鬱の影響で動くことが億劫になり、部屋は物で溢れ返る

写真拡大

自宅で一人亡くなり、誰にも気づかれずに数日たってから発見される「孤独死」。これまで高齢者の問題とされてきたが、20・30代の「まだこれから」の世代も孤独に命を絶っている。若者たちは何に絶望し、この世を去ってしまうのか。セルフネグレクトに陥り、死と直面している人々に話を聞いてみた。
◆異常な家族が諸悪の根源「人生を好転させる術がない」
寺園翔太さん(仮名)28歳・データ入力

埼玉県某所。ワンルームで一人暮らしをする寺園翔太さん(仮名・28歳)のもとには、毎日決まった時間にLINEが届く。その内容は短く、「お元気ですか?」。そして、「OK」とタップする。それは、“もしも”に備えて探した見守りサービスの「生きていますか」「生きています」という生存確認だ。

「『20代のくせに、何が孤独死だ』と思う人も多いですよね。でも、そう思えるのは、その人が普通の家庭で育って、普通の幸せを享受できたから。僕だって、この年から孤独死に怯えたくありませんでした」

生存を伝えたスマートフォンの画面から光が消える。寺園さんは言葉を続けた。

「7歳離れた兄と、実の母から毎日虐待を受けていました。兄は統合失調症で、僕と弟がまだ小さいときから包丁を持って暴れたり、殴ってくる。母も助けてくれるどころか、日々のストレスのはけ口を僕と弟に向けてきたんです。首を摑まれて浴槽に沈められたことも何度もありました。そして父は我関せずで、ほとんど家に帰ってこない。家に殺人鬼がいて、常に壮絶な緊張感にさらされていたんです」

◆精神疾患のせいで仕事も続かず…20社以上を転々

親戚らには絶縁され、頼れる大人は皆無だったという。

「僕自身も、鬱病や発達障害強迫性障害を抱えていたから、高校を卒業しても仕事が続かない。20社以上転々としました。なんとか3年前に家を出られましたが、仕事は完全在宅ワークの事務です」

寺園さんは「狂った人生は、簡単には変わらない」と悄然。

「精神的疾患だって、あんな家に生まれなければここまでひどくならなかったはず。職を転々とするから出世もできないし、生活に余裕がないから結婚もできない。人生を好転させる術がわからないんです。今は、『死にたい』と思う気持ちを必死にごまかすことしかできない。そして、“もしも”のときは早く見つけてもらって、弟にだけは迷惑がかからないようにしたいです」

そして、彼は今日も淡々と“生存ボタン”を押し続ける。

◆若者は“孤立していないからこそ孤独”になる

内閣府の孤独・孤立対策推進室が発表した令和5年度の『人々のつながりに関する調査』によると、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は、20代から高まる傾向にあった。若者はどのような孤独感を覚えているのか。24時間365日チャット相談窓口を運営するNPO法人あなたのいばしょ理事長・大空幸星氏に聞いた。

「匿名チャットに寄せられる声を聞くかぎり、完全に孤立している若者は少ない。家族や友達といったコミュニティはあるけれど、『心配をかけちゃいけない』という思いが先行し、一人で思い詰めて孤独を感じてしまうんです。孤立していないからこそ、気を使って孤独になるというのは目立った傾向です」

そもそも孤独と孤立はどう異なるのか。

「孤独は主観的なもので、極論を言えば、家族や友人に看取られたとしても、当人が内心で孤独を感じていれば孤独死となる。一方で、家族や地域とのコミュニケーションがない状態で物理的に一人で亡くなった場合は孤立死と言うべきでしょう。ただ故人が孤独だったかどうかは見えにくいですし、なかには望んで一人で亡くなった方もいるはずで、すべてを“孤独死”でくくるのはよくない。問題は、望んでないのに孤独に陥っている人たちにどう社会的繋がりを担保していくかだと思います」