郄木三四郎インタビュー 中編

(前編:「無期限休養ロード」を終えて語る 上野勇希や青木真也、「DDTを作っていく」レスラーたちへの期待>>)

 DDTの現役レスラーとして活躍しながら、株式会社CyberFight(サイバーファイト)代表取締役社長を務めてきた郄木三四郎。「大社長」の愛称で親しまれてきたが、今年6月1日より副社長となり、7月21日、DDT両国国技館大会を最後に無期限休養に入った。

 引退ロードならぬ「無期限休養ロード」について聞くインタビューの中編では、スーパー・ササダンゴ・マシンとの世紀のワンマッチ興行、そして「都電プロレス」炎上の真相に迫った。


「都電プロレス」で鈴木みのる(左)にチョップを見舞った小池百合子東京都知事(写真提供/DDTプロレスリング)

■スーパー・ササダンゴ・マシンとのカオスな「ワンマッチ興行」

――6月26日、新宿FACEでスーパー・ササダンゴ・マシン選手とのワンマッチ興行を開催されました。チケットの席種が51種類あり、前説体験シート、笑ってはいけないシート、マッチングシート、お誕生日お祝いシートなど「お客さん参加型」の興行でした。目隠し乳隠しシートを買った人は、まさかの試合が観られないという......。

郄木:あの席を買った人たち、愛すべきバカでしたね(笑)。プロレスって本来は観客参加型で、お客さんは"共犯者"だと僕は思っているんですよ。お客さんがリング上の空気を作ることもあるし、ヤジとかもそう。僕もおとなしい会場だと、まず「お客さんを動かそう」と思うんです。わざとお客さんのところに選手を放り投げたりね。

 だからスーパー・ササダンゴ・マシンとの興行では、「プロレスは観客参加型であり、観客は共犯者である」というイメージを、チケットの席種という形で具現化しました。あれ、買いたくなりますよね。記者のふりシートもあったから、買えばよかったじゃないですか(笑)。

――その席の方たちは記者席にパソコンを持ち込んで、記者のふりをしていましたね(笑)。試合後はバックステージコメントも取ったとのことですが?

郄木:取ってましたよ。あの席を買った人たちは、もともとプロレスマスコミの仕事をしたかったんだそうです。今は別の仕事している人たちが、ちょっと高いお金を払って記者のふりをする。もう、「おっかしいな」って。

――夢がありますね!

郄木:あと、引退セレモニーシートがよかったですね。何十年も会社に勤務されていた男性が、第二の人生を考えて"引退"するためにリング上で10カウントゴングを聞く。ほかのお客さんにとっては"知らない人"の引退なんですけど、「あれが一番感動した」という人が多いんですよ。

――そんなアイディアが出てくるマッスル坂井さん(スーパー・ササダンゴ・マシン)は、あらためて天才だと思いました。

郄木:天才ですね。後楽園ホールでもできるなと思いましたもん。「今度は"煩悩の数"の108種類の席を作ろう」って言ったんですけど、それくらいできますよ。この日は実質3試合しかしてないけど盛り上がったし、カオスだったし「なんだったんだろう」と(笑)。

 それで「マッスル! マッスル!」で締めてて、最後の最後で「これ、マッスルだったんだ!(マッスル坂井が手がけるプロレス興行「マッスル」)」と思って。あれは真似する団体が出てくるんじゃないかな、というくらい斬新でした。間違いなくスーパー・ササダンゴ・マシンの"専売特許"みたいな大会ですけどね。

――最後、スーパー・ササダンゴ・マシン選手が「この景色を郄木さんに見せたかった」とおっしゃっていたのが感動的でした。

郄木:僕は、なんで見せられてるのかよくわからなかったですけどね(笑)。でも、新しい興行がひとつ生まれたという点では斬新だったし、本当に天才としか言いようがないです。

■「都電プロレス」炎上の真相

――6月29日、東京さくらトラム(都電荒川線)で鈴木みのる選手と「都電プロレス」を行ないました。かなり話題になったというか、炎上したというか......。都知事選の選挙期間中だった小池百合子都知事が参加したことに多くの批判が集まりました。

郄木:東京都交通局さんがプロレスにすごく理解があって、今年3月くらいには車両使用のOKが出ていたんです。東京都議会議員の川松(真一朗)先生のお力が大きかったんですけど、知事も公務として見に来ていただけることになりました。それが、あとから都知事選と被ってしまっただけの話なんです。断るのも申し訳ないじゃないですか。

――インターネットではいろいろな意見がありましたね。

郄木:「プロレスが政治にへりくだった」と言ってる人もいましたけど、「ちょっと次元が低いな」と思いました。場所はどうであれ、プロレスがこうやって世間に取り上げられるのはなかなかないことだし、エンターテイメントとして、あの場所にいた16人のお客さん、都知事、SPの人たちを楽しませなくちゃいけない。それが大前提なんですよ。そもそも、観ていない人たちのためにやっているわけじゃない。観ている人たちのためにやった結果があれだったわけです。

