偽造された高島屋の値札に騙された50代女性の末路…「ピンクダイヤ」詐欺の巧妙な手口
信頼の裏に潜む危険
どんなに長く信頼関係を築いてきた人でも、あなたを騙さないとは限りません。その逆に、いつの日か、騙すタイミングをみつけるために相手と長く信頼関係を持ち続ける人もいます。
いずれのケースだったのかはわかりませんが、田代さん(50代女性・仮名)は、嶋田氏(仮名・男性)に誘われて、ピンクダイヤを購入して被害に遭いました。すでに田代さんは警察署に告訴状を提出しており、23年7月に受理されて、捜査が行われています。
「嶋田とは、20年にわたって彼の美容院に通っていて、旧知のなかでした。私自身、医療関係者なので、彼が美容関係の商品開発を始めた時に特許を取りたいというので手伝いもしました」と田代さんは話します。
新型コロナが蔓延する前には、彼が主催する飲み会に、彼女はよく顔を出していました。
「その時、テレビにも出ている元オリンピック選手もきていました。彼からは色んな著名人の話も出てくるし、実際に様々な場で会うので、それだけ交流がある人だと信じていました」(田代さん)
高島屋の値札に隠された罠
そうしたなかで、2021年に田代さんは、嶋田氏から「高島屋店舗で販売中の売れなかった希少価値の高いピンクダイヤがあるので、買いませんか?返品処理をすれば、高島屋のつけた値段より安く販売することができる」と持ち掛けられます。
値段は1000万円です。
嶋田氏は「すごく安く手に入るんだ。実際の価格はもっと高いんだけど。実際に売ったら結構いい値で売れるものだし、これを転売すれば、利益を出せるから。売る時には、自分が転売をしてあげるから」ともいいます。そして、LINEで「2200万円」の高島屋の値札がついたものも送られてきます。
田代さんは「2200万の高島屋の値札やGIAの鑑定書も付いてたので、間違いがないものだと思いました。彼との付き合いも長かったし、すごく勧められて。それにきちんと転売してもらえるのならいいかな、と思って購入したんです」と話します。
後日、嶋田氏の経営する美容室に1000万円を持っていきます。そして2日後くらいに商品を受け取ります。
本人に高額商品を買ったことを後悔させないためなのか、後日、嶋田からは次のようなメッセージも送られてきています。
「今の価値で高島屋に出たら最低でも3500万円らしいです」さらに、先日購入したピンクダイヤを「1700万円で買いたい方が出てきました。販売しますか?」と尋ねてきます。
彼女が売却のお願いをすると、「嶋田からは本当に『売ります?もう、手に入らないんですよ。価格が落ちないので、もったいないですよ』といわれて、ダイヤモンドの売買については、素人なので、もっと値が上がった時に売った方が良いというアドバイスだと思って『もう少し値が上がるまで待ちます』と答えました」といいます。
その後も「最低卸し価格が2000万円からみたいです」「高島屋で5700万円らしい」と、値段がどんどん上がっている様子を伝えられます。
数ヶ月後、次の商品を紹介されます。
「絶対に損はさせません」
「3カラットのピンクダイヤなんですけど、950万でどうですか」
田代さんは宝石店を経営している知人にダイヤの写真を見せて値段を聞くと550万円という答えが返ってきました。そのことを嶋田に伝えると、高島屋の宝石商、インドの宝石商からきたというメールが転送されて、このダイヤがそのような値段ではないことや高島屋が1500万円で買い取って4000から4500万円の販売価格になることを伝えてきました。
しかし彼女は「やはり高いから、無理です」と断ると、860万の値段を提示してきます。
嶋田氏は「本当にお得だし、買いたい人もたくさんいるんだけど。万が一、損がするようだったら、この値段で引き取りますから」といわれます。
「絶対に損はさせません」「私がすべて保証します」「100%裏切りません」などというメッセージも頻繁に送られてきて、田代さんは購入することにしました。
