中川淳一郎が考える「AIに奪われない職業」は“漁師”

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 築地の名包丁店で買った魚をさばく用の包丁が、実に素晴らしい! この4年、散々魚を釣ってさばいてきたのですが、アジの3枚おろし、サバの2枚おろしなどをするのに、これまで使っていた洋包丁では本当に時間がかかっていた。しかし、この包丁にしてから時間が3分の1になりました。

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 新しい包丁はシャーッと切れ、一気に2枚おろしが完成し、裏返して3枚おろしも実にスムーズ。みそ煮を作るべく、サバを腹側と尻尾側に切るのも洋包丁だと両手を使ってエイや!とやる必要があったのですが、この包丁ならば片手ですぐに切れる。

 料理って道具が大事なのだとつくづく感じます。圧力鍋なんてその最たるもので、トロトロで身がほぐれる牛テールスープを普通の鍋で作ろうものなら、何時間煮込まなければいけないか分からない。しかし、圧力鍋を使えば1時間で完璧な柔らかさの牛テールスープができる。

中川淳一郎が考える「AIに奪われない職業」は“漁師”

 そしてこの度、良い包丁があれば、魚を快適にさばくことが可能であることを痛感しました。

 私は新潟県燕市の職人が作る高級パン切り包丁をこの10年以上使っているのですが、これも、やはりすさまじく簡便にパンを切ることができます。それを経ての今回の包丁。ただ、一つ参ったのが、これまでの包丁の感覚で魚を切るとあまりに切れ味が良く、結局親指・人差し指・中指を立て続けに切ってしまいました。それだけすごいので、慣れるしかない。

イラスト・まんきつ

 こうした経験をすると、「匠」は今後一層大切にし、それなりの報酬を出す必要があるのでは、と思うのですよ。今の時代、AIを使えば多くの職業が代替できる、的な意見もあります。それは事実ではあるものの、今回の包丁の切れ味はAIには絶対にできないこと。

 AIを礼賛する文化はかなり醸成されつつある状況ですが、これからわれわれは「人間にしかできないこと」をいかにして見つけるかを考えなくてはマズいのではないでしょうか。正直、私のような文筆業はAIに以下のごとくお願いをしたら、それらしい原稿を書いてもらえる時代になっています。

「石破茂氏が支持率を爆上げする方法を考えてください」

 これに対して、AIは何らかの答えを出してくれる。そして、AIのすごさは、AIに指示する人のクリエイティビティー次第で精度をかなり上げてくるということです。

 私の知人が某小売業のキャラクターデザインを請け負い、「AIを使ってキャラ開発をした」ということも含めてそのキャラクターをデビューさせたいと考えました。試行錯誤の末、AIに対する指示のやり方が大事だとの結論に至るのですが、私が感心したのが以下の指示です。

「今もらったアイデアは私が考える理想のキャラデザインの70%だよ。できるだけ100%に近付けてくれないかな」

 これを指示したところ、AIは頑張ってよりクオリティーの高いキャラクターを提案してきたそうなのです。こうなると、ホワイトカラーは本当に仕事を失うかもしれない。

 漁師か包丁職人になるのが一番いいのかも……なんて思いました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2024年11月28日号 掲載