――都知事が鈴木みのる選手にチョップをする場面もありました。

郄木:僕が鈴木みのるさんを羽交い締めにして、知事に「お願いします!」と言ったら「なにをやればいいんですか?」と聞かれたので、「チョップでお願いします」と。それで空手チョップをやっていただけたんです。知事は最初の3駅くらいしかいなかったんですけど、とても楽しんでくださって、「本当にプロレスって面白いですね」と言ってくださいました。

 新幹線プロレスの時もそうでしたけど、「なんでこんなところでやるのか?」と疑問に思う人もいるでしょう。でも、「普通にリングでやるだけじゃ話題になんないじゃん」って。それくらい今はエンタメのジャンルが増えていて、話題を作ることが難しい時代になってきている。プロレスは昔みたいに、地上波のゴールデンタイムで放映しているわけでもないし、趣向を凝らさなければいけない。それで、「観ていただければわかる」という感じですね。

――SNSで批判していた人は、断片的な情報だけを見ていたのかもしれませんね。

郄木:しかも一部の関係者がぶつくさ言っていて、「本当に"村社会"だな」と思いました。僕は閉鎖的な"プロレス村"が大嫌い。村も変わらなくちゃいけないし、変えたいと思っています。逆に、そういう村社会の人たちの政治信条に利用された感があって嫌な気持ちでしたし、すごく腹立たしかった。

 プロレスは大衆娯楽です。アメリカではエンターテイメント。それが、ちょっと政治が絡んだだけで「政治にへりくだってる」とか言うのはおかしいですよ。もっと堂々としていればいいし、少なくとも都電で試合を観ていた人たち、配信を観ていた人たちは楽しんでいたわけです。「観ていない人たちがそういうこと言うな」というのは、声を大にして言いたいですね。

――もし選挙期間中にわざと被せてきたんだったら、批判されても仕方ないとは思うのですが......。

郄木:そう、それだったら言われても仕方ないと思うけど、そうじゃない。しかも現職の都知事が、東京都の事業である都電荒川線の車両レンタル事業を公務で視察に来たって、何らおかしいことじゃない。そのなかで、プロレスラーに絡まれて空手チョップをしたって、そんなにおかしくはないでしょ。プロレスの世界では、場外乱闘でお客さんに「チョップしろ!」というやりとりもよくありますし。

――配信を観て、すごく都電に乗りたくなりました。

郄木:新幹線プロレスも同じです。東海道新幹線が貸切車両パッケージを始めた理由は、コロナ禍で乗車率が減ったかららしいんですよ。普通の電車も同じような状況のなかで、少しでもアピールしていかないといけない。僕らは、あり得ない場所でプロレスをやるのが目的でもあるんですけど、同時にそこを盛り上げたいんです。よく地域貢献とか、地方活性化のためにプロレスを展開することがあるじゃないですか。それと同じ。僕らはいつもどおりのことをやっただけなんです。

――次は飛行機か、無人島か、ロケットでプロレスをやりたいという話もあるそうですね。

郄木:そのなかでは、飛行機かなぁ......。怖いんですけどね。高度1万m、空を飛ぶ飛行機のなかで100kgくらいの人間を投げるわけですから。新幹線プロレス、都電プロレスでも「車両を止めないでください」と言われていましたが、緊急事態があったら停止することはできる。でも、飛行機はわからない。かなり怖いけど、それでもやってみたいです。

――普通に飛行機に乗るだけでも、ちょっと怖いですよね。

郄木:ですよね。しかもジャンボジェット機とかって、興行をするために貸したりしなそうじゃないですか。プロペラ機とかのほうが実施するハードルは低そうだけど、機体が小さい分もっと怖い。でも、このインタビューを見た航空関係者の方のなかから、名乗り出ていただける方が出てきてくれることを期待したいですね。

(後編:棚橋弘至との共闘、男色ディーノとの最後の試合 今後のDDTでの展望も明かした>>)

【プロフィール】
■郄木三四郎(たかぎ・さんしろう)

1970年1月13日、大阪府豊中市生まれ。1997年にDDTプロレスリングの旗揚げに参加。2006年1月、DDTの社長に就任。2017年にサイバーエージェントグループに参画。2020年9月、サイバーファイトの代表取締役社長に就任。2024年6月1日、同社副社長に就任。「大社長」の愛称で現役レスラーとしても活躍してきたが、2024年7月21日の両国国技館大会を最後に無期限休養に入った。175cm、105kg。X(旧Twitter)@t346fire