「孫正義社長は落ち目」 AIへの78兆円投資にイーロン・マスクが「彼らはお金を持っていない」と批判する理由

早くも物言いがつき始めている。ソフトバンクグループ(以下SBG)代表の孫正義氏(67)がホワイトハウスでぶち上げた、AI事業への巨額投資についてだ。旗振り役を務める“天才実業家”が抱える、悩ましい実情とは。
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「これからは“ゴールデンエイジ”だと(トランプ大統領に)話をしました」
そう破顔しつつメディアの質問に答えたのは、SBG代表の孫正義氏。
1月21日、就任したばかりのトランプ大統領の記者会見に登場し、総額約78兆円に上る巨額の投資計画を公表したのだ。
「かねてより孫会長が執心している、AI事業への投資です。“スターゲート計画”と名付けられ、AIの開発に欠かせないデータセンターの建設を米国各地で行うとか」(現地記者)
無論SBG一社で進めるわけもなく、会見には共同で出資する米AI開発企業オープンAI、大手ソフトウェア企業オラクルの代表も顔をそろえた。財務管理を担うSBGは、早くも約3兆円の出資を決めたという。

孫氏の思惑とは
駒澤大学経済学部の井上智洋准教授は、AIに大金を投じる孫氏の思惑をこう推測する。
「計画では、SBG傘下の会社を使い、データセンターのために発電施設まで建造するそうです。AI開発に必須のインフラを握ることで、来るAI時代における“地主”のような立場を目指しているのでは」
そうとあらば“ライバル”は座視できるはずもない。トランプ政権で「政府効率化省」を率いる実業家のイーロン・マスク氏(53)が「彼らは実際、それだけのお金を持っていない」と計画に水を差したのだ。
「マスク氏は自身もAI開発を手がける企業を持っています。彼と犬猿の仲で知られるオープンAI社CEOのサム・アルトマン氏は、即座に“間違っている。建設中のデータセンターに来たいのか?”と応酬しました」(前出の現地記者)
過激な言動で知られるマスク氏なだけに、また「お騒がせ」かと思いきや……。
落ち目の3人
「マスク氏の指摘は、あながち間違ってないですよ」
そう語るのは「インフィニティ」チーフエコノミストの田代秀敏氏だ。
「かつてヤフーやアリババを青田買いし“天才投資家”の名声を博した孫氏ですが、近年はその眼力に疑問符が付いています。特に2017年に立ち上げた投資事業『ビジョン・ファンド』が大失敗したのは大きかった」
さらに反省するどころか、
「19年に『ビジョン・ファンド2』を立ち上げ、これも失敗してしまいました。往時の孫氏は世界中から資金を集める力を持っていましたが、今もその“神通力”が健在かというと、大いに疑問なのです」
加えて、オープンAI社も年間赤字が数十億ドルある上、人材流出で火の車。残るオラクル社も「クラウド事業が低迷している」(同)というから不安なことこの上ない。
「落ち目の監督・俳優・プロデューサーが集まって、超大作映画を作りたいと言っているようなもの。マスク氏はそこを見抜き、横やりを入れたわけです」(同)
「どこまで助けてくれるのかは未知数」
在米ジャーナリストの瀧口範子氏も、同様の意見を述べた上でこう補足する。
「トランプ大統領は米国に投資を呼び込むことと、AI事業を後押しすることを表明しています。今回の話は、その格好の宣伝になると思ったのでしょう。どこまで助けてくれるのかは未知数です」
SBGにこの件について尋ねると、
「資金調達の選択肢は複数あります。マスク氏の指摘は誤りです」
孫氏がかつての“黄金時代”を取り戻せるか、乾坤一擲の大勝負になりそうだ。
「週刊新潮」2025年2月6日号 掲載