翌年の5月、田代さんは子供の学費にお金が必要となり、「ピンクダイヤを売ってください」とお願いをします。
しかし嶋田からは「(ダイヤの)価格が高騰しすぎで、一般の買取りは厳しいみたいです。今は、売り時ではない」などといわれますが、彼女は「どうしても売ってほしい」「利益出さなくてもいいから、購入した時の価格で売ってください」と懇願します。
すると嶋田は「来週、某有名企業創始者の奥さんが、僕のとこにダイヤ買いにくるから、勧めてみます」と答えます。
しかし嶋田氏からは「創始者の奥さんは別の宝石を買って行かれました」という残念な報告を受けます。しかし田代さんは値段が上がっているのに、売れないはずはないと違和感を覚えて、創始者の奥さんの会社に電話をしてみました。
「すると驚くことがわかりました。創始者の奥さんは1980年代の終わりに亡くなったんです。嶋田のいうことは、嘘だったんです」(田代さん)
偽造値札の証拠を隠滅か
さらに、田代さんは高島屋に宝石の件を聞いてみます。
高島屋からは、値札について「(当社ではなく)別の宝飾メーカーの値札作成器で作られてます」といわれます。
「値札を見ればわかりますが、文字が重なってるんですよ。値札の表示方法には決まりがあるようで、高島屋のお店の方からは『当社は法に従って作成していて値札の文字が重なっているようなものはありません』といわれました」(田代さん)
疑念を抱いた田代さんは、さらにダイヤモンドの鑑定をしてもらいに行きます。
しかし1個目の高島屋のダイヤモンドは「糊付けされてて、ケースが開かないんです。鑑定を依頼した先からは、壊すとダイヤが傷つく可能性があるといわれて、みてもらえませんでした。2個目宝石(当初950万といわれていた)は、数社にもっていき230万から350万円くらいの値段とのことでした。購入した金額の半分程度の価値しかなかった」ということです。
ケースが開かないのでその件を高島屋に確認しようと電話をしていると、嶋田からは「高島屋に電話するな」とLINEがきて、まもなく嶋田がやってきました。
「22年の7月に、1個目のピンクダイヤを1000万円で引き取ると言ってきたんです。そしてお金と引き換えに、宝石を渡しました。その後、彼のところに警察の捜査が入ったんですけど、現物が処分されてなかったそうです」
これに対して、田代さんは「嶋田が偽造した値札の証拠を隠滅する疑いも感じている」としています。
高級デパートの名を悪用した巧妙な詐欺手口
いずれにてしても、大手デパートの名前を使っての詐欺行為の疑いが高くなっています。田代さんは「嶋田が以前『ダイヤが安く手に入りますよと言ってあげてもだれも買おうとはしないけど、高島屋のダイヤが安く手に入りますよというと、みんな買うんです』と言っていましたので、高島屋の信用を悪用して詐欺行為を働いたのだと感じています」と話し「あくまでも嶋田は売り子みたいな形で、勧誘して利益を得ていただけで、彼のバックには高島屋ではないメーカーからダイヤモンドを横流ししている別な人物がいる可能性もある」と指摘します。
嶋田氏のSNSには、高級車、高級時計などをアップして、豪華な生活ぶりをアピールする写真が並べられています。それを見て、田代さんもお金持ちなんだと信じてしまったそうです。
「おそらく、こうした偽りの高島屋などの値札を見せられて、転売で儲けられると言われて、お金持ちをアピールしている彼から宝石を他にも買った人がいるのではないかと思っています。そうした方にも、被害に気づいて欲しい。4〜5年以内に百貨店のダイヤモンドを購入した値札をよく確認して欲しい」と田代さんは訴えます。
もし彼が売り子として動いていたとすれば、その背後には別な人物も絡んでいることになり、田代さん以外にも宝石を売りつけられた人がいる可能性はあります。この事件による被害はさらに広がりをみせることになるかもしれません。