NISAってやるべき? 老後のお金はどうすべき? 昨今の投資ブームにちょっと気圧されている女史会メンバー。今回は24万部超のベストセラーを記録しているビジネス書『きみのお金は誰のため』の著者・田内学さんのお話を聞くことに。ゴールドマン・サックスのトレーダーだった田内さんは、「お金は偉くない。人を中心とした経済を」と説く金融教育家。女史会メンバーの「お金の疑問」に答えていただきました。『週刊文春WOMAN2024秋号』より抜粋してご紹介します。

【画像】子どもが将来は「お金持ちになりたい」と話すという渡辺満里奈さん


(右から)田内学さん、松本孝美さん、渡辺満里奈さん、野宮真貴さん

国内でお金が回らない理由

渡辺 経済に関する本って、どうやってお金を貯めるかとか、そういったハウツーが書いてあるものが多いと思うんですが、田内さんの本は全然そうじゃなくて。「お金って何だろう」ということが青春小説として書かれていて。結構、目からウロコでした。これは絶対子供たちに読ませるべきだなって。

 うちの子たち、将来何になりたいかって聞くと、「お金持ちになりたい」って言うんです。「じゃあ、お金持ちになるために何になるの?」って聞くと、「社長になりたい」って。「何の社長になるの?」って聞くと、「なんでもいいからお金を稼ぎたい」って。そのとき私は、「そうか、じゃあ頑張れ」ぐらいしか言えなかったんだけど、本を読んで考えさせられました。

 大事なのはお金を貯めることじゃない、この先どんな未来を描くのかに思いを馳せることだと。でもそれはわかるんだけど、なんかこう将来が不安で……。

野宮 日本大丈夫? って感じだものね。来年年金受給年齢だからすごく思う。

松本 私も。でも不安だからといって、椅子取りゲームのようにお金を奪い合うのではなく、日本を成長させるためにお金を回していかなきゃ、と田内さんの本には書かれていて。そこで、なぜ日本ではうまく回らなくなってしまったんだろうと思ったとき、オレオレ詐欺や投資詐欺の被害総額が何億、何十億円っていうニュースを頻繁に目にするので実はあるところにはお金はあるのになあって。

田内 お金が回らない理由はいろいろとあって。物価は上昇しているのに賃金が上がらないから、というのはよく言われていることですが、いまの日本は海外からの輸入に頼っている、というのが実は結構大きいんです。6月、7月には1ドル160円台まで円安が進みましたが、そうなると、日本製品が売りやすくなり、輸出でたくさん外貨を稼ぐことができる。

 結果、輸出で手に入れたドルで円を買うことになり、円を買う方向に為替市場が動き円高になっていく。でも、海外の人に買ってもらう肝心の「モノ」が日本にはない。だから、なかなか円高に進まない。

 何がいま日本で売れているかというと、インバウンドと不動産。しかも不動産は都内の中心部限定。僕の友人も3年前に買ったマンションを売りに出したら購入価格の1.8倍で売れたらしいんです。70平米で2億円弱。しかも10組内見に来て全員中国と台湾の人たちだったという。

女史会 ああ……。

田内 昔は、不動産価格が上がれば景気がいい証拠と言われてました。だけど、いまの時代は賃金が上がらずに、海外の人が買っているから値上がりしているだけ。儲けているのはマンションを持っている人だけなんです。

松本 国内でお金が回っているから、値上がりしているわけじゃないんですね。

田内 そうですね。

日本挙げてのNISA推しだけど、私たちもやるべき?

渡辺 だから漠然とした不安が大きくなるのかな。老後のためにはどれくらいお金が必要なのか、お金を効率よく増やすにはどうすればいいのか、そういうことばっかり考えちゃう。

田内 しょうがないんです。そういうゲームに僕らは乗せられちゃってるから。

女史会 ゲーム!

