「入院を決断しなかったら家で呼吸が止まっていた」 36歳俳優がギラン・バレー症候群に 突然の発症なぜ? 医師に聞く原因と治療法
NHKの朝ドラ『舞いあがれ!』やテレビ朝日系『科捜研の女』等に出演していた、俳優の小堀正博さん(36)は半年前、謎の病に襲われた。「38度後半は出ていた。突然握力が弱くなり、ペットボトルのふたが開けられなくなった。2〜3時間寝てトイレへ行こうと思ったら体が動かず、救急車を呼んだ」。患ったのは、「ギラン・バレー症候群」。手足がしびれ、体に力が入らないなどの症状が起こり、最悪の場合、呼吸さえできなくなり死に至る。
小堀さんも呼吸する力を失い、人工呼吸器を装着するほど重症化したという。「声は出せず、意思疎通も、排せつも自分の意思でできない。このままずっと動けない状態で一生過ごすのかと、不安だった」。緊急入院から2週間、ようやく指を動かせるように。その後、リハビリを繰り返し、4カ月半もの入院を経て、つえを使って歩けるまでに回復した。しかし、俳優業にはまだ制限がかかっている。
誰でも発症する可能性があるというギラン・バレー症候群。発症後、約4割の人が、職業の変更を迫られているというデータも。『ABEMA Prime』では、小堀さんと専門医を招き、症状や原因、治療法を聞いた。
■「入院を決断しなかったら家で呼吸が止まっていた」
小堀さんは救急搬送されたが、ギラン・バレー症候群だとはすぐにわからなかった。入院翌日、呼吸ができなくなり、ICU(集中治療室)へ移ったが、「医師から入院するかどうかを聞かれ、『念のためにしたい』と。入院を決断しなかったら、家で呼吸が止まっていたかもしれない」。その後、人工呼吸器を装着し、4カ月半もの入院生活を送ることになる。「ICUに入ってからは、足を5センチ持ち上げられるだけで激痛だった」。
ギラン・バレー症候群の治療や新薬の開発に従事する千葉大学病院脳神経内科の三澤園子准教授は、「小堀さんの場合は進行が早い“劇症型”で、スムーズに人工呼吸器が付けられたのは非常に良かった」とコメント。劇症型は「すごく稀ということではない。呼吸ができなくなる場合もあれば、自律神経障害から、不整脈などで亡くなる患者もいる」という。
原因として、通常は風邪や下痢、細菌の感染症(カンピロバクター食中毒など)、新型コロナ感染、予防接種といった「先行感染」から始まる。先行感染に対し、体内では細菌やウイルスを攻撃する抗体ができるが、一部の抗体が誤って自身の末梢神経への攻撃を始めてしまう。その結果、筋力低下や手足のしびれにつながるという。これに三澤氏は、「カンピロバクター食中毒が1000人起きても、ギラン・バレーを発症するのは1人とされる。遺伝的な背景もあるのではと言われている」と補足した。
通常であれば「4週間ほどの間にピークを迎えて、良くなってくる」というが、小堀さんに先行感染はあったのか。「風邪かはわからないが、だるさや目ヤニが出る感覚があった。ただ、仕事に支障が出るほどではなかった」と、気にかけなかった。
発症する可能性は「0歳から100歳まで全年齢層にある」と三澤氏。「0歳の赤ちゃんが『バタバタしない』と母親が小児科に連れてきたケースもある」。また、「コロナ禍ではマスクをしている人が多く、ギラン・バレー症候群も減った」ということだ。
■「治療できる病気」 一方で症状に個人差「重症だと回復しにくくなる」
初期段階では、まず神経の通りを電気で調べる「神経伝導検査」を行うという。三澤氏は、「抗体検査は結果が出るのに時間がかかる。急性期は抗体の結果を見ずに、免疫グロブリン療法や、透析のような血漿浄化療法などの治療に入る」と説明。
小堀さんは免疫グロブリン療法を2度受けたという。「2週間経って指が動き出してから、少しずつ体が動くようになった。ICUでは幻覚や幻聴もあったが、意識がはっきりすると、『治るのか』と不安で寝られなかった」。
細菌・ウイルス感染自体は防ぐことが困難なため、ギラン・バレーの発症リスクを減らすことはできるものの、具体的な予防方法はない。その上で、三澤氏は重症化を防ぐ必要性を語る。「重症になると、神経に傷が残り回復しにくくなるので、ピーク時に重症化させないよう治療を行う。ただ後遺症が残る人もいるため、新たな治療の開発が求められている。神経をいかに傷つけないかが重要だ」。
回復の過程について、小堀さんは「体の中心近くから、少しずつ動くようになった」と説明する。「1カ月ほどでボールを投げられるようになり、2カ月でようやく歩行器を使って数メートル歩けた。今でも走ったりジャンプしたりできず、正座もしにくい」。
これに三澤氏は「回復は期待できる」と応じる。「運動神経の再生が不十分で、足先など筋力が出ない部分がある。リハビリで神経再生は促進できず、使い方を学ぶ必要がある」。一方で、「再発率は5〜10%と言われる。再発と重症度が相関するかはわかっていない。症例数が少ないことが、薬の開発に時間のかかる一因となっている」とも述べた。
■小堀さん「今は走りたい」「ちょっとでもおかしいと思ったら病院へ」
小堀さんは「できる範囲内の仕事しかできない」のが現状だ。「当たり前の日常が幸せだと感じられるようになった。医師や看護師、リハビリ職員の方がいたからここまで回復できたので感謝の気持ちでいっぱい」。目標については、「今は走りたい。野球もしたい」と意気込む。
また、自らの経験を踏まえて、「ちょっとでもおかしいと思ったら、すぐ病院へ行って欲しい」と促す。三澤氏もまた、「治療に使う免疫グロブリンは献血から作っているが、献血者が減ってしまい、治療ができない病院が出てきている。ぜひ献血に行って欲しい」と呼びかけた。(『ABEMA Prime』より)