【森 功】ユニクロ柳井会長の口からなぜ「日本人は滅びる」発言が飛び出したのか…ヤバすぎる結論に至るまでの苦悩

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日本を代表する経営者の口から飛び出した「日本人は滅びる」発言。危機を前にしても動かない国民への脅しか、それとも絶望から出た本音か。過去の発言や証言から、「柳井発言」の真意を読み解く。

日本の経営者は何もしない

「人生は希望がなければ、生きてはいけない。希望を持とう。希望を持って生きていこう」

かつてこの国の未来を信じ、力強くこう語りかけていたビジネスリーダーは、いったいどこで変節してしまったのか-。

日本のアパレル界を牽引し、ユニクロを世界有数の企業に育て上げた柳井正ファーストリテイリング代表取締役会長(75歳)の過激な発言が波紋を呼んでいる。発端となったのは、8月26日に放送された日本テレビの報道番組だ。単独インタビューに応じた柳井氏は、記者からの「日本の未来はどうなると思うか」という質問に、こう答えた。

「日本は日本人だけでこれからやっていけないでしょう。(外国人を受け入れてはいるが)単純労働者ばかり入れている。知的労働者をもっと入れて、生産性を上げるための勉強を日本でも海外でも一緒にやらないと」

「(日本は)中流階級の国から、そうじゃない国になったっていうことを、もっと自覚してやっていかないと。少数精鋭で仕事をすることを覚えないと、日本人は滅びるんじゃないですか」

〈このままでは日本人は滅びる〉とタイトルが付けられたこの動画がネットで公開されると、SNSを中心に大論争が始まった。特に注目を集めたのが、ZOZO創業者・前澤友作氏の「反論」だ。知的労働のできる外国人をもっと増やすべきだという柳井氏の主張について、

〈僕はそれじゃ日本は変われないと思います。勝ち組とか負け組とか完全能力主義ではない、みんなで一緒にやるぞ!という精神が日本人の根幹にあるのでは〉

と持論を述べたのだ。

白熱する論争

前澤氏が参戦したこともあり、論争は沸騰。1ヵ月近くが経ったいまも炎上状態が続いているが、「滅ぶという言い方はともかく、柳井さんの発言の主旨は私の考えとも一致します」と賛意を示すのは、'09年から'20年までネスレ日本のCEOを務めた高岡浩三氏だ。

「柳井さんの発言は『外国からも高度人材を受け入れて企業のイノベーションを推進し、生産性を上げなければならない。イノベーションにより生産性が上がれば必然、業績は向上し、従業員の賃金も上がり、日本経済は好転する』という、経営者からみれば至極まっとうな主張です。この考え方そのものに反対する経営者は少ないはず。

ところが日本の大部分の経営層は、生産性を上げる努力をまったくしていません。いま、日本企業全体で600兆円という、GDPと同じレベルの内部留保が積み上がっています。これらを新規事業開発や業務改善のための投資に回したり、あるいは高度人材を採用する原資にすれば、日本企業の生産性は向上します。すると、次第に従業員の給与は上がり、国内の景気も上向きになる。

それがわかっているのに、日本の経営者は『自分たちのいる間だけしのげればいい』という保身のためにまったく動こうとしない。役員報酬は上げるのに、従業員の賃金は理由をつけて一向に上げようとしない。柳井さんはこうした状況に苛立ちを感じ『このままでは日本人は滅びる』と発言したのでしょう。

私が働いていたネスレのスイス本社では、20年ほど前から日本市場のことがまったく話題にならなくなりました。いま日本は、海外企業から見放されつつあることを自覚しなければなりません」

柳井氏の「危機感」は正しいのか

'00年から7年間にわたりペンタックスの社長を務めた浦野文男氏(現・エクスキャリバー代表)も、柳井氏の危機感を共有する。

「海外企業のビジネススケールもスピード感も、日本とは段違いです。激しい競争に勝ち抜こうと、国籍を問わず優秀な人材を、それに見合う対価を払って集めている。『少数精鋭』という考え方も、海外企業では当たり前。残酷な響きがありますが、要は会社から決定権を持たされた優秀な人材が、即断即決で物事を決めていくということです。

翻って日本は、海外から優秀な人材を受け入れるための環境も制度も意欲もない。ならば日本人だけで頑張ろうという気概があるのかといえば、優秀な人材に高い報酬を与えることもせず、責任も与えず、ただ会社が決めたことを命じて実行させるだけ。このままでは日本企業が国際競争に勝てず立ち行かなくなる。柳井さんの危機感は、決して大げさなものではないと思います」

後編記事『「日本人は滅びる」と言い放ったユニクロ柳井会長がコロナ後にブチまけていたヤバすぎる怒り』へ続く。

『週刊現代』2024年9月28日号より

「日本人は滅びる」と言い放ったユニクロ柳井会長が、コロナ後にブチまけていた「ヤバすぎる怒り」