コンタクトレンズ

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コンタクトレンズを使う時に、どんなことに気を付ければいいのか。眼科医の平松類さんは「1日使い捨てタイプのコンタクトレンズを繰り返し使うのは絶対にやめてほしい。最悪の場合は失明する重大なリスクがある」という――。
写真=iStock.com/gangliu10
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gangliu10

■日本人の約10人に1人がコンタクトを使っている

コンタクトレンズを日常的に使用している方はかなり多いのではないでしょうか。日本眼科学会によれば、その数は全国で1500万人〜1800万人とも言われ、国民の約10人に1人が利用していると推測されています。(*1)

コンタクトレンズを使う理由としてよく挙げられるのが、眼鏡をつけないでいいので見た目の印象が変わることや、動きやすいこと、快適性などです。

使い捨てタイプを愛用されている方が多いと思いますが、皆さんは「1day」や「2week」、「1month」といった使用期限はしっかり守っているでしょうか。「1dayだけど、使えそうなのでずっとつけてしまった」という経験がある方は意外にも多いかもしれません。

目の健康を維持するには、コンタクトレンズの正しい使い方が何よりも重要です。

今回は1dayのコンタクトレンズを1カ月も使い続けてしまったことで、最終的には失明寸前にまで至ってしまったケースを紹介します。コンタクトレンズは非常に便利ですが、使い方を誤ると非常に危険です。充分に気を付けていただければと思います。

■「1day」を1カ月も使い続けたらどうなるか

毎日忙しく事務仕事をしていた若手社員のAさんは、1dayのコンタクトレンズを使用していました。

いつもは1日で捨てていたものの、毎日ほとんど徹夜で仕事をしていたため、コンタクトレンズをしたまま寝たことがありました。その後、連続で使用していても特に不都合を感じなかったそうで、2日、3日……と1dayのコンタクトレンズの使用期間がどんどんのびていったようです。

「なんだ。大丈夫じゃないか」

そう思ったAさんは、結果として同じ1dayのコンタクトレンズをなんと1カ月も使用していたのです。Aさんは、当たり前のように使い続けることがだんだん日常になっていきました。

時には少しは目を休めないといけないと思い、たまに外してはコンタクトレンズケースに入れておくこともあったそうです。

しかし、コンタクトレンズを取るとむしろ目がゴロゴロして痛みを感じたそうで、「ならばコンタクトをしていた方がいい」と思いつけっぱなしにしていたようです。

■入院が必要なほど悪化していた

「何か目に白いところがあるんです」

Aさんは、「パソコンで仕事をしていたらちょっと見えにくくなってきた」とのことで、心配して眼科を訪れました。

実際にAさんの目を見ると、角膜という黒目の部分に、確かに白い部分がありました。それは「角膜潰瘍(かくまくかいよう)」という状態でした。

筆者撮影
角膜潰瘍を発症した目の例 - 筆者撮影

角膜潰瘍というのは黒目に菌が入って、黒目の状態が悪くなってしまうという病気です。視力が下がり、最終的には失明してしまうことさえあります。

さらに、Aさんの目は角膜潰瘍が起こった上に、目の中に菌が入って膿がたまってしまっている「前房蓄膿(ぜんぼうちくのう)」という状態でした。

「これは入院して治療が必要です」と伝えると、Aさんからは「そんなことを言われても仕事があるんです」と返されてしまいました。

仕事に影響が出て心配なのはわかるのですが、目の中にまで菌が入ると外来での治療は困難です。Aさんにはなんとか納得してもらい治療となりました。

この状態になると、目薬を処方するという治療だけでは対応できません。まず、Aさんには目薬で麻酔をしました。その後、黒目をナイフで削り、その削ったものからどういう菌が原因だったのかを調べました。

そして、その菌に対する抗生物質を点滴し、抗生物質の入った目薬をこまめにさしてもらって症状を抑え込むという治療が必要でした。Aさんは結果的に仕事も休まなければならず、長期の治療となってしまいました。

