妊娠36週で中絶したとされる韓国のユーチューバーが捜査対象になっている/CNN

ソウル(CNN)妊娠36週で中絶したと主張した韓国のユーチューバーが殺人容疑で捜査を受けている。この事案は韓国で恐怖を呼び起こし、なぜこの国には中絶法がないのかという差し迫った疑問を生じさせている。

ソウル警察によると、この女性が中絶体験を記録したとされる動画をユーチューブに投稿したことを受け、警察は韓国政府の要請にもとづき7月に捜査を開始した。

24週を超える中絶は、多くの管轄区域で禁止されているか、胎児の致命的な異常や母親の健康が危険にさらされている場合など極めて例外的な場合にのみ認められる。

しかし韓国では、中絶をいつ、どこで、どのように行うことができるかを規定する法律が存在せず、ほぼ4年間にわたりその状態が続いている。

専門家によると、これは政策の空白であり、医療過誤のリスクにつながるだけでなく、安全な中絶へのアクセスを妨げ、女性と医師は法的に不確実な状態に対処せざるを得なくなる。

韓国の11の女性団体とNGOは共同声明で、政府は中絶治療へのアクセスを改善するよりもむしろ妊娠中絶する女性を追及していると非難した。

法的な抜け穴

韓国では60年以上にわたり、中絶処置を行うことはレイプや、母親または胎児の健康に危険がある場合などを除き、最長2年の禁錮刑が科される犯罪だった。

中絶を選択した女性も最長1年の禁錮に処せられる可能性があった。

韓国憲法裁判所は2019年、この禁止を覆し、国会が20年末までに新しい中絶法を制定することとした。裁判所は新たな法律では中絶期間を22週までに制限することを勧告した。

しかし議会がこの期限を守れなかったため、中絶に関する刑事規定は失効し、妊娠の段階を問わず中絶が事実上合法化された。

当時保守派や宗教団体からの厳しい反対に直面していた生殖権擁護者にとって、中絶の非犯罪化は大きな勝利だった。反対派の一部は米国の中絶反対運動とつながりがあった。

性と生殖に関する健康と権利の擁護団体は中絶を処罰の対象ではなく健康の権利として分類し、政策を策定するよう求めてきたが、新しい政策は可決されていない。伝統的なジェンダー規範が重視される同国で議員に強い影響力を持つ宗教団体が、国会での中絶政策に関する議論に再び反対しているのだ。

中絶薬は禁止

明確な規制がないため、女性と中絶処置の提供者は現在、何が許可され、何が他の法律に抵触する可能性があるかについての指針がほとんどないグレーゾーンで活動している。

韓国では中絶処置を受けられる場所に関して信頼できる情報を得るのは難しいうえに、中絶は公的医療制度の対象外だ。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)のスザンヌ・ソンウン・バーグステン氏は、多くの場合、女性は口コミに頼って中絶を行う病院を見つけ、自腹で数百ドルの費用を支払わなければならないと述べた。

中絶手術は現在厳密に言えば合法だが、妊娠初期に中絶するための安全かつ手頃で効果的な方法である中絶薬は合法ではない。これは韓国の女性が生殖権を行使する上で依然として困難に直面していることを浮き彫りにしている。

韓国の裁判所は5月、郵送で中絶薬を届けるカナダのNGO「ウィメン・オン・ウェブ(WoW)」とデジタル権利団体「オープン・ネット・コリア」の訴えを退けた。訴えの内容は、韓国で19年以降ブロックされているWoWのウェブサイトへのアクセスを解放するよう求めるものだった。

同ウェブサイトでは10週目までの妊娠に有効な中絶薬ミフェプリストンを販売している。この販売が薬事法違反にあたるため、アクセスがブロックされているという。

WoWは最高裁判所に上訴している。

先の11の女性団体とNGOは声明で、中絶薬は主に闇市場で入手可能であると述べ、「現時点では政府が妊娠後期の中絶や匿名出産につながる状況を悪化させていると言っても過言ではない」と批判した。

強固なジェンダー規範

中絶を望む女性への支援はほとんど行っていないものの、韓国政府は7月、出産を奨励するべく経済的、身体的、精神的困難を抱える妊婦や出産したばかりの母親へのカウンセリングサービスを開始した。

権利擁護者らは、韓国社会の女性に対する態度から、より自由な中絶法がすぐに可決されることに懐疑的だ。

韓国の男女の賃金格差は経済協力開発機構(OECD)の中で最悪であり、労働力における女性の役割と影響力を測る英誌エコノミストのガラスの天井指数も10年以上にわたり最低を記録している。

尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は2年前、女性家族省を廃止するとの公約を掲げて当選した人物で、反フェミニストの若い男性らから支持を得ようとしている。

HRWのバーグステン氏は「(女性は)依然として家庭や子どもの主な世話係と見なされている」と指摘する。「これはジェンダーに対する非常に古い既成概念で、韓国では依然として根強く残っている」

先のユーチューバーが自身の体験を投稿した動機は不明。

警察は20代のこの女性と手術に関わったとされる病院を追跡するために動画を分析した。

警察はCNNの提携局YTNに対し、中絶手術を行ったとされる医師は別の病院から呼ばれた産科医だったと説明。名前を明かさないこの病院は当初、病院に所属する医師の1人だと嘘をついていたという。

警察によると、女性の病院の記録には死産だったと記されていたが、女性は中絶手術を受けたことも認めていた。

法学教授によると、胎児が生きて生まれてきたことを証明する十分な証拠があれば、女性は殺人罪で起訴される可能性があるが、警察がこの件を起訴するには、中絶以外の犯罪の証拠を見つける必要があるとの見方を示した。「中絶という犯罪はもはや存在しないので、医師も女性も中絶で起訴するのは難しいと思う」