休める場所であることが、社会へ出ていく基盤になります。家庭が、体と心を休めたいときに休める場所であるよう、気にかけてあげてください。

(桃川 あいこ : 図書館情報学学士)