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理不尽な要求を通そうとするカスハラ客のなかには、ウソまでつくとんでもないヤツもいる。今回は、そんな迷惑客が来店するも特殊な事情で追い払うことができたという前島久美子さん(仮名・50代後半)のエピソードを紹介したい。
◆個人飲食店を夫婦で切り盛り

久美子さんは、60代の夫と小さな飲食店を経営している。ほとんどが常連客で、ランチタイムのピークを過ぎればあとはのんびり。コロナ禍や材料費・人件費の高騰などの影響を受けながらも、なんとか夫婦2人で切り盛りしていた。

「毎日が、平穏という感じ。多少の迷惑客はいても、世の中で騒がれているカスハラのような悪質なお客さんには遭遇したことがありませんでした。でも少し前から、お客さんの少ない時間帯になると、50代後半ぐらいの態度の悪い男性客が店に来るようになったのです」

そして、「水がぬるい」「ラーメンのスープがアツアツではなかった」など、とにかく文句を言ってくる。もちろん、単なる“いちゃもん”だ。それでも久美子さんは、そのたびに水や商品を取り替えるなどして対応してきた。それは、客とモメたくない一心から。

「水も氷をたくさん入れたボトルから注いでいるし、ラーメンだってアツアツのスープでタレを溶いて提供しています。ほかのお客さんと同じように対応しているので、その男性客からだけ不満が出るなんて、ありえないことでした」

◆「髪の毛が入っていた」と言い出して

それでも、「時間が経ってからそう言われてしまえば、触って確認してもぬるかったりアツアツではなかったりするので、下手にモメてほかのお客さんに悪印象を与えてしまうのが怖かったのです」と続ける。そんなある日のことだった。

「その男性客が『髪の毛が入っていた』と言い出したのです。私がテーブルへ商品を提供する係を担当していたので、自分の髪の毛が入ったのかもしれないと思い、すぐに『申し訳ございません』と謝罪。『どちらに髪の毛が入っていたのでしょうか?』と尋ねました」

すると男性は、「丼の奥に埋もれていたから、セットのラーメンは全部食べちゃったよ。そういう事情だから、丼のほうもこれだけしか残ってないけど、髪の毛が入ってたんだから、お金はいらないだろ?」などと言い放つ。いろいろ考えを巡らせ、固まる久美子さん。

「そんな私に向かって男性客は、さらに『きちんと謝れよ、ホラ』と強気な態度で迫ってきました。けれど、丼に埋もれていたという髪の毛は、あきらかに私の髪ではないような短い毛(まつ毛などとは違う毛)です。すぐに、これも“いちゃもん”だとピンときました」

◆厨房に入っている夫の頭髪は…

なぜなら、厨房担当の夫は最近、髪の毛が薄くなってきたことに悩み、スキンヘッドにしたばかりだったから。しかも、人件費や材料費などの高騰に対応するため、ここ数か月は夫がワンオペで厨房に立っていたのだ。

「私といえば、店や家計を支えるために、店の営業時間以外は息子が経営する小さな会社で経理を担当していたのです。そのため、ここ1年ほどは厨房に立ち入ってもいなかったので、髪の毛が丼に埋もれるように入るはずがありません」

店内にお客さんがいなかったことも手伝い、これまで抑えてきた怒りが爆発。久美子さんは、「うちの厨房はツルピカの主人しか立ち入ってないので、髪の毛が丼の奥に埋もれるはずがありません!」と強気な態度で抗議した。

「勢いに乗って、『これまでのことも、 “いちゃもん”って気づいてますよ!営業妨害として警察や弁護士さんに相談させていただきますね』と毅然とした対応をしたところ、男性客の態度が急変。『あ…あぁっ…こ、これって…ぼ…僕の髪の毛かな…?』と言い出したのです」

◆しどろもどろになった男性客

そして、狼狽えた声で「そうかも…。そんな感じがしてきたぞ…」などと言いながら、「あ、お会計」と、サッとお札を取り出したとか。苛立ちながらも久美子さんがお釣りを渡すと、男性客はスーッと店から出て行き、二度と現れることはなくなったという。

「今回は夫がスキンヘッドだからよかったようなものの、あんな言いがかりをつけてくる悪質な人が本当にいることに驚きました。ただ、最初の段階で毅然と対応しなかったことが相手の要求を大きくしてしまった部分もあるのかもと、反省にもつながっています」

久美子さんはそれ以降、普段からなるべく毅然とした対応を心がけているという。このあとカスハラ行為をおこなった男性客がどうなったかは不明だが、ウソがバレて恥ずかしい思いをしないよう、理不尽な行為は慎んでもらいたいものだ。

<TEXT/山内良子>

【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意