東海地方で愛される「スガキヤ」(本社:愛知県名古屋市)は、ラーメンチェーンにもかかわらず甘味メニューが充実している。その理由を、『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を書いた高井尚之さんが解説する――。

■東海出身なら知らない人はいない「スガキヤ

東海三県を中心に展開するラーメンチェーン「スガキヤ」(運営会社:スガキコシステムズ、本社:愛知県名古屋市)が最近元気だ。取り組みがニュースになる例も増えた。

たとえば今年6月27日は「スガキヤ 大須店(名古屋市中区)がレトロ店舗に変わった」ことも話題を呼んだ。1970年代から80年代頃のスガキヤをイメージしたという。

画像提供=スガキコシステムズ
レトロ店舗に生まれ変わった大須店 - 画像提供=スガキコシステムズ

9月12日には「スガキヤ ラーメンの麺とスープを約14年ぶりにリニューアル」が日経新聞などのメディアで報じられた。同月19日から全店で変更後の味を提供している。

一時は約50店あった首都圏から撤退したのが2006年。再出店を待望する声も聞くが、いまだに果たしていない。ただし同社は「首都圏再進出の可能性はある」と話す。

固定ファンも多い、ちょっとユニークな「スガキヤ」というブランド。同社を題材にした新刊発売を機に、その横顔に焦点を当てながら考察したい。

■攻めの姿勢に転じた背景

スガキヤは2019年に店舗リストラ(再構築)を行い、翌年までに北陸地方から撤退。それまで300店規模だった店舗数が現在は258店となっている。だが今にして思うと、傷口が広がるのを早めに抑えたといえよう。

2020年から始まったコロナ禍では外食業界も大きな影響を受けた。商業施設が営業自粛(休館)や営業時間短縮を行い、施設内の飲食店は売り上げが見込めない時期が続いた。

2019年度に年間売上高108億円の黒字経営だったスガキコシステムズも売り上げを大きく落とした。現在はどんな状況なのか。

「2020年度は約76億円に落ち込んだ年間売上高も、その後は急回復しています。2023年度は約114億円とコロナ前2019年比で約106%、同年度の既存店売上高は2019年比で約103%となりました」(スガキコシステムズ広報、以下同)

業績が戻ったからこそ、最近は攻めの姿勢に転じてさまざまな取り組みを繰り出せるのだろう。東海三県中心でありながら、今でも有力チェーンの一角を占めている。

■なぜラーメン屋なのに甘味メニューがあるのか

実は、ラーメンチェーンは群雄割拠の業界で、カフェチェーンの「スターバックス コーヒー」や「ドトールコーヒーショップ」のように1000店を超えて全国展開するブランドはない。

売上高でラーメンチェーン最大手の「日高屋」(主力ブランドは「熱烈中華食堂日高屋」)も国内店舗数は440店を超すも首都圏中心。350店超の「幸楽苑」は、以前は西日本にも展開していたが、現在は東日本中心だ。

「丸源ラーメン」は全国展開するブランドだが店舗数は216店、関西中心「天下一品」も200店規模だ。カフェチェーンに比べて店舗数が多くないのは、地域によって味の好みが異なる、原材料を配送する物流効率性を重視する――といわれる。

競合チェーンの多くはラーメン専門店や中華料理店らしい品揃えだが、スガキヤは少し違った横顔を持つ。

今年の夏は酷暑が続き、8月の平均気温は歴代2位の高温だった。9月も暑さが厳しかったので、アイスクリームやかき氷も売れただろう。

スガキヤはラーメン店には珍しく甘味メニューが豊富にある。

■ラーメン+ミニソフトは560円

麺類の人気1位は「ラーメン」(税込み430円、価格は2024年9月現在。以下同)だが、甘味では「ソフトクリームミニ」(130円)が首位、2位が「ソフトクリーム」(190円)だ。

ラーメン+ミニソフトを注文するお客さんも多く、2品を頼んでも560円。手頃な価格も支持されるのだろう。

撮影=上野英和
スガキヤでは定番の「ラーメンにソフトクリーム」。 - 撮影=上野英和

「盛夏にはかき氷(春夏限定や夏限定品)も売れ筋です。甘味メニューは、スガキヤの全売り上げの約1割、夏季は約2割を占めています」(同)