■なぜ1カ月もつけていたのに気付かなかったのか

Aさんは衛生環境の悪いところで生活しているわけでもなく、仕事も事務仕事、特別汚れたものが目に入る機会もありません。

ただ、Aさんは、コンタクトレンズの使用方法に問題がありました。そもそも1dayコンタクトは、名前の通り1日で使い捨てることを前提に設計されています。

洗浄液や水道で洗うと、傷をつけて劣化を進めたり雑菌が繁殖しやすかったりするのです。基本的なことですが、一度外したら再度つけてはいけないのです。

Aさんは1dayコンタクトを1カ月も使い続けていましたが、最初は角膜(黒目)への傷が小さなものですんでいました。その時にゴロゴロしたりちょっと充血していたようですが、「疲れているのか」と思い、あまり気にしていなかったようです。

またAさんは、たまに外した際に痛みを感じ、むしろ「コンタクトレンズを付けると楽になる」とも言っていました。これはなぜでしょうか?

角膜は非常に繊細な組織で、痛みを感じやすい場所です。そのためちょっと目にゴミが入っても激しく痛みを感じます。

けれどもコンタクトレンズを付けると絆創膏を貼ったかのように目の表面を覆ってくれるので、傷はついているけれども痛みを感じにくかったのです。

目に傷がついて、そこから菌が入っていたとしても、コンタクトレンズをつけることで症状が一時的に和らいでいたのです。結果的に症状を悪化させる原因にもなってしまいました。

しかし、細菌がいなくなったわけではありませんでした。むしろコンタクトレンズによってより傷つきやすくなり、菌が繁殖しやすい環境だったのです。最初はちょっとした傷だったのに、菌が目にしっかりとはびこって、最後は白い塊となってしまったのです。

その状態になると目薬程度で治すのは難しく、黒目を削ったり点滴などの治療が必要になってしまいます。ではAさんはどうすればよかったのでしょうか?

■コンタクト使用者はメガネも持つべき理由

Aさんの一番の問題は、連続使用を想定していない1dayのコンタクトレンズを長期間、使用したことです。

先に述べたように、1dayコンタクトは1日で使い捨てることを前提に設計されているため、何日も何カ月も使用することは想定されていません。一般的に1dayは2weekと比較すると耐久力が低いともいわれています。

Aさんは、目の不調を感じた時点で眼科にかかるべきでした。そうすれば、目薬だけで治療が事足りた可能性が高いです。また、コンタクトレンズの使用を中止してメガネにするべきでした。そうすればここまで深刻な状態になることはなかったかもしれません。

痛みが出るということは、逆に目の不調を体が教えてくれていたのです。その時点で、本来はメガネにかえるべきだったのですが、Aさんは持っていませんでした。

Aさんのようにコンタクトレンズだけを使用しているという方は結構います。メガネも買うと値段が高くなるということが理由です。

ただ、眼科医としては、コンタクトレンズを使用する場合は必ずメガネも購入してほしいのです。なぜならコンタクトレンズは、基本的には目にとって異物です。このように不調を起こすことが散見されるからです。

不調を起こしてもメガネがないからという理由でコンタクトレンズを使用しつづけるのは、症状を悪化させてしまうだけです。ですから「メガネだけ」または「メガネ+コンタクトレンズ」という状態はあっても、「コンタクトレンズだけ」という選択肢はないと思ってください。

写真=iStock.com/AtlasStudio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AtlasStudio

■「2week」にもリスクがある

コンタクトレンズには2weekというものもありますが、2weekなら1カ月使用しても問題ないというわけではありません。

どちらも基本的に素材は一緒です。HEMA素材やシリコンハイドロゲル素材などがあり、作り方に関してもキャストモールディング製法・レースカットなどありますが、今はキャストモールディング製法というのが多いです。

一般的には2weekはあくまでも1dayと比較すれば耐久力があるともいわれています。それは、2weekの場合は「こすり洗い」をして連続的な使用を想定しているからです。ただ、そもそもこすり洗いをして保存をするということにも一定のリスクがあります。

実際に目の感染症は1dayを使用している人より2weekを使用している人の方が起こりやすいこともわかっています。なので、眼科医が考えるコンタクトレンズの最も衛生的な使い方は、“1dayコンタクトレンズを1日使用して捨てる”ことに尽きます。

