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一家の大黒柱が亡くなった場合、公的な死亡保障となるのが遺族年金。残された遺族の生活を安定させるためにも必須のものですが、ルールは複雑で、知らず知らずに受給要件から外れている場合も。万が一のときに泣きをみないよう、自身が受給要件に当てはまるかどうか、一度、チェックしておくほうが賢明です。

再婚した夫、結婚わずか1年で突然死

生命保険文化センター『生活保障に関する調査2022年度』によると、万が一のことがあった際、「公的な死亡保障では不十分」と回答したのは64.6%。25.9%は「公的な死亡保障で賄える」と回答。公的な死亡保障といえば遺族年金ですが、4人に1人はそれで十分と考えています。

自身も働いていたり、十分な貯金があったりと、余裕の背景は人それぞれ。しかし、「遺族年金で賄える」と思っていたのに、万が一の際に「遺族年金ゼロ」というショッキングな事態に直面するケースもあるので注意が必要です。

山中香織さん(仮名・45歳)。3歳年上の夫とは1年前に結婚。お互いバツイチ同士で、香織さんの連れ子(10歳)と夫婦の3人で暮らしていました。しかし幸せな生活は、山中さんの夫の突然死で幕を下ろします。

公的な死亡保障となる遺族年金は、大きく、国民年金に由来する遺族基礎年金と、厚生年金に由来する遺族厚生年金。

遺族基礎年金には子の要件があり、その受取額は「816,000円+子の加算額」。子の加算額は1〜2人目の子が各23万4,800円、3人目以降が各7万8,300円です。

遺族厚生年金には子の要件はなく、その受取額は亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。当時、山中さんの夫の月収は、大卒・大企業勤務の40代後半サラリーマンの平均値程度の50万円。仮に大学卒業から今まで平均的な給与を手にしてきたと仮定すると、年間71.8万円、月6万円ほど受け取れる計算でした。

【年齢別「大卒・大企業勤務サラリーマン」の平均給与】

20〜24歳:24.8万円/370.3万円

25〜29歳:29.2万円/518.2万円

30〜34歳:35.3万円/626.6万円

35〜39歳:41.5万円/753.5万円

40〜44歳:46.7万円/810.0万円

45〜49歳:50.8万円/882.2万円

50〜54歳:56.9万円/988.9万円

55〜59歳:58.3万円/1009.8万円

60〜64歳:48.8万円/801.2万円

※数値左より月収/年収

なぜわたし「遺族年金」を受け取れないのですか?

新婚1年で起きた、突然の不幸。遺族厚生年金と遺族基礎年金で、年間176万円、月14.7万円ほどの遺族年金が受け取れる計算で、そのほか手当ても含めると通常は月20万円程度の保障があるでしょうか。

それで十分かどうかはそれぞれの判断になりますが、まずは生活を安定させるためにも、きちんと遺族年金の請求を済ませるのが第一。山中さんも葬儀がひととおり終わったあと、まずは年金事務所を訪れたといいます。しかしそこでショッキングなひと言。

――遺族年金は受け取ることができません

原因は、山中さんの10歳になる連れ子と再婚した夫は養子縁組をしていなかったことにありました。

遺族基礎年金は、「子のある配偶者」または「子」が受給対象者になります。ここでいう子は「18歳到達年度の末日までの子(障害等級2級以上なら20歳未満の子)」であり、「被保険者の子」である必要があります。連れ子でも養子縁組していれば「被保険者の子」となりますが、養子縁組していなければ子の要件からは外れます。

また山中さんの亡くなった夫には、前妻との間に子どもがいました。遺族厚生年金の受給対象者には優先順位があり、「子のある配偶者」「子」>「子のない配偶者」となりますが、亡くなった夫と山中さんの連れ子は養子縁組をしていないため、山中さんは子のない配偶者となります。つまり、「前妻との子」>「山中さん」となり、遺族厚生年金も受け取れない、ということになるのです。

まさかの「遺族年金ゼロ」の事態に、「な、何かの間違いですよね!?」と問いかけるのが精いっぱいだったといいます。

遺族に対する公的保障である遺族年金。一緒に生活していれば、当然受け取れるものと考えられるでしょう。しかしルールは複雑で、特に再婚などが絡むと、知らず知らずに受給要件から外れている場合も。注意する必要があります。

[参考資料]

生命保険文化センター『生活保障に関する調査2022年度』

日本年金機構『遺族年金(受給要件・対象者・年金額)』