『スカイキャッスル』©テレビ朝日

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 必死で守ってきたつもりが、それがいつからか自身を縛り付ける足枷になっていた。気づけばいつの間にか目的と手段が入れ替わって本末転倒になってしまったり。善意や親心の下に親は“子どものため”と時に一方的で過剰な期待をかけ過ぎる。それは子どもが自発的に抱いた夢なのか、それとも親が子に託した夢なのか。その境界が曖昧になっていく。そこにプライドやらマウントが加算され、一体全体何と闘い、何のために奮闘しているのかさえ見失ってしまう。

参考:『スカイキャッスル』『夫の家庭を壊すまで』『嗤う淑女』 夏ドラマで異彩放った“悪女”たち

※本稿は最終話の結末に触れています。

 『スカイキャッスル』(テレビ朝日系)最終話は、この街に住むそれぞれの家族が知らず知らずのうちに毒され執着してしまっていた憧れや外聞から解放される“リスタート”が描かれた。

 未久(田牧そら)が亡くなった裏にはやはり受験コーディネーター・九条彩香(小雪)が関わっていた。九条の予想問題の脅威的な的中率の秘密を知った未久は自ら彼女の下に出向き、浅見瑠璃(新井美羽)の帝都医大付属高校受験を失敗させてほしいと交渉していた。そして自分は実力で合格し父親である英世(田辺誠一)からの関心を引きたいと考えたようだ。あんなに大胆な行動に出て大人びているかに思えた未久からも「親からの愛情を一心に浴びたい」というごくごく子どもらしい純粋な願望が滲み安堵するとともに、そうまでして父親に振り向いてもらいたいと願う彼女の健気さが切ない。

 同時に、子どもにとって親からの関心や興味を集められないということは、そっくりそのまま自身の存在意義や大袈裟ではなく、命にまで関わる問題になることを感じさせられる。

 そして、それは九条だって同じだった。彼女もかつての教え子・冴島遥人(大西利空)同様に親の期待を一身に背負って臨んだ帝都医大付属高校受験で合格するなり自主退学し、親を幸せの絶頂から不幸に突き落として自殺に誘導していた。しかし、それは未遂に終わり、彼女の母親は脳の後遺症を抱えながら介護施設で過ごしている。

 何かに取り憑かれたように窓いっぱいに数式を解きながら、彼女の中では中学生のままで止まっている娘に勉強を教えているつもりの母親の姿は、まさに子どもに期待を寄せその人生をもコントロールしようとしすぎた余り、自身の人生を乗っ取られてしまった母親の見るも無惨な亡骸かのようだった。

 九条が紗英(松下奈緒)に向かって言い放った「子どもの教育も自分の虚栄心を満たすため」「子どもは自分を引き立てるアクセサリー」どころか、もはやそのアクセサリーに本体を乗っ取られて蝕まれてしまっているさまはあまりに哀れだ。

 それはモラハラ夫から「翔の未来は翔のものです」と息子オリジナルの人生を守り抜区ために離婚届を突きつけた二階堂杏子(比嘉愛未)の凜とした姿とは正反対だ。また、子どもに恥じぬ背中を見せられるようにと「嘘で塗り固めた権威など必要はありません」と大病院の隠蔽を公表することに踏み切った英世の信念とも真逆だ。あるいは、南沢青葉(坂元愛登)のために、我が子に不利になるかもしれない情報に行き着く可能性のある携帯データを復元する勇気を持てた紗英とも。

 未久が亡くなってしまったのは、九条の秘書(前原滉)と揉み合った末の不慮の落下事故からであることがわかったが、結局九条も母親断ちに成功したかに見えて、その過去の一点に今なおずっとずっと囚われ続けている。

 いまだに母親の支配下にある子どもにかつての自分を重ね、自身の母親かのような行き過ぎた教育ママに復讐を繰り返し、何とか自分の過去を正当化しようとしているように思える。あるいは自分と同じ状況に子どもたちを道連れにし、安堵しているかのようにさえ思える。九条からすれば、自分の思い通りにはならなかった紗英は予想外ながらも、一縷の希望にもなったのかもしれない。

 同じような生活水準や価値観を共有する者だけが住むエリアで暮らし、そんな家庭の子どもが通う学校に身を置いていると、よりその偏った価値観を強固なものにしてしまうことがあるだろう。しかし、そんな窮屈な世界でしか夢を描けないのではなく、できるだけ制限を取っ払った真っ新な状態で自由に夢を描き、自ら手を伸ばせる勇気や行動力を養わせることこそが何よりの親から子どもへのギフトかもしれない。

 スカイキャッスルを去る浅見一家の表情は晴れ晴れとしていて、そこには何にも脅かされない幸せが確かに横たわっているように見えた。

(文=佳香(かこ))