鳥貴族は未進出の地域もあり、2030年までに国内1000店舗を目指している(撮影:今井康一)

実に力強い決算となった。居酒屋大手「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループが9月13日に発表した2024年7月期の決算は、売上高が419億円(前期比25.3%増)、営業利益は32億円(同2.3倍)と大幅な増収増益となり、一気に過去最高益を更新した。

前期はコロナ禍の影響や食材の仕入れ値の上昇もあり、営業利益は低調だった。今期はそれらの影響が解消され、忘新年会や歓送迎会の需要も回復し、いよいよ本領発揮となった。

業績を牽引したのは既存店の伸びだ。2024年5月に3年連続の値上げを実施し全品370円均一(税込み)となったが、集客が鈍ることはなかった。

全品370円均一はまだ安い、値頃感を維持

既存店の客数は前期比20.2%増となり、同業他社と比較しても高水準だ。直近の8月も前年同月比10.3%の増加と好調が続いている。居酒屋業態の需要が戻りきらない中でも、鳥貴族は圧倒的な集客力を見せつけた。

値上げを実施しても、全品370円均一とまだまだ安く、値頃感を維持できている。また、今年2月以降は、鶏はらみの鉄板焼きと翠ジントニックなど、期間限定でメニューとドリンクを組み合わせで訴求するキャンペーンも実施。一部商品は予定より早く終売になるなど好評だった。

一部、酒類など原材料の値上がりも影響したが、値上げ効果などで利益率も向上した。販管費の比率も抑制し、大幅な増益となっている。

同社は決算発表と併せて2027年までの中期経営計画も発表した。2027年7月期に売上高600億円、営業利益60億円を掲げる。3年間の増加幅は売上高で約180億円、営業利益は28億円となる。同社にとってこれまでにない増収増益のペースを計画している。

計画達成のポイントは、国内外での店舗網の拡大だ。中計期間の3年間で、年平均50店舗の出店を計画する。国内だけでなく海外の出店も強化し、2030年にはグループ2000店舗、海外店舗比率は25%以上を目指す。

海外出店は2023年にアメリカ子会社を設立、2024年5月にロサンゼルスで15年以上営業を続ける焼き鳥店「HASU」を事業譲受。8月にはロサンゼルスでレストランタイプの「zoku」を出店した。2024年中には日本の業態に近い「TORIKIZOKU」をオープン予定だ。

アジアでも出店を進める。今年3月に香港企業とFC契約を締結し、4月に台湾で合弁会社を設立、7月に韓国で子会社を設立した。台湾と韓国では9月に1号店を出店、現地でも活況だ。香港も今年中の出店を計画する。


大倉忠司社長は「焼き鳥はすし、ラーメンに次いで世界に通用する第3の日本食になれる」と語ってきた。まずは東アジアとアメリカで足場を固め、東南アジアや欧州への出店も視野に入れる。

焼き鳥を「世界言語」にしていく

これまで、国内は鳥貴族の単一業態で成長を続けてきた。2023年にはFCで展開する「やきとり大吉」を運営するダイキチシステムを買収している。駅前繁華街が中心の鳥貴族と、郊外や住宅街が中心のやきとり大吉という違いはあるが、両ブランドとも安さが武器になっている。

鳥貴族は東北、四国などに未出店の地域があり、拡大余地がある。大吉も入店しやすい店づくりや、ロゴも親しみやすいものに変更するなど、リブランディングを進めている。


大倉忠司社長は焼き鳥文化を世界に広めると意気込む(撮影:ヒラオカスタジオ)

今後の店舗網拡大のカギとなるのは、中・高価格帯のブランドの展開だ。5月に高級焼き鳥業態「焼鳥 市松」を運営するAO社、「焼とりの八兵衛」を運営するhachibei crew社とそれぞれ業務提携を結んだ。この2社は海外にも出店している。業務提携を通じて、高価格帯ブランドの開発と運営のノウハウを蓄積する考えだ。

出店を進めるうえでは、人手不足の中で採用を強化し、人材育成を進めることも重要だ。海外では食材など調達網の構築も課題になる。大倉社長は決算会見で、中長期で人材基盤の強化に取り組む点に加えて「焼き鳥文化を世界に広げ、焼き鳥を世界言語にしていく」と宣言した。

国内では圧倒的な存在感を誇る鳥貴族は、海外でもブランドを確立できるか。今後3年は企業として一段の成長を試す勝負どころになる。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)