2weekをコンタクトレンズケースに保存して感染症にかかった患者さんの事例では、ケース自体がびっしりと菌によって汚染されていたということがありました。

洗ってるから安全、というわけではないのです。なので、コンタクトレンズを使用している方は、できる限り1dayを使用し、1日で捨てるほうがよいと思っていただければと思います。

■購入時に見るべきポイントは「酸素透過率」

では、1dayをつけるのが良いとして、どういうコンタクトレンズを選べばいいのでしょうか? 商品を見ると、パッケージには「目に優しい」とか「うるおい」などと書いてあります。また、含水率●●%という表示もあります。

目に優しい、うるおいと書いてあるのがよいのでしょうか? それとも含水率が高いほうがいいのでしょうか?

写真=iStock.com/jjpoole
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jjpoole

まず、「目に優しい」とか「うるおい」という表記は、あくまで同じコンタクトレンズメーカーの他の商品と比較してどうだったか、ということを表しているに過ぎないことに注意しなければなりません。

それより注目すべきは、「Dk/L値」というものになります。これは酸素透過率(さんそとうかりつ)と言います。

先にも述べましたが、コンタクトレンズというのは目にとって異物です。本来目は丸裸なので、コンタクトレンズをつけても酸素がきちんと目にいきわたるようになっているかが重要です。

そこで、どのぐらい酸素を目に供給しやすい状態にあるのかを表すのがDk/L値です。この数値が高いほうが目にとっては良いコンタクトレンズと言えますので、参考にしてください。

一般的な「HEMA素材」のコンタクトレンズは価格が安い分、Dk/L値は低くなりやすいです。一方で「シリコンハイドルゲル素材」であれば、Dk/L値は高くなりやすいです。コンタクトレンズは素材がその性能を大きく左右しています。

■「たくさん水を含んでいる=うるおう」は間違いなワケ

また目の乾きを防ぎたいとの理由で「含水率は高いほうがいい」と思っている人も要注意です。

「水を含んでいるのでその方が乾きにくい」と思われがちですが、実際は逆です。含水率は低い方が、目が乾きにくいのです。これはなぜでしょうか?

含水率というのはコンタクトレンズ自体が水を含む能力です。水をたくさん吸えるスポンジをイメージしてください。つまり含水率が高いとコンタクトが乾いた際に目から水分を取っていってしまうので、むしろ目は乾きやすくなるのです。

ここが勘違いしがちな点です。なので、もし目の潤いを重視したいなら“含水率が低いもの”を選んだほうがいいでしょう。

稀ですが、コンタクトレンズを販売する店員側もわかっていないケースがあります。「目に優しい」とか「潤いがある」などと言われても、営業トークの可能性もあります。本当にそうなのか、これらの知識をもとに確かめることが大事です。

また、コンタクトレンズにはご紹介した「Dk/L値」や「含水率」以外にも、「BC(ベースカーブ)」・「屈折度数」など多くの数値があります。よくこの屈折度数さえあっていればいいと同じ度数のコンタクトレンズをネットで探して使う人がいますが、これはオススメできません。

仮に度数が一緒だとしても、その他の数値まで全く同じ、自分に合っているとは限らないのです。そのため、コンタクトレンズを使用する際には、必ず眼科で自分の目に合っているかどうかの確認が必要です。

再三申し上げますが、コンタクトレンズは目にとっては異物です。適切な使用をしなければ、失明などの大きなトラブルにつながります。眼科医の処方なしに買うこともできますが、目の健康を損なうリスクが大きく伴うことは認識してください。

「1dayだけどちょっとくらい使い続けても大丈夫」「目がゴロゴロしているけど問題ないだろう」という発想は危険です。少しでも異変を感じたら眼科へ受診してください。

(出典)
*1 日本眼科学会「コンタクトレンズ障害」

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平松 類(ひらまつ・るい)
眼科医 医学博士
愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。「あさイチ」、「ジョブチューン」、「バイキング」、「林修の今でしょ! 講座」、「主治医が見つかる診療所」、「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は20万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』(時事通信出版局)、『自分でできる!人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。
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(眼科医 医学博士 平松 類)