柴崎コウが大河ドラマ「おんな城主 直虎」以来、2年ぶりに連続ドラマで主演を務めたのが2019年の「連続ドラマW 坂の途中の家」だ。原作は「紙の月」や「八日目の蝉」、「愛がなんだ」など数々の作品が映画化され、現在も現代語訳「源氏物語」がベストセラーとなっている直木賞作家・角田光代。

「連続ドラマW 坂の途中の家」で主演を務めた柴咲コウ

(C) 2019 WOWOW / TELEPACK

主人公が心理的に追い詰められていく様子をさまざまな角度から丁寧に描いた全6話のヒューマン・サスペンスに仕上がっている本作で柴崎が演じているのは、夫・陽一郎(田辺誠一)と3歳の娘・文香と暮らす専業主婦の里沙子。ある日、乳児虐待死事件の補充裁判員に選ばれたことから、平穏な日常を送っていた里沙子の日々が音をたてるように少しずつ崩れていく...。

(C) 2019 WOWOW / TELEPACK

そして、子供を死なせてしまった被告人・安藤水穂を演じているのは水野美紀。孤独の中、SOSを出せなかったり、夫が協力してくれなかったりと子育てに悩む女性の姿が描かれる物語であると同時に、「裁判員制度」についても考えさせられる作品だ。

(C) 2019 WOWOW / TELEPACK

自身とは異なる環境に生き、性格も違う里沙子を演じるにあたって、柴崎は周囲の子供を持つ母親に話を聞いて参考にしたという。物語が進み、公判も進むにつれて里沙子が表情を失い、不安定になっていく様子を表現したリアリティのある演技に、観る側も深く考えさせられずにいられない。

■いつしか被告人と自分自身を重ねるようになる主人公

(C) 2019 WOWOW / TELEPACK

被告人の水穂は義母(倍賞美津子)から子供を作るようにプレッシャーをかけられていた。夫(眞島秀和)は仕事で帰宅時間が遅く、その上、妻の様子がおかしいことを大学時代の元恋人に相談していたなど、被告人のバックグラウンドが徐々に明らかになっていく。

(C) 2019 WOWOW / TELEPACK

一方、裁判中に娘の文香を義母(風吹ジュン)に預かってもらっていた里沙子は、「家に帰りたくない」とぐずる文香に苛立ちを募らせ、陽一郎から「虐待しているのではないか」と疑惑を持たれてしまう。心配から補充裁判員を止めるように里沙子に助言し、無意識の内に里沙子を傷つけることを言ってしまう陽一郎と、良かれと思って息子が好きなレシピを渡す義母。余裕をなくした心に周囲のさまざまな言葉が棘のように刺さり、里沙子はいつしか生気をなくした水穂と自分の姿を重ねていく。

そんな里沙子の様子を「真面目そうだから」と心配するのは、同じく裁判員で出版社で編集長を務める芳賀(伊藤歩)と、自身も幼い息子を育てている裁判官の朝子(桜井ユキ)。やがて、いつも自分の気持ちを抑え込んで生きてきた里沙子のバックグラウンドも浮き彫りにされていく...。

■里沙子を中心に乱れていく裁判関係者の人間模様がリアル

法廷に何度も立ち会うことで心を乱されるのは里沙子だけではない。そんなところも本作が"心理サスペンス"と評される所以かもしれない。裁判員の芳賀、裁判官の朝子もそれぞれの家庭に問題を抱え、自身の夫と言い争いに。そして、不安定になり疑心暗鬼になっていく里沙子の家には突然、児童福祉士が訪ねてくる事態に...。
ミステリー色がどんどん強くなっていく展開の中、里沙子の実の母親(高畑淳子)との確執も絡んでいき、昭和の時代とは違う家族のあり方、世代間のギャップ、曖昧な"普通"という物差しが視聴者にも疑問を突きつける。

(C) 2019 WOWOW / TELEPACK

柴崎には颯爽としたイメージがあるが、本作では、闇の中を彷徨い続ける主人公を視線や心もとない歩き方も含めた細部まで行き届く演技でみごとに表現。柴咲の女優魂に触れられる手応えのある作品だ。

文=山本弘子

放送情報【スカパー!】

坂の途中の家
放送日時:2024年10月19日(土)15:00〜
チャンネル:WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

最新の放送情報はスカパー!公式サイトへ