菅野莉央演じる左衛門の内侍
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 2歳のころから子役として活躍し、今年31歳を迎える俳優の菅野莉央。現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時〜ほか)では、中宮・彰子(見上愛)に仕える女房の一人で、主人公まひろ(紫式部/吉高由里子)に敵意をあらわにする左衛門の内侍(さえもんのないし)役で注目を浴びている。同役を演じるにあたり、菅野は「大勢でいる場、特に彰子様の前では、まひろの動向を常に目で追うよう意識しています」と話す。

 ホラー映画『仄暗い水の底から』(2002)などで天才子役として注目を浴びていた菅野にとって、大河ドラマへの出演は「風林火山」(2007)、「青天を衝け」(2021)に続いて3作目。大河ドラマは「関わっている方やセットの規模感も大きく、他の現場とはまたちょっと違う独特の緊張感があり、特別な現場」だと言い、初出演となった「風林火山」の記憶も鮮明に残っているという。

 「当時、13歳で中学1年生だったんですけど、山本勘助(武田信玄の軍師)役を務められた主演の内野聖陽さんが気さくに話してくださって“女優さんっていうのは賢くないとダメなんだよ”とアドバイスをくださって。当時はまだ幼かったのでピンと来ていなくて“そういうものなのか”みたいな感じだったんですけど、今思えばすごく大事なことを教えてくださっていたんだなと。あと、その時の演出を務められた監督さんが、『光る君へ』の撮影をしているときにたまたまスタジオにいらっしゃっていて、ご挨拶できたんです。“今度はちょっとイヤな人の役なんです”とお話をしたら“えー、いいじゃん! 楽しみにしてるよ”と喜んでくださって、不思議なご縁を感じました」

 第33回でまひろが藤壺にあがり「藤式部」の名で中宮・彰子の女房として働くようになってからというもの、左衛門の内侍は常にまひろに冷たいまなざしを向けており、SNSではその一挙手一投足が注目を浴びているが、菅野にはどのように映っているのだろうか。

 「左衛門は、思ったことをそのまま言ってしまうんだなと感じるシーンが多々あって、きっと素直な人なんだろうなと。他の女房たちと一緒に楽しくしているシーンもあるので、ずっとピリついているというよりは、その場その場で反応しているだけなんだろうとも思います。ただ大勢でいる場、特に彰子様の前ではまひろの動向を常に目線で追っているようにしていて。彼女がどう出るのか、どんなことを言うのかと」

 実は「まひろの動向を常に目で追っている」という芝居は演出から指示されたものではなく、菅野自ら判断したこと。菅野はその意図を「まひろが何を言うかは気になるだろうなと思ったので、なんとなく意識や目線がまひろに向くようになりました。難しいんですけど、自分より位が上の方が他にいらっしゃったりすると、そちらにも神経を使わなければいけないので、あまりまひろへの敵意みたいなものに集中しすぎないように。仕事はきっちりこなしつつ、目の端でまひろのこともチェックしているぐらいの塩梅を心掛けています」と説明する。

 なお、第33回ではリーダー格の宮の宣旨(小林きな子)がまひろに女房の日課を説明した際、まひろが「わたしもお手伝いしとう存じます」と口にし、それに対して左衛門の内侍が「お手伝い……」と絶句する描写があった。もともとまひろの藤壺での仕事は、帝(一条天皇/塩野瑛久)に献上する物語を執筆することがメインであり、それに加えて皆と同じ職務にも励むと言ったつもりだったが、真意が伝わらなかったようで、まひろが完全に浮いた存在になった。

 「実は、リハーサルの時には結構言葉をつぶだててイラっとした感じが伝わるようにセリフを言っていたんですけれども、監督から“お手伝いっていう言葉を初めて聞いたような感じで”“ピンと来てないぐらいのトーンで”と指示があったので、そういう軽いニュアンスで言ったつもりなんですけど、実際に映像を観てみたら意外に怖くて(笑)。軽く言ったことでよけいに怖く見えた気がして、自分で見ていても面白かったですね(笑)」

 左衛門の内侍のまひろへの敵意は回を追うごとにエスカレートし、まひろが彰子の背中を押したことで帝との距離が縮まり、悲願の懐妊がかなってからは、もはや彰子にはまひろしか目に入らない様子。まひろに座を奪われる格好となった左衛門の内侍は、第35回でまひろと左大臣・道長(柄本佑)が月を眺めながら親密そうにしているのを覗き見し、第36回では彰子とその母・倫子(黒木華)の女房である赤染衛門(凰稀かなめ)に二人がただならぬ関係にあることを密告。「悔しくはございませんの? あなた様は指南役の座を奪われ、私は中宮様のお傍に仕える務めを奪われたのでございますよ」と不満を漏らした。菅野は、本シーンを以下のように振り返る。

 「まひろは身分が高い家の出身でもないにもかかわらずお部屋も大きいし、なんでこんなに特別待遇なのかって、ずっと疑問に思っていたところではあったと思うので、道長様と2人でいるのを見た時に“掴んでやったぞ”と(笑)。それみたことかっていう気持ちが湧いたんですけど、左衛門の賢いところは他の女房には言わずに、衛門様にだけ“左大臣様と藤式部はどういう間柄なんでございましょう?”と個人的に聞くところ。策士というか、もしかしたら衛門様も味方についてくれるかも、気づいてくれるかもしれないという思惑はあったんじゃないかと思います。結局、衛門様にはあしらわれてしまうんですけど、多分、宮中で“あの2人って……”と口にしたのは左衛門が最初で。それで衛門様もまひろに尋ねるような流れになっていって、まひろ自身が周りからそういう風に見られていることを意識するきっかけになると思うので、そういった意味でまひろに影響を与えた人物でもあるのかなと思っています」

 なお、主演の吉高との共演はこれが初。劇中の緊迫した関係とは一転して撮影の合間には、吉高の質問攻めにあって和んだという。

 「セットの中で待ち時間をご一緒することがあったのですが、吉高さんお忙しいのに、私のことをリサーチされたらしくて。“恥ずかしいからやめてください”って言ったんですけど、わたしの学生時代のことをインタビューされて、びっくりしました(笑)。“ありがたいですけど、そんなことしないで寝てください”って思いました(笑)」

 また、まひろの弟・藤原惟規を演じる高杉真宙とは、月9ドラマ「PICU 小児集中治療室」で共に医師役としてメインキャストを務めた間柄で、スタジオで会うなり月9のルックとのギャップに「“うわぁ”って言われました。3度見ぐらいされました(笑)」と楽しそうに再会を振り返っていた。(編集部・石井百合子)