Windows 10サポート終了で迫るリスク
Windows 10搭載PC(筆者撮影)
あなたのパソコンはまだWindows 10だろうか。2025年10月14日が迫り、セキュリティ専門機関が注意喚起を発する中、依然として全世界のPCの約6割がWindows 10を使い続けている。新しい技術への関心が高いゲーマー層でさえ、4割以上がWindows 10のままだ。
この現状に、マイクロソフトは強い危機感を示している。
“Windows 10サポート終了”まで9カ月
2025年10月14日を過ぎるとWindows 10はセキュリティ更新が完全に止まる。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)は2024年10月15日の注意喚起で、この問題の深刻さを強調している。
サポート終了後は新種のウイルスやランサムウェアに対する修正パッチが得られなくなるだけでなく、Windows 10上で動作する多くのソフトウェアにも影響が及ぶ。Google ChromeやMicrosoft Edgeなどのブラウザ、メールソフト、さらには業務用ソフトなども、順次サポートが打ち切られる可能性が高いためだ。
アメリカのサイバーセキュリティ機関(CISA)の調査によると、2024年1月から9月までにWindows OSの重大な脆弱性が15件見つかり、一部はすでにサイバー攻撃に悪用された事例も報告されている。現時点ではサポートが続いているため修正パッチは適用されるものの、ランサムウェアによる被害など、深刻な脅威が潜在的に拡大しているのは確かだ。リモートワークやネット決済が当たり前になった今、サポート終了後に同様の脆弱性が発生すれば、利用者が自力で対処するしかなくなる可能性が高まる。
企業向けにはExtended Security Updatesという延長サポートが存在するが、期間に限りがあるうえにコストもかかる。個人ユーザーにはその選択肢すらないため、サポート終了後は完全に自己責任となり、いつどんな脆弱性を突かれてもおかしくない状態に陥ってしまう。
残り9カ月とはいえ、企業でも個人でも一斉に乗り換えが始まると在庫不足や価格高騰が起きる可能性があるため、ゆっくり検討している暇はないかもしれない。
移行が進まない現状
Web解析サービスのStatCounterが示す2024年12月の市場シェアでは、いまだにWindows 10が約62.7%、Windows 11が約34.1%という状況が明らかになっている。サポート期限が迫る中でもWindows 10が依然として過半数を占めるのは、一部のユーザーが移行に踏み切れていない現実を浮き彫りにしている。
StatCounterによるOS利用状況(2023年12月〜2024年12月)。世界中のウェブサイトのアクセスデータをもとに集計。Windows 10が62.7%で依然として過半数を占める(Statscounterによる公表データ)
ゲームプラットフォームのSteamが毎月実施しているハードウェア調査でも、2024年12月の時点でWindows 11が54.96%、Windows 10が42.39%という結果が出た。
最新OSを積極的に導入しそうなゲーマーの層でさえ、4割以上がWindows 10を使い続けているという事実には、まだ動かなくても大きな問題はないという心理が透けて見える。
こうした状態で、1月に世界最大規模の展示会「CES 2025」を迎えたMicrosoftは「今年こそWindows 11への更新が必須の年だ」と強くアピールした。
なぜそこまで言われても移行が思うように進まないのか。
理由はいくつも考えられるが、まずWindows 11のインストール要件として不可欠な「TPM 2.0」が挙げられる。これは暗号鍵やパスワードを安全に保管するためのセキュリティチップで、パソコンへの不正アクセスを防ぐ役割を担うハードウェアだ。Windows 10でもTPM 1.2などを利用できるが、Windows 11は2.0以上が必須となっている。
数年前に購入したPCではそもそも搭載していないケースがあり、PC本体の買い替えを伴う出費や手間が移行を後回しにさせている。今のPCで特に不満がない限り、買い替え動機になりづらいという面も大きい。
経済的な負担も大きい。Windows 11への切り替えそのものは無償であっても、ハードウェアの制約によって新しいPCを調達せざるを得ない場合、ノートPCなら10万円台後半、性能を求めれば20万円以上のコストがかかるかもしれない。企業や組織においてはシステム管理や研修などの人的コストも含め、そう簡単に決断できない事情がある。
さらに操作の変更に対する抵抗や、アップグレード時のトラブルを嫌う心理も加わり、期限まであと9カ月というタイミングでも必ずしも全ユーザーがすぐに動き出すわけではない。
最新Windows 11 PCは「AI PC」に
一方で、マイクロソフトは2024年から立ち上がった新カテゴリーのPC「Copilot+ PC」を推進している。
これはいわゆるAI PCと呼ばれるもので、高性能CPU・GPUに加えてNPUと呼ばれるAIに特化した処理チップを搭載し、クラウドとローカルでAI機能をフル活用できる設計となったパソコンだ。CES 2025でもLenovoやHPなど複数のメーカーが新モデルを発表している。
Copilot+ PCは、オンライン会議の要約や翻訳、画像生成やテキスト要約などを高速にこなしてくれるため、作業効率やエンターテインメント性を大幅に引き上げる可能性がある。
Windows 11搭載PCの最新版には、Copilot+ PCというAI機能を備えたPCもある(筆者撮影)
価格帯は10万円前後からと案外エントリー層も用意されていて、「どうせ買い替えるならAI機能が充実したPCに切り替えたい」という需要を掘り起こしているようだ。
MicrosoftがCES 2025で強調した「今年はWindows 11への更新の年」というメッセージは、単に旧OSを淘汰するための呼びかけだけではなく、新時代のPCの在り方を見据えた提案でもある。
AI機能とハードウェアレベルのセキュリティを標準装備したWindows 11環境こそが、これからのスタンダードになっていくというのが同社の読みだろう。
それでもWindows 10から移行しないまま2025年10月14日を迎える選択は、サポート切れOSをネットに接続し続けるという大きな賭けを意味する。現状で「そこまで緊急性を感じない」というユーザーや企業が多いのは確かだが、もし重大なセキュリティインシデントが起きれば被害は甚大になりかねない。
Copilot+ PCのような新カテゴリーもすでに出そろい、リプレースの踏ん切りをつけやすい今こそ、利用者それぞれが早めにWindows 11への更新を考えるべき時期に来ているのではないか。
(石井 徹 : モバイル・ITライター)