SearchGPTは、従来の検索エンジンの機能と生成AIの機能を組み合わせたもので、現在では、すべてのユーザーが利用できるようになっている(写真:Melpomene/PIXTA)

2024年の夏から秋にかけて、検索エンジンChatGPTが大きく変化し、進化している。第1は、検索エンジンが「AIによる検索」という表示を出すようになったこと。第2は、ChatGPTがSearchGPTと呼ばれるサービスを開始したことだ。昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第138回。

「AIによる概要」とSearchGPT

「AIによる概要(AI Overvie)」が、Googleの検索結果ページの最上部に表示されるようになった。検索キーワードに基づいて複数のウェブページから情報を収集・要約し、生成AIが回答を生成する。2023年5月からSGE(Search Generative Experience)という名称で試験的に運用されてきた。

これによって、いちいちウェブサイトを開くことなく、概要的な回答を得られる。

このサービスは、2024年5月にアメリカで提供が開始され、8月には日本でも利用可能になった。

SearchGPTは、従来の検索エンジンの機能と生成AIの機能を組み合わせたもので、2024年7月に、プロトタイプが公開され、テストユーザーへの限定公開で導入された。10月31日に正式提供が開始され、現在では、無料ユーザーを含むすべてのユーザーが利用できるようになっている。

これまでの検索エンジンは、検索語に関係のありそうなサイトを示してくれるだけだった。ところが「AIによる概要」もSearchGPTも、質問に対する答えを直接に出してくれる。この意味で、検索のための手段が大きく変わった。

他方、これまでのChatGPTは、質問に対する直接の答えは出してくれたが、その元になっているサイトを示してくれるわけではなかった。これを知るには、サイト検索用プラグインを用いる必要があった。ところが、SearchGPTは、こちらが求めなくても参照サイトを示してくれる。

「直接に質問に答え、参照サイトを示してくれる」というのは、これまでもBingやBard(現Gemini)がやっていたことなのだが、いくつかの問題があった。

第1に、回答はかなり簡単なもので、詳しい情報は得られなかった。第2に、参照サイトをどのような基準で選んでいるかがわからなかった。マイナーなサイトや、原典でない2次的サイトを選んでいる場合が多かったように思う。

それに比べて、SearchGPTは、かなり長く詳細な回答を出してくれるし、サイト選択も適切なように思われる。

SEOなどに大きな影響が及ぶ

以上のような変化によって、利用者の行動が変化し、それがさまざまな変化を引き起こしていくだろう。これによって、従来型の検索エンジンの地位が脅かされる可能性は大いにある。

それだけでなく、インターネットの広告モデルやウェブサイト運営のビジネスモデルの基本が変わるかもしれない。とくに、SEOには大きな影響が及ぶだろう。

こうした問題も大変重要であるが、本稿においては、利用者の観点から、どのような使い方があり得るか、どういう使い方をすればよいのか、という問題を考えることにしたい。

つまり、従来の検索エンジンと「AIによる概要」とSearchGPTを比較した場合、どの方法がより効率的に情報収集できるか、あるいは、これらの手段をどう組み合わせたらよいのかという問題だ。

辞書的な使い方の場合はSearchGPT

新聞で知らない単語や英語の略語などを見て、その意味を調べるという場合がしばしばある。つまり、辞書あるいは百科事典としての利用だ。

こうした時には、SearchGPTは便利だ。得られた回答で不足と思えば、突っ込んで聞くこともできる。

問題は、問いの出し方(プロンプト)だ。「**について説明してください」と指示するのが普通の方法だろうが、こうすると、本当に自分の知りたいことに答えてくれるかどうか、わからない。私は、自分の考え方を文章にしてそれを示し、「誤りがあれば直してほしい」と指示している。

認識の間違いなどをチェックしてくれることもある。ただし、データを正確にチェックしてくれるかどうかは、定かでない。データだけでなく、回答全般について、後述する「ハルシネーション」の問題に注意することが必要だ。

知りたい情報がどこのサイトのどこにあるかがわかっている場合は、従来どおり、Google検索エンジンを用いるのが便利だろう。例えば、天気予報を見る場合だ。あるいは、消費者物価の最近のデータを知りたいといった場合だ。

なお、頻繁に用いるサイトについては、自分自身でリンク集を作るのが便利だろう。私は、経済データのリンク集をnoteに作っている

同様のリンク集をGoogleドキュメントなどに作ることも考えられる。

データを調べるにしても、求めるデータがどこのサイトにあるのかがわからない場合もある。サイトがわかっても、たくさんの表があって、そのうちどれを見ればよいかがわからない場合も多い。例えば、GDP統計は非常に多数の表がある。こうした場合には、SearchGPTを使うのが便利だろう。

将来、もっと進んでデータのスクレイピングをやってくれるようになれば、非常に便利になる。データを用いる作業の効率性は、著しく向上するだろう。

ところで、以上のような使い分けをすると、「AIによる概要」は、あまり利用価値がないのではないだろうか? SearchGPTのように何度か質問を繰り返して詳しい答えを得ることはできない。かといって、同じサイトを繰り返し使っている場合には不要な情報だ。

実際、ウェブには、「邪魔だから消せる方法はないか?」などの書き込みも見られる。

ハルシネーションの問題は解決していない

以上によって、知的活動が著しく効率化することになる。

ただし、AIによる回答は、「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる誤りを含んでいる場合があることに、十分注意しなければならない。この問題は、しばらく前に比べればだいぶ改善されたように思えるのだが、根絶できたわけではない。いまでも、かなり頻繁に、まったく誤った答えを出してくる場合がある。参照サイトを示しているにもかかわらず、そこに書いてあることと違うことを回答している場合もある。

したがって、AIの回答をうのみにしていると、場合によっては、非常に大きな問題となるかもしれない。

ChatGPTのサイトには、「ChatGPTの回答は必ずしも正しいとは限りません」と書いてあるのだから、損害賠償を求めることはできないだろう。十分に注意して、うまく使うことが必要だ。

ただし、将来、ウェブサイトのデータ・スクレイピングをやってくれれば、SearchGPTには、大きな将来性が広がる。


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(野口 悠紀雄 : 一橋大学名誉教授)