ダルトンは書簡で「we are outraged!(われわれは激怒している)」と表明(右)。フジテレビは社長会見を開いたが、CMを当面差し止める企業が続出するなど取り巻く環境は一気に暗転した(左写真:今井康一撮影、右写真:編集部撮影)

「we are outraged!」

1月14日、アクティビスト(物言う株主)としても知られるアメリカの投資ファンド、ダルトン・インベストメンツが、フジ・メディア・ホールディングス(HD)に送った書簡を公式ホームページで公表した。文面に書かれていたのは、「われわれは激怒している!」という意味の強い言葉だった。

「第三者委員会の設置と信頼回復の要請」と題した書簡では「Mr.Masahiro Nakai」をめぐる騒動に関して、「エンターテインメント業界の問題だけでなく、コーポレートガバナンスの重大な欠陥を露呈している」と指摘。「視聴者やスポンサーの信頼を維持することは、会社の維持に不可欠な要素」とし、フジ・メディアHDの株式を7%以上保有している株主として「激怒している」とかみついたのだ。

「公式な文書でoutragedという言葉を初めて見た。ここまでの言葉はなかなか使わない。ダルトンは本気で怒っているのが見て取れる」と投資ファンド幹部は語る。

後手に回った対応は投資家からも不評

タレントの中居正広氏が女性と性的トラブルになり巨額の解決金を支払ったと、女性セブンや週刊文春が報じたことで始まった騒動。トラブルが起きた食事会を女性の上司にあたるフジテレビの編成幹部が設定したといったものや、大物芸能人や芸能関係者の歓心をかうために女性アナウンサーに接待させる慣習があるといった報道も相次いだ。

フジ・メディアHD傘下にあるフジテレビジョンの港浩一社長は、1月17日に記者会見を開いたが、多くの質問について「(今後の)調査に委ねたい」として回答を避けたのは、多くのメディアが報じているところだ。歯切れの悪い回答もさることながら、投資家から批判が上がったのが、ダルトンからの書簡を受け取った後という会見の「タイミング」だった。

「ダルトンの怒りが尋常ではないとわかり、慌てて会見を開いたのだろうが、明らかに後手に回った対応だ。自ら真相を明らかにしようという意思が感じられず、ガバナンス面で大きな問題を抱えていることが浮き彫りになった」(投資ファンド幹部)との指摘は多い。

「ダルトンは水面下で取締役の解任や刷新を求めるといった株主提案を株主総会で行う意向をすでに示しているのではないか」(同)と見る投資ファンド関係者は少なくない。

ダルトンは過去にもフジ・メディアHDに対し、MBO(経営者による買収)によって非公開化したうえで、コンテンツビジネスなど放送事業に特化するよう求める提案を行ったことがある。2024年5月末のことだ。

このときは、ROE(自己資本利益率)が目安とされる8%を大幅に下回る4.4%まで低下し、放送業界の中でも資本効率が極めて低いことを問題視していた。フジ・メディアHDは当時、「(MBOは)実現可能性に疑義がある」として拒否、ダルトンも株主提案までは踏み込まなかった。

ところが今回は明らかに事情が違う。今年6月の定時株主総会では、現取締役の再任を拒否しつつ新たな取締役を送り込むといった株主提案を行う可能性が高いと見られているわけだ。

2年前の総会は会長と社長の賛成率が警戒水準に

有価証券報告書によるとフジ・メディアHDの2024年3月末時点の株主構成(発行済み株式数ベース)は、金融機関17.8%、金融商品取引業者2.9%、その他法人30.3%、外国法人15.2%、個人33.8%となっている。

大量保有報告書では、アクティビストである投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(イギリス)や、マラソン・アセット・マネジメント(同)なども株式を保有していることが確認できる。外国法人の割合はさらに高まっているものと見られる。

複数の投資ファンド関係者は、こうした株主のうち「外国法人は性加害などに関して敏感なため、ダルトンが提案したら賛成票を投じる可能性が高いだろう」と見る。

そのうえで、「フジ・メディアHDは対応のまずさで株主の信用を失っており、機関投資家や個人投資家が賛成に回れば過半を超えてダルトンの提案が通ってしまう可能性もある」と指摘する。

昨年6月の株主総会こそ、いずれの取締役もその選任にあたって70〜80%の賛成票を集めた。だが2023年6月の株主総会では、宮内正喜会長(昨年6月に退任)が56.61%、金子修社長が58.05%と警戒すべき水準に。安定株主で盤石とはいえないのだ。「今回はかなり厳しい数字になるのではないか」と見る市場関係者は多い。


フジ・メディアHDは今後、できるだけ早い段階で調査を実施する方針を打ち出している。しかしあえて日本弁護士連合会がガイドラインで示す第三者委員会には当たらない調査委員会を立ち上げるとしている。「お手盛り調査になるのではないか」といった批判も出ている。

こうした調査で真相や責任を明らかにすることができなければ、株主からの信用は失われるばかり。そうした事態に陥れば、株主によって現経営陣が引きずり降ろされてしまう可能性はあるといえそうだ。

(田島 靖久 : 東洋経済 記者)