かき氷の上にはソフトクリームがのっており、いちご氷(260円)やラムネ氷(260円)が売れ筋上位だと聞く。ソフトクリームは1年中注文でき、濃厚ではなくさっぱり系の味だ。

筆者はアイスクリーム業界も取材するが、「最高気温が30℃を超えると氷菓系の伸長が加速する」(大手メーカー)という。35℃を超える猛暑日でも傾向は変わらない。

昔から名古屋は暑さが厳しく、「新幹線で名古屋駅に降り立つと東京駅よりも蒸し暑い」と話す社会人は多い。そんな気候も、スガキヤのかき氷の売れ行きを後押しするのか。

■創業当時は「甘党の店」だった

ところで、なぜラーメン店なのに「甘味」が売れるのか? その答えは、店の成り立ちに由来する。

あまり知られていないが、スガキヤはまもなく創業80年になる老舗だ。

戦後すぐの1946年、名古屋の中心地・栄(名古屋市中区)に開業した店は、ぜんざい、パン、焼き芋など甘いものを提供していた。当初は屋号がなく、お客さんから“甘党の店”と呼ばれた。2年後の1948年にラーメンが加わり、屋号を「寿がきや」とした。

つまり甘党の店→ラーメン店に進化したから、今でも甘味メニューが充実しているのだ。店の横顔は「甘味食堂」といえる。

その伝統を受け継ぐのが、「クリームぜんざい」(280円)だ。かき氷以外の多くの甘味は通年販売で、同商品は売れ行き上位だという。手頃な価格だが素材にもこだわっている。

撮影=上野英和
「クリームぜんざい」(税込み280円)はいつの時代も人気 - 撮影=上野英和

「クリームぜんざいの小豆(あずき)は、北海道産大納言の希少品種を使っています。上にのるソフトクリームがさっぱり系なので、甘みのきいた小豆とのバランスで人気の品です」(同)

スガキヤ経験者にはおなじみだが、ラーメン+甘味を一緒に注文するお客さんが多い。一般的なラーメンチェーンに比べると「おやつ感覚やスナック(snack:軽食)感覚で使われる店です」と同社は話す。

こうしたライト感覚で店が使われるのも競合店にない特徴だ。スガキヤの店舗は、かつてはユニー系の大型商業施設が多く、近年はイオン系施設が増えた。

撮影=上野英和
2021年にオープンした「スガキヤ則武新町店」(イオンモールNagoya Noritake Garden内)、メニュー価格は2023年の取材当時 - 撮影=上野英和

スガキヤで最も売れる店は愛知県ではない

現在、スガキヤで最も東にある店舗は、「MEGAドン・キホーテUNY富士吉原店」(静岡県富士市)で、スガキヤ全店で2023年度売り上げNo.1は「スガキヤ各務原(かかみがはら)イオンモール店」(岐阜県各務原市)だ。

営業時間は店によって異なるが、朝10時〜夜20時台が一般的。売り上げはいつの時間帯が多いのか。

「ランチ需要が中心です。先ほどお話ししたように、スガキヤをスナック感覚でご利用される方が多いからです。また、大型商業施設のフードコート内にある店は、施設もフードコート自体も夜はあまり強くない特性があります」(同)

高井尚之『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)

スガキヤの売上比率は「昼(10時〜15時)の売り上げが全体の6割強」だという。この傾向は、カフェや喫茶店に似ており、多くのカフェは夜の時間帯が強くない。

来店客の中には麺類ではなく甘味を食べに来る人もいる。かき氷のシーズンが終わると、前述したソフトやクリームぜんざいのほか、「チョコクリーム」や「ベリークリーム」(チョコソースやベリーソースがかかったソフトクリーム、いずれも280円)を頼む人が増える。昔ながらの「あんみつ」(350円)はシニア層の支持が高い。

甘味メニューは100円台〜300円台で注文できる。諸物価高騰のご時世でも、財布にやさしい価格帯を貫く。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)、2024年9月26日に最新刊『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を発売。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)