捜索を見守る谷野利一さん(左)=2024年9月26日午後2時32分、石川県能登町、金居達朗撮影

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 石川県の能登半島を襲った記録的な大雨で、能登町の山間部にある北河内地区も大きな被害を受けた。

 地区に住む谷野利一さん(71)が26日、増水した川に流され行方がわからない妻まち子さん(68)の捜索を見守っていた。

川に堆積(たいせき)した泥を放水で流し、行方不明者を捜索する消防隊員ら=2024年9月26日午前11時51分、石川県能登町、金居達朗撮影

 利一さんによると、21日午前9時ごろ、地区を流れる河内川があふれ始めた。自宅近くに止めた車を高台に動かすため外に出ると、土砂や流木を巻き込んだ川が「ゴー」と轟音(ごうおん)を立てていた。足元はひざ丈まで水につかり、「あと少しでも残っていたら、流されていた」と振り返る。

 車の移動を終え、自宅に戻ろうとすると、自宅から外に飛び出してきた長女が言った。「お母さんが、お父さんの後をついていった。流されてしまったかもしれない」

 血の気が引き、頭が真っ白になった。消防に連絡したが、土砂崩れで地区は孤立状態になっていて、何もできなかった。翌日から本格的な捜索が始まったが、流木や大きな岩、土砂が作業を阻む。

 まち子さんは町内の病院で看護師として勤め、定年を過ぎても臨時職員として働いている。利一さんは「真面目で仕事熱心で優しい人。あの時も私のことが心配で、様子を見に来たんだろう」と話す。

 元日の地震後、辛うじて無事だった自宅で、2カ月の停電、4カ月の断水を2人で乗り越えてきた。生活がようやく落ち着き始めた矢先の大雨だった。

 谷野さん夫妻は結婚して46年になる。まち子さんは来年退職することを考えていたという。地震を乗り越え、仕事を終えたら、「あとはのんびり過ごしていくだけだった」。

 利一さんは「一刻も早く見つかってほしい。そして、感謝の言葉を伝えたい。長いこと一緒にいてくれてありがとうって」とまち子さんの発見を待つ。(金居達朗)