大谷翔平の54号球をキャッチしたジョン・ステギーさん【写真:浜田洋平】

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大谷54号を捕った41歳父親の葛藤、戻ってきた息子は仰天「ウソ!? パパ、捕ったの!?」

 米大リーグ・ドジャースの大谷翔平投手は27日(日本時間28日)、敵地ロッキーズ戦に「1番・DH」で出場し、右越え54号3ランを含む5打数4安打4打点、1盗塁で11-4の大勝に貢献した。史上最多記録を「54本塁打&57盗塁」に伸ばし、三冠王も視界に入る位置に。右翼3階席で貴重な54号ボールを捕った敵地ファンは“お宝”の扱いに葛藤していた。現地で取材するTHE ANSWERの記者が、本塁打前から盛り上がっていた客席の状況を届ける。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 ネタを探し、客席通路を歩いている時だった。「日本から来たの?」。酔っ払いのカップル。頬を赤らめた女性は冗舌だった。場所は左翼ポール後方。「どこに住んでるの?」。グラウンドに背を向けた状態。野球はよく知らず、オーナーの知人から年間シートをもらったため、何度も足を運んでいるそうだ。

「1月に東京に行ったんだよ。良いところだった」。パートナーの男性にヒマワリの種を差し出された。初めて口にする米国定番のおつまみ。食べ方を教わったが、下手くそな記者を見た2人は笑っていた。大谷の取材で来ていることを伝えると、「ショウヘイはほんとスペシャルね! 野球を知らない私でもわかるわ!」と意気投合。油を売っている場合ではないのだが……。

 そんな6回無死一、二塁。突如、甲高い打球音が聞こえてきた。

 大歓声に乗り、コロラドの夜空に描かれる特大アーチ。左翼席から口を広げて眺めてしまった。「さあ、あなたの仕事よ! いってらっしゃーい!」。手を振る女性に送り出され、キャッチしたファンのもとへ。人の群れの合間を縫い、外野席裏の通路を急いだ。

 着弾付近の右翼3階席。「お前、日本のメディアだろ? ここじゃない! あっちだ!」「青いグラブの人だよ!」。5、6人が一斉に指を差す。迂回してたどり着いた先にいたのは、地元で少年野球のコーチを務める男性だった。捕った瞬間は両腕で渾身のガッツポーズ。教え子たちに自慢できるスーパーキャッチを振り返ってくれた。

売るのか、保管か「う〜ん、人生を変えるお金になるかも…」

「ダイレクトで捕ったんだぜ! 準備していて、近くに飛んでくることを願っていた。打球を見たら自分の方に飛んでくると思ったよ! レーザービームが来たからグラブを伸ばしたんだ!」

 41歳のジョン・ステギーさん。ロッキーズのTシャツに袖を通し、額は汗だくだった。「衝撃だよ! みんながショウヘイのボールをキャッチしたいと願っている。ファウルボールでもね。今季のホームランボールは伝説的だからな」。隣りの妻は取材の様子をスマホ撮影。周囲のファンも祝福ムードに沸いた。

 歴史的なシーズンを送り、数千万円にもなる可能性がある大谷のボール。売るのか、保管か。「う〜ん……難しい質問だね。人生を変えるようなお金になるかもしれないけど、自分には野球狂の子どもが2人いるんだ」。家族4人で観戦。そんな話をしていると、席を外してしまっていた小学生の息子2人が戻ってきた。

「ウソでしょ!? パパ、捕ったの!?」

 あんぐりと開いた口。グラブをパシッと叩き、パパに向ける眼差しは輝いている。ステギーさんは、ばつが悪そうに続けた。「売ることはいいアイデアだとみんな思うんじゃないかな。でも、、ううぅ……まあね」。選択は人それぞれ。敵地なら投げ返していたっておかしくない。

 酒飲みも、家族連れも楽しめるMLBのボールパーク。大谷をはじめ、メジャーリーガーのプレーが人の心を掴んでいた。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)