大阪・西成で激安の部屋を借りた筆者。そこで見た驚きの光景の数々をご紹介します(筆者撮影)/配信先では写真が一部しか見られません。本サイト(東洋経済オンライン)からご覧ください

かつては日雇い労働者の街として栄え、現在では日本でもっとも生活保護受給率が高いことで知られる、西成区あいりん地区。「福祉の街」として取り上げられることも多く、日本の社会が抱える問題の一端を示す場所でもありますが、現在では外国人も多く住むなど、変化が生じつつあるようです。

村田らむさんの西成居住ルポ、後編です。(前編:西成「家賃2万7千円」ほぼ廃墟ハウスに住んだ結果 住人はほぼベトナム人、そこで見た驚きの光景

工事が終わった後、ドッと増えた住人

住みはじめた頃は、ほとんどが空き部屋だった。両隣誰も住んでいなくて静かだった。

「これは結構、住みやすいかもしれない」

と思った直後、工事が始まった。すべての部屋の畳をはがして、フローリングに替えるそうだ。

ベトナム人の関係者がやるらしく、昼間からワイワイガヤガヤと工事をはじめた。

僕の部屋も頼めばフローリング工事してくれたらしいのだが、いったん他の部屋に移らなければならないらしく、遠慮した。

工事が終わった後は、住人がドッと増えた。僕は1カ月に1〜2回、最長1週間くらい大阪に行くのだが、行くたびに住んでいる人が変わっているようだった。

【画像67枚】「多種多様なゴキブリが発生」「心霊現象や水漏れも」…。管理費込で「2万7千円」西成ハウスの"壊れた日々"

深夜1〜2時くらいになると、大声で電話をする住人もいた。

「ひょっとして、何かよくないものでもさばいてるんじゃないの〜?」

と邪推してしまう。

僕のシェアハウスに住んでいるベトナム人に限ってはいないと思うが、西成ではベトナム人による犯罪も少なくない。

ある日、外に出ると隣の部屋のドアが開いていたので、チラッとのぞいて見ると、完全に外行きの服を着たスタンバイオーケーの女性が4〜5人寝ていた。なにかのお店の待機部屋になっているのかもしれない。

「契約書に人を入れてはダメ、とか書いてあったのにビクビクしていたの、馬鹿馬鹿しい!!」

となった。

まあ住人がいい加減に暮らしているということは、僕もいい加減に暮らしてもいいってことなので気は楽である。

そうしているうちに、1年が過ぎた。

ちなみに、1回の更新は半年までと言われていた。理由は「1年後は取り壊しになっているかもしれないから」とのこと。

1年が過ぎて、

「さらに半年更新しますか?」

と言われて迷った。

更新後、次々と起こる部屋の異変

確かに便利だが、部屋に風呂トイレがないのはやはり面倒くさかった。

わかりやすいデメリットとしてはゴキブリが出る。ゴキブリもいろいろな種類が出た。大きいヤマトゴキブリとチャバネゴキブリは当たり前のように出るが、テントウムシのようにツルツル光ったのが出たときは、

「こんなタイプのいましたっけ?」

となった。

でも新しい部屋を探して、住むというのは面倒くさい。いろいろ迷って、あと半年は住んでみようと決めた。

それで、延長したのだが……それを合図にしたかのように部屋に異変が起こりはじめた。

『三茶のポルターガイスト』というノンフィクション映画が話題になった。

東京の三軒茶屋にあるスタジオで、日夜オカルト現象が起きているというのだ。壁にかけられたボードが揺れ、床から手が伸びて、壁から水が吹き出す。まさにポルターガイスト。霊たちが大騒ぎという作品だ。

西成シェアハウスで起きた心霊現象

だが、西成のシェアハウスも三茶のスタジオに勝るとも劣らない物件だった。

一番、軽い現象だと、壁のすぐ向こうからハトの鳴き声が聞こえる。壁に近寄ると、本当にすぐ真裏で「クルックー」と鳴いているようなのだ。壁が振動するくらい近い。

壁の向こうはリビングで、リビングの中にハトが入ってきているということはない。

ハトの心霊現象ではないとすると、僕の部屋とリビングの間にある(のかもしれない)細い隙間にハトが入り込んでいるとしか思えない。薄くペッタンコになったハトがズルズルと壁の隙間で「クルックー クルックー」と毎朝鳴いていると想像して、震えた。

そして延長した数日後、部屋で寝ていると顔に水がかかった。ポタポタではない。バシャバシャだ。慌てて飛び起きると、壁にザバザバと水が流れていた。しかも茶色い水だ。天井には大きなシミができて、ボタボタボタ!! と水が落ちてくる。

慌てて、布団や機械類をどける。

不動産屋にLINEをすると、

「すぐに管理人を向かわせます」

と返信があった。返信はあったが、管理人が来たのは1時間経った後だった。その間も、部屋に水は降り注いでいた。壁ぎわに流れていた水は、そのまま畳に吸い取られていった。

呆然として水が流れる様子を眺めた。

今カラ、直シテアゲルネ!! 

憔悴していると、壁がノックされた。ドアを開けると、にっこり笑顔のベトナム人がいた。

「今カラ、直シテアゲルネ!! 洗濯機ノ排水ガコワレタミタイ!!」

よろしくお願いしますと言うと、マカセテオイテと言って2階に登っていった。

30分ほど経って、やっと天井からの漏水は止まった。管理人がまたやってきて、

「私ガ直シテアゲタヨ。ヨカッタネ!! アリガトウゴザイマシタ!!」

と、とても元気よく言われた。

保証だとか、そういうのは“ない”世界だと確信したので、僕も、

「ありがとうございました」

と小さめの声で伝えた。

まあ、トイレの水じゃなくて、よかったか〜と思っていたら次はトイレが壊れた。

トイレはウォシュレットが使えなくなっているくらいで、それほどひどくはなかった。ある日、トイレに入ると便器になみなみと水がたまっていた。

「きゃー!!」

となって、再び不動産屋にLINEする。ベトナム人の管理人から電話がかかってくる。

「トイレ壊レテゴメンネ。他ノトイレ使ッテネ」

相変わらずフランクである。

ちなみにシェアハウス内には3つトイレがあった。まず共用のリビングにあったトイレ。ここはなぜか潰してしまっていた。

そして2階にある和式トイレにいくと、外にアンモニアの臭いが漂っていた。なぜか水が流れなくなっていて、そこに何人かがおしっこをしたらしい。

つまり、シェアハウスのトイレがまったく使えなくなってしまった!! 他のトイレなんてないのだ。

しばらくは直らないようで、近くのドン・キホーテに行かないと用が足せないという、非常に面倒くさい状態になってしまった。

締め切りが逼迫していたので、シェアハウスで漫画を描いていたのだが、尿意が増してくると手遅れになる前にドン・キホーテまでスタスタと歩いていって尿をする。

なんか申し訳ないので、食べ物とかを買って帰る。

非常に面倒くさいのだが、なんとか我慢していた。ただ、ドン・キホーテは朝5時〜朝9時まで休業するのだ。

中年ど真ん中のペットボトルチャレンジ

目が覚めてトイレに行けないのはつらすぎる。ある日、どうしても耐えられなくて、ペットボトルにジョボジョボとオシッコをした。中年ど真ん中のオッサンのペットボトルチャレンジはさすがに悲しいものがあった。


そして、そのオシッコをどうしようか迷ったが、さすがにゴミ捨て場に捨てるのも躊躇してしまい、結局カバンに入れて東京まで持ち帰った。

そして2024年年末。かなり最悪の事態になってしまった。

いつも通り、家に戻ると鍵を入れても回らなくなってしまったのだ。どれだけ力を入れてねじっても回らない。鍵を変えられてしまったのか? と思ったがそんな様子はない。

しかたなく不動産屋に電話するが、その日は対応できず、仕方なく近くのネットカフェで寝る。

翌日、にっこり笑顔のベトナム人が現れた。両手に包丁を持っている!! どういうこと? 面倒くさくなって、始末しにきた?

と思ったら、ドアの隙間に包丁を入れてガンガンと何度もシリンダーに当てた。

ガチャリ、

と鍵は開いた。

開いた安心感よりも、こんな簡単に鍵が開くんだというビックリのが大きかった。

管理人はにこやかに帰っていった。

中から鍵をかけるぶんにはいいのだが、外から鍵をかけると開けられなくなってしまうかもしれない。だから、それからは外出するときは、鍵をかけずに過ごしていたのだ。

さすがに鍵のかからない部屋に貴重品を置いておくことはできず、荷物を置いておけない部屋は不便すぎるので、1月いっぱいで解約した。

しかし大阪に家があるのはとても便利だった。今度は一軒家買ってみようかな? とか思って物件を探している最中だ。

【もっと読む】西成「家賃2万7千円」ほぼ廃墟ハウスに住んだ結果 住人はほぼベトナム人、そこで見た驚きの光景 では、2万7千円ハウスでの日々について、村田らむさんが詳しくお伝えしている。

(村田 らむ : ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター)