日米通算200勝まで「あと3勝」に迫った田中将大

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「JFK」に匹敵

 プロ野球のストーブリーグでは田中将大投手(36)が楽天を電撃退団し、「球界の盟主」巨人に移籍したことで、同投手があと3勝で足踏みしている日米通算200勝に到達できるかどうかが、今年注目のトピックの一つになった。田中は楽天で119勝、ヤンキースでは79勝を積み上げたものの昨季は右肘手術も影響もあり、1試合しか投げられなかった。シーズン未勝利はプロ18年目にして初の屈辱だった。プロ入りした球団を去る一大決心をした右腕は、巨人移籍1年目から進退を懸けることになる。

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 さる元NPB球団監督はこう断言する。「巨人で200勝できなければ、他に達成できるチームはないでしょう。マー君にとってはラストチャンスと言っても過言ではありません」

日米通算200勝まで「あと3勝」に迫った田中将大

 その理由を掘り下げてみると――。

 元監督は「今季の巨人の場合、先発は五回までリードした展開を保っていれば、勝ち星が付く可能性がかなり高いとみています」と分析する。根拠の一つがライデル・マルティネスの加入だ。

 マルティネスは昨季まで中日で通算166セーブを挙げた日本球界ナンバーワンのクローザーだ。昨季も2勝3敗43セーブ、防御率1.09でセーブ王を獲得した。巨人の阿部慎之助監督は昨季29セーブで抑えだった大勢を八回に回し、九回にマルティネスを起用する構想を明かしている。敵チームにしてみれば、この2イニングはほぼノーチャンスだ。

 七回までのリリーフ要員を見ても、新人王に輝いた船迫大雅投手(昨季51試合で22ホールド)、カイル・ケラー投手(同52試合で防御率1.53)、アルベルト・バルドナード投手(58試合登板)らを擁する。シーズン終盤までは3連投させない方針を示している阿部監督の采配の下でも、高確率で六回から逃げ切りを図れる陣容を誇る。元監督は阪神で一世風靡した「JFK」にも匹敵すると評し「これだけの顔触れなら先発は五回まで飛ばしていけます。そうなると1試合における投球の質は上がります。特にマー君のように、長いイニングが厳しいベテラン投手にとっては、このリリーフ陣なら安心してバトンを託すことができます」と太鼓判を押す。

DH不採用のリーグは初体験

 指名打者(DH)制度を採用していないセ・リーグへの移籍になったことも、田中にはプラス以外にないという。

「今のマー君は、力でねじ伏せていた全盛期の投球はできなくなっています。ピンチで“ギアを上げる”というのが真骨頂でしたが、ギアを上げると球がばらつくなど球質が落ちるようになってしまいました。誰もが避けて通れない加齢による衰えの中で、アウトを確実に計算できる投手との対戦は、パ・リーグにはないセ・リーグの大きな利点になります」

 田中がメジャー時代に所属していたヤンキースもDH制を採るア・リーグだった。日米に所属したリーグで交流戦を除けば、9人全員に気が抜けなかった。初めてDHがいないリーグに移ったことで、より長いイニングを投げられる可能性が高まるに違いない。

 力勝負の色が濃いパ・リーグから離れることも、制球力重視にシフトした田中の力を発揮しやすくするだろう。キャリア晩年に松坂大輔投手が右肩痛から一時復活し、カムバック賞に輝いたのも中日時代の18年だった。その他にも阪神の下柳剛投手らパ・リーグからセ・リーグに移籍したことで、輝きを増したケースは少なくない。

周囲が気を使いすぎた楽天時代

「速球派を多く輩出してきたパ・リーグに対し、セ・リーグには技巧派が通用しやすい野球と言えます。しかも長打が出やすかった(巨人の本拠地球場の)東京ドームのホームラン数が、昨季は巨人が投手陣を立て直したことに加え、飛ばないとされたボールの影響も相まって、一昨年からは激減しました。田中の精度が高い制球があれば、五回まで2失点以内にまとめる投球がある程度、期待できるでしょう」

 元監督はこのように展望を見通した上で、味方打線の援護が大きな鍵を握るという。

「特に、楽天に復帰1年目はマー君が登板すると味方打線が点を取れないことが多々、ありましたね。32歳で帰ってきた当時の楽天では多くの選手が年下になっていました。現役ながら既にレジェンド的な存在で、周囲は敬意を通り越し、気を使いすぎているように見えました。打者は田中の存在の大きさにバッティングが硬くなり、何とか援護しようとして、さらに自分本来のバッティングを見失うという悪循環に陥っていました」

坂本が橋渡し役?

 一方で、巨人には小学時代に捕手としてバッテリーを組んだ同学年の坂本勇人内野手を筆頭に、実績豊富なベテラン野手が複数、存在する。

「マー君が溶け込みやすいよう、坂本が橋渡し役になることは目に見えています。他にも長野(久義外野手)や丸(佳浩外野手)らマー君でも気後れしない実績を持つ選手がいます。味方打線が萎縮していた楽天とは違った雰囲気になるのではないでしょうか」(元監督)

 田中は昨年末の巨人移籍の記者会見で、「残り3勝がフォーカスされますが、3勝で終わる気持ちはない」と通算200勝は通過点であることを強調した。阿部監督からは10勝以上した上で貯金を蓄えるノルマを課された。限界説を払拭し、大記録にたどり着くだけではなく、もう一花咲かせることができるのか。本人が「周囲から、うだうだ言われているのは知っている。自分で(力を)証明するしかない」と完全復活への強い思いを胸に乗り込む新天地では、これ以上ない環境が整っていることは確かなようだ。

デイリー新潮編集部