田内 なので、いまどういうゲームを自分たちがプレーしなきゃいけないか、ということを考える必要があるんです。例えば、老後の資金を貯めるゲームをするとします。最近は投資ブームだから、NISAでオルカン(注:オール・カントリー。日本を含む先進国・新興国の株式を主要投資対象とする取引)で外貨を買えばいいとか、いろいろみんな言いますよね。

野宮 うちの夫も始めてる。「このままなんとか逃げ切りたいから」って(笑)。

渡辺 すごいですよね、日本挙げてのNISA推し。

田内 日本人って、同調圧力に弱いし、周りが何をやってるかをすごく気にするんです。ただ、気をつけてほしいのは、基本、「儲かっている人の声がでかい」ということ。SNSで「NISAありがとう」とか「俺は何%増えた」とか、みんな儲かっているタイミングで声が大きくなるんです(注:対談後の8月5日、日経平均株価は暴落)。ビットコインのときもそう。でも暴落するとみんな黙っちゃって、いちばん最後に高く買わされた人たちがババを引く。

 もちろん、投資はギャンブルとは違います。ただ、本質的な部分で、そのお金が日本の成長に回っているのかというと、残念ながらそれは少ない。……話が逸れましたね。何の話でしたっけ(笑)。

松本 いま私たちは投資ブームに乗るべきか否か。

本来の目的を見失わないように

田内 でも、30〜40年前を振り返れば、個人が投資なんてしなくても日本は成長していたんです。預金をするだけで8〜9%の利息がついた時期もありましたから。

野宮 バブルの頃?

田内 ですね。60年代の高度成長期もそうでした。そもそも「金融」って、「お金を融通する」ことなんです。個人から預かったお金を銀行が融通してあげることで企業が新しく工場を作る、新しい研究開発をする、それで儲かったお金が融資の利息や配当などに回っていく。昔はそれでうまくいってたんです。

 でも、1999年以降、金利が低い状況が続いているのにお金を借りて新しく何かを作る人が出てこなくなった。すると銀行は儲からない。預金してもらっていても、貸す相手がいなければどうしようもない。じゃあ、預金者に投資商品を買わせようと。で、みんながわーっと株を買って、どんどんマネーゲームになっていった。

 でも考えてみてください。みなさんのゲームの目的は?

渡辺 老後の資金です。

●退職金を一度にもらうか年金型にするか迷うサラリーマンへのアドバイスや、田内さんがゴールドマン・サックスを2019年に退職した理由や初恋の相手と結婚したエピソード、若い人への「投資されるような人になってください」というメッセージに込めた思いなど、座談会の全文は『週刊文春WOMAN2024秋号』でお読みいただけます。

文・辛島いづみ 写真・釜谷洋史 ヘアメイク・三上津香沙(渡辺)

田内学さん お金の向こう研究所代表
たうちまなぶ/1978年生まれ。2003年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。ゴールドマン・サックス証券で16年間、日本国債や円金利デリバティブなどのトレーディングを行う。退職後に執筆活動を始め、2023年『きみのお金は誰のため―ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)を上梓。

のみやまき/1960年北海道生まれ。ピチカート・ファイヴのヴォーカリストとして90年代渋谷系ムーブメントを起こす。モバイル・ファンクラブ「おしゃれ御殿」好評募集中。
www.missmakinomiya.com
​インスタグラムアカウント @missmakinomiya

まつもとたかみ/1965年大阪府生まれ。80年代後半、ソニーなどの名CMでCM女王と呼ばれる。本人がプロデュースした更年期世代の女性に嬉しいアイデア満載の『大人の女史会』×「natiaral」のコラボアパレルが発売中。
​インスタグラムアカウント @t_mimi1414

わたなべまりな/1970年東京都生まれ。86年、おニャン子クラブでデビュー。翌年の解散後も歌手、タレントとして活躍。2000年代には台湾旅、ピラティスのブームの火付け役にも。
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(辛島 いづみ/週刊文春WOMAN 2